第6話 旅の準備

 ――その後月日は流れ、塾が残り3日になった日


 レノンは、冒険者ギルドを訪れ、受付に依頼内容を説明する。


「商人の護衛を依頼したい。日にちは10日。シルバーヘイブンからイリシウムまで。食事は私が全額出す。報酬は10,000ゴールド。ランクはD以上で頼む」


 レノンが依頼内容を言うと、受付は木の板に内容を書いて、掲示板のところにその木の板をかける。

 

「これで募集の手続きは終わったので、一日に一回は受注者の確認のために冒険者ギルドの方へいらしてください。依頼者が確認を行わない場合、1週間で依頼の削除をこちらで行います。それでは、よろしくお願いします」


 レノンは受付に感謝を述べてから、ギルドを後にする。次に宿に戻って、遠征費を多少稼ぐために、シルバーヘイブンから何を持って行くかを考える。この町は鍛冶で有名な町だったので、そちらの方面で彼は考えたが、売り先を見つけられるか不安だったため、無難に生活に直結しているようなものを運ぶことにした。


『この町の近くで生産されていたのは、食べ物関連で考えると、小麦が一番無難か』


 レノンはそのように考える。収穫から暫らく時間が経っているので、小麦の生産地が遠い場所があれば、比較的簡単にさばくことができると考え、いくらかの小麦を遠征に持っていくことにする。



 そして、三日が経ち塾の最終日が終わった。塾の終わりに彼は冒険者ギルドを訪れ、受付に受注者の確認を行う。


「こんにちは」

「レノンさんですね。ということは……受注者の確認ですね」


 受付も三日連続で来ていることもあり、顔を覚えられていた。


「受注者の受付は完了してますね。パーティー名は……フォージャーズですね。要件はDランク以上とのことだったので、そこは満たしていますね」

「構成は?」

「前衛1 中衛1 後衛1 ヒーラー1 ですね」

「問題なさそうだな。顔合わせはいつできますか?」

「とりあえず、レノンさんが承諾されたので、次に彼らが来た時に、レノンさんの要望を伝える形になりますかね」

「そうだな……明日の12時からで頼む」

「分かりました。では、11時50分ごろに一度来てもらいます。そこまでで、フォージャーズの方が来ていなかった場合、また日時を指定してもらう形になりますがよろしいですか?」

「それで頼む。ありがとう」


 レノンは、冒険者ギルドを後にした。その後、小麦粉の買い付けを行うために、小麦粉を売っている店に向かった。

 レノンは店に着くと店主に言った。


「小麦粉を買いたいと思ってる。400kg買いたい」

「いらっしゃい。それだと今の現在の相場1kg 60ゴールドだから24000ゴールドだね」

「それは、5kgとかで買う場合だろう? 400kgも買うから1kg55ゴールドに負けてくれないか?」

「流石にそれは無理だ。それじゃ小麦の値段と変わらないよ。負けても58ゴールドだ」

「向こうの店だと57ゴールドが限界だと言っていたんだよな。そうか残念だ。これから小麦粉の買い付けをここにしようと思っていたんだが……」


 店主はその言葉を聞き、考えている。

 レノンはそれを静かに見ていた。


 3分くらい経った頃、レノンは再び言った。


「俺も、そんなに暇じゃないからな。ありがとう。向こう店で買うよ」


 彼は店の外に出ていこうする。

 そのとき、店員が彼を呼び止めた。


「分かった。55は無理だ。56にしてくれ。それなら君も買うだろ?」


 レノンは言った。


「56か。確かに向こうで買うよりいいな。ありがとう、買わせてもらうよ。代金は今払うけど、受け取りは、3日以内でも構わないか?」

「分かったよ。問題ない。この店に来てくれればそのときに渡すよ」


 レノンは22400ゴールドを支払った。そして、この日の夜にもう一度所持金の確認を行う。


 支出  46400ゴールド (宿代、小麦粉代、護衛依頼料)

 所持金  73600ゴールド


 レノンはその金額を改めてみると、将来への不安に襲われる。


『もしうまくいかなかったら……』


 そんな言葉が頭をよぎる。


『しっかり需要があるものを選択できているはずだ。大丈夫。大丈夫……』


 彼は自分を鼓舞しながら、眠りについた。


 翌日に彼は護衛をする予定の冒険者と顔合わせを行うため、冒険者ギルドへと向かった。彼は、受付に尋ねた。


「私はレノンと言います。護衛依頼を出していて、今日の顔合わせを予定しているんですが、受注者に連絡が届いているか確認してもらってもいいですか」

「少しお待ちください……」


 その受付は、連絡事項が記入されている木の板を確認した後言った。


「受注者のパーティ名はフォージャーズですね。連絡は届いているとなっているので、予定されている時間には、来るんじゃないでしょうか。もし受注者の方が来られたら、呼び出しますね」

「分かった、ありがとう」


 レノンは、受付の近くの椅子に座って待つ。


 ――時計は12時10分を示す


 彼のところに先ほどの受付が呼びに来る。


「レノンさん、先ほど依頼の受注者の方が来られました。ついてきてもらってもいいですか?」

「やっとか……」


 レノンは受付の後ろを歩く形で、ギルドの中にある顔合わせ用の部屋に入る。部屋には4人人がいて、うち一人は元メンバーのカイルだった。


「フォージャーズってお前が作ったパーティなのか」

「よぉ、レノン。お前が依頼者か?」

「そうだよ」

「一歩前に進めたみたいだな。元メンバーとして、すごい嬉しいよ」


 受付の人間は、咳払いをしてその会話を遮ると言った。


「この部屋の使用時間は20分です。それ以上に話したい場合は、酒場などの方へ移動お願いします」


 2人は申し訳なさそうな顔をしながら、受付が部屋を出るのを見送った。そして、レノンが話し始める。


「私はレノン。半年前まで冒険者をしていたが、最近商人をしようと思って依頼を出した。内容などはすでに確認しているとは思うが、ここから10日のイリシウムの町までだ。食費はこちらが持つ。何か質問は?」


 4人が顔を見合わせた後、カイルが言った。


「質問は二つで、いつ出発の予定なのかと帰りも依頼を出す予定はあるのか?」

「出発は、早くて2日後だな。帰りも依頼を出すつもりだが、商品になりそうなものを俺が手に入れられてからだから、いつ依頼を出すかは決まってない」

「分かった。それじゃあ、俺たちも自己紹介を簡単にするよ。まあ、俺は要らないか」


 カイルは帯剣している男の背中を叩くと、その男が自己紹介を始める。


「俺はドレイクだ。よろしく」


 それに続いて、杖を持つ女性が言った。


「ドレイク、自己紹介ってもうちょっと話すもんじゃないの?……私はサラです。このパーティのヒーラーをしているわ。怪我をしたら言って頂戴。よろしくね」


 そしてもう一人の弓と矢筒を背負っている女性も自己紹介をする。


「私はミリア。見てわかると思うけど、遠距離要因よ。目や耳はいいほうだから、周囲の警戒は任せて」


 レノンは改めて三人に言った。


「それでは、よろしくお願いします。ところで、二日後でも問題ないか?」


 カイルは頷いた。


「大丈夫だ。集合場所と時間は?」

「二日後の朝の5時に、南門の前で頼む」

「分かった」

「今日みたいに遅刻するなよ」


 カイルたちは苦笑いを浮かべた。その後、直ぐに彼らは解散した。その後、レノンはロジャーと馬車の練習を行うために馬車を運転しながら、ロジャーの家に向かった。

 彼の家の前で、ロジャーが待っていた。


「待ちくたびれたぞ、レノン。顔合わせだけじゃなかったのか?」

「こんにちは、ロジャーさん。手短に話してここに来たつもりだったんですが……」

「まあ、いいだろう。それじゃあ練習に行こうか。とは言っても、もう手慣れたものか」


 ロジャーはレノンの横に座り、馬車が出発する。


「最初の行商なんですが、二日後に出発することになりました」

「場所は変わらずイリシウムか?」

「そうですね。予定としては一月以内を目指してといった感じですかね」

「まあ、初めてだからそんなに利益を追わないようにな。取引を経験してみて、そこから改善することを目標にするんだぞ」

「何度も言われたから、分かっています」

「危ないとおもったら、逃げるんだぞ。それこそ馬車なんて捨ててもいいんだから」

「分かっていますよ」

 少しおせっかい気味なロジャーの言葉に苦笑いを浮かべながら、レノンは馬車を運転する。

 郊外から町へ帰ると、馬車を宿に置いて2人でご飯に行く。


「私が今日は驕るよ。レノンの成功を祝して」

「ありがとうございます。すごくよくしてもらって」

「気にするな、まあ帰ってきたらまた顔を見せに来てくれ。最後に私が使っていた地図を渡すよ」

「ありがとうございます」


 彼らは、遠征前のご飯を楽しんだのだった。


 翌日レノンは、小麦粉を受け取りに馬車で店に向かった。従業員とともに馬車に購入した小麦粉を載せる。そして、市場で二日分の食材と明日の朝ごはんを購入する。シルバーヘイブンから南に一日ほど行くとミステリウムの町があり、最初はそこを目指す予定だったので、万が一に備えて、一日分多く食料を購入した。


 そして、宿をとっているのにもかかわらず、馬車に載せた荷物を盗られることを警戒して彼は馬車の中で前夜を過ごした。


 ――朝日が町を照らし始める


 レノンは、馬車の中で目を覚まし、直ぐに積み荷の確認を行う。


「何も盗られていないな」


 彼は確認をし終わると直ぐに南門まで向かった。彼が到着したタイミングでは、まだフォージャーズは来ていなかった。彼は、前日に買っておいた朝ごはんを食べて、地図を見て今日の流れを確認する。暫らくすると、フォージャーズの一同が現れる。


「レノン、早くないか?」


 カイルはレノンに訊く。


「そうかもな。みんな集まったから今日の予定を共有しよう」


 レノンは彼らに今日の予定の説明を行った。


「それじゃあ、出発しよう」


 レノンが馬車を走らせ、それに続く形で検問を行う。レノンは緊張しながらも、自分の商会証明書を提示し、町の外へと踏み出した。



 ―――――――――――――――――――――――

 次回

 半年ぶりの町の外へ

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