第4話 情報収集
現在、ロジャーは市場の一角で、レノンと待ち合わせをしていた。コーヒーを片手に、ベリーを食べている。今日の目的は、馬を買いに行くことであった。レノンは市場に到着するといった。
「ロジャーさん、お待たせしました。とても美味しそうなコーヒーとベリーですね」
ロジャーは、露店を指さして言った。
「そうだろう。君もあの露店で注文してくるといい。馬商人との待ち合わせはまだ時間があるから」
「わかりました」
そう言って、レノンはコーヒーを注文をするため露店へ向かう。
その後、コーヒーを受け取り、彼はロジャーの正面の席に座る。
「私は、あまりコーヒーは飲まないのですが、やはり目が覚めますね」
「朝は、コーヒーを飲むと私は決めているからね。そういえば、商会名は登録したか?」
「ええ、星屑商会にしました」
「そんな名前にしたのか。なんか名前の理由はあったりするのか?」
「昔、手に入れた鱗がとても綺麗で、その時期が自分のターニングポイントになったので、それにちなんでという感じですね」
「なるほどね。ところで、かなりお金を持っているよね?」
レノンは苦笑いしながら言う。
「冒険者時代にコツコツ貯めていましたから」
2人が話していると、一人の男性が声をかける。
「ロジャーさん、おはようございます。お久しぶりですね」
ロジャーもその男性を見て挨拶をする。
「おはよう、エルヴィンさん。この若者は馬を欲しがっていてね。彼の名前はレノンだ」
そしてレノンは、エルヴィンを見ながら言う。
「初めまして。私はレノンと言います。商人になるために馬が必要なので、馬の購入を考えています。本日はよろしくお願いします」
エルヴィンはレノンに自己紹介をする。
「初めまして。エルヴィンです。こちらこそよろしくお願いします。馬は郊外で育てているので、ここで簡単に説明だけ行いますね」
彼は薄い本をカバンから取り出し、テーブルを開いた。
「フィンと同じくらいの大きさの馬だということなので、この五匹が候補になるかと思います。代金は一律70,000ゴールドです。それでは、実際に見に行きましょう。馬車の予約をしているので、あちらの場所でお乗りください」
彼はそう言って2人を先導した。三人が馬車に乗り終えると馬車は郊外に向かって走り出す。
「レノンさん、元々何の職業されていたのですか?」
エルヴィンは言った。
「元は冒険者です。色々あって、引退しました」
「それは、珍しい。しかし、行商なら、適性は高そうですね」
その後彼らは、何気ない会話をしながら目的地まで行った。馬車が目的地に到着する。店内には革製の鞍や首輪、馬蹄鉄などが整然と陳列されており、それらの製品は職人の手によって丹念に作り上げられたものだった。レノンは静かに店内を見渡して、知らない世界に足を踏み入れていることを感じる。そして、エルヴィン先導により、馬舎に案内される。そこでは、さまざまな馬が静かに立っていた。
エルヴィンがレノンに言う。
「この五匹が今回候補になっています」
レノンは正直に言った。
「正直どの馬がいいかわからなくて」
エルヴィンは丁寧に説明する。
「お勧めは、雄馬ですね。この三匹です。馬を選ぶ際に考慮すべきポイントがあります。性格や体型、トレーニング歴などが重要です――」
一通り説明を終えると、エルヴィンが指をさした。
「この白い馬はブランコです。この中で最も力が強いですね。
一方、この茶色い馬がローディです。特徴は持久力ですかね。
最後の馬がこの灰色のガラハドです。ちょうど、平均といった感じですかね」
レノンは馬たちの性格を観察し、歩様をじっくり見ることにした。一頭ずつ馬と向き合い、なじみを取り、鼻に手を差し伸べて挨拶した。
彼は特に一頭の馬に心惹かれた。それは、灰色の毛並みを持つガラハドであった。
「一度、ガラハドと外に行ってもいいですか?」
エルヴィンは頷き、リードをレノンに手渡した。
彼は乗馬できるわけではないため、リードを持って歩く。
ガラハドはしっかりレノンに付いてくるので、非常に好印象であった。
彼らは建物の中に戻った。
レノンは言った。
「ガラハドでお願いします。代金は今日支払いたいのですが、問題ないですか?」
「分かりました。馬のほうはどうされますか?」
レノンは彼に言った。
「今日、行商人用の宿に移るつもりなので、後日連れて帰りたいのですが、大丈夫ですか?」
「構いません。それでは、応接室のほうでお金の受け取りをさせていただいてもいいですか?」
彼らは応接室に移って、取引を終わらせた。2人は馬車で再び町まで戻り、その場で解散した。レノンは、町に着くとすぐに商人用の宿へと移ることにした。現在賃貸アパートには、ほとんど物がなかったので、服や冒険者時代の持ち物を簡単にまとめた。それをもって商人の宿へと向かう。
「いらっしゃいませ。何箔を希望されますか?」
「とりあえず、10日で頼む」
「では、10000ゴールドですね。ご飯付きなので、好きなタイミングで食堂にいらしてください」
彼はお金の高額さに冷や汗をかき、ためらいながら支払いを終えた。荷物を宿の自分の部屋に持っていき、自分の所持金の確認を行う。
支出 230000ゴールド (馬車、馬、塾代、宿代)
所持金 120000ゴールド
彼は、一気に減ってきた所持金を見て、後悔する気持ちとこれからお金を大量に稼ぐという野心が入り混じった複雑な感情になっていた。
この日からは、週6日塾に通い、ロジャーの都合のつく日は馬車の練習を行い、夜に時々商業ギルドや冒険者ギルドの酒場へ行って、どんな商品を取り扱うかを考えるために情報収集を行った。
ある日の夜、彼は商業ギルドに併設された酒場に訪れていた。そこには、多くの商人が集まる場となっていた。レノンは、一杯ビールを頼んで、近くにいる人に話しかけた。
「すいません。少しいいでしょうか?」
話しかけられた男は、酷く酒の匂いを漂わせた、短髪で体の線の細い商人であった。
「何の用だ?」
「私は、最近商人を志したレノンと言います。ここにいるのは商人の方が多いと思うので、何かアドバイスを貰えればと思って来たんです」
「なんだ、そういうことか。初心者にアドバイスくらい、このハンスさんがしてやるよ」
その商人は、酒の影響からか口が軽くなっていた。
「行商に関してなんですが、どのような商品がおすすめとかありますか?」
「この町で買って持っていくなら、無難に刃物や防具じゃないか? まあ町で売るなら、大手の商会が取り扱ってるから、売れないかもな、ハハハ」
ハンスは大声で笑った。
レノンはそれを聞いて彼に訊く。
「ハンスさんは何を扱っているんですか?」
「その時々によるとしか言えないな」
「季節を考慮したもので取引したいと思っているんですが、お勧めはありますか?」
「まあ、ブドウがそろそろ収穫の時期だから、ワインとかどうだ? あとは、冬が来た時に防寒具は売れるだろうから、その素材を職人のところに持ち込むのはいいんじゃないか?」
レノンはそのことを頭に入れる。そして、再び訊く。
「ワインを仕入れるときの注意とかってありますか?」
「そんなことも知らねえのか」
彼は笑いながら言った。
「大体、一つのワイナリーから大量に買うことは出来ない。どこのワイナリーも専属の商人がついてるもんさ。後は、馬車で運ぶなら振動がネックになるからアーキーンの揺籃を取り付けてもらった方がいいな」
「アーキーンの
「振動を吸収してくれる魔道具だ。対して値段はかからないだろうからつけて貰うといい」
ハンスは得意げに言った。
レノンは訊いた。
「お勧めのワイナリーはあったりしますか?」
「基本的に北か南なら作っているところが多いから、そんなに考えなくてもいいじゃないか? とりあえず売ってくれるところを探すのが優先事項さ」
レノンはそれをメモする。
「防寒具の素材と言えば、羊毛とかですか?」
「無難なのはな。でも、一般的なものほど、大手商会が生産元と契約を交わしているケースがほとんどだ。だから、俺のおすすめは冒険者ギルドを仲介するような、魔物の素材だな」
「それは、どうしてですか?」
「基本的に魔物の素材は冒険者ギルドを仲介するようになっているからな。家畜などに比べて、手に入る地域が限られることを考えてだな。もし、商会が冒険者ギルドを仲介せずに冒険者から独占できちゃうかもしれないだろ?冒険者ギルドは、基本的に独立した存在だから、特定の商会と手を組むよりは、条件がいい商人に対して売るっていうスタンスをとっているんだ。だから、駆け出し商人にとってはいいかもしれないな」
「教えていただきありがとうございます」
「そうだな、アドバイスを貰ったんだから、ビールをいっぱい奢ってくれよ、レノン」
「分かりました」
レノンは机の上にビール一杯分の代金を置いて、他の何人かの商人に話しかけた後、酒場を出て行った。ハンス以外からはこれといった情報を得ることはできなかった。
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次回
馬車の訓練
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