キスするまでのお話

クロノヒョウ

第1話



「俺、お前のことが好きなんだ。付き合ってください」


「いいけど?」


「えっ!?」


 いやいや、ちょっと待てよ。


 俺は男でお前も男だぞ?


 そんなあっさりオッケーして大丈夫なのか?


「お前、付き合うってどういうことかわかって返事してる?」


 俺の部屋で平然とした顔で試験勉強している暁斗あきとを覗き込んだ。


「わかってるよ。今から俺とお前は恋人同士な」


 そう言って俺を見て笑いかけてくる暁斗。


「そ、そうだけど……お前本当にわかってるのか?」


「はは、しつこいな」


 向かい合って座っていた暁斗はペンを置いて俺の横に移動してきた。


 おい、近い近い。


 ただでさえ緊張していたのに暁斗に近寄られたら俺の心臓がもたない。


「だ、だって信じられないだろ。そもそも俺がお前のこと好きとか聞いて気持ち悪いとかないわけ?」


「別に? 涼真りょうまが俺のこと好きなのは気付いてたし」


「はぁ? 気付いてたっていつから?」


「うーん、なんとなくだけど同じクラスになってから? 俺と目が合うたびお前顔真っ赤にしてたし」


「うそ!? マジか」


「俺を見てそういう顔する女の子はいっぱいいたけど男は初めてだったからオッと思って。それから涼真のことが気になってた」


「ああ、お前モテるからな」


「で、仲良くなって俺しょっちゅうこうやってお前ん家に遊びに来てんのにお前何も言ってこないし」


「バッ、そんなの言えるわけないだろ。男が好きなんて知られたら気持ち悪がられて友達でさえいられなくなる」


「なんで? たまたま好きになったのが男ってだけだろ?」


「それはそうだけど……」


 いや、嬉しいよ、めちゃくちゃ嬉しいけど。


「その……付き合うってアレだぞ? 暁斗は俺とその……いろいろ出来るのか?」


「いろいろって? ああ、デートとか?」


「デート!?」


「ふはっ! 冗談だよ冗談。ほんっとに可愛いな、涼真は」


「な、なんだよ、可愛いって」


「涼真は可愛いよ。俺を見てすぐ赤くなるところも純粋なところも全部。今だってそんな緊張したり慌てたり動揺している顔見たの初めてですっげえ可愛いって思った」


「俺男なんですけど」


「わかってるって。男だろうがなんだろうが俺も涼真のこと好きだよ。他の男になんて取られたくない」


「……」


 俺は嬉しさと恥ずかしさで何も言えなくなっていた。


 本当に暁斗も俺のことを?


 ヤバい。


 ドキドキが暁斗にまで聴こえてしまいそうだ。


「あはっ、何? 涼真、もしかして照れてんの?」


「や、そりゃあ……まあ」


「本当に可愛いな。これからももっと涼真のいろんな顔、俺に見せてよ」


「……うん」


「てかさ、涼真こそ出来るの? 俺といろいろなこと」


「へっ?」


 思わず暁斗の方を見ると暁斗はニヤニヤしながら俺を見ていた。


 くそっ、絶対こいつ俺をからかって楽しんでるな。


「出来るにきまってんじゃん!」


 そんなの当たり前だろ。


 俺がどれだけ暁斗のことが好きか。


 どれだけ暁斗とのあんなことやこんなことを想像してきたか。


「ふーん。なら、試してみていい?」


「な、なに?」


 緊張のあまりに思わず顔を背けてしまった俺。


「ねえ、こっち向いて涼真」


 暁斗が俺の顔を持ち上げる。


「ちょっ、待って」


 嬉しさと恥ずかしさで泣きそうになる俺。


「やっべえ。俺、かなりお前のこと好きかも」


 俺を見つめながらそう言った暁斗はまるで魔法にでもかかってしまったかのように真剣な表情になったかと思うと激しくむさぼるように俺にキスをした。



            完





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