第24話乙女たちの帰還とその後


◆ランドルフ王◆


 魔王討伐後の王城――。


 愛娘であり勇者でもあるアルメリアと、他の仲間たちの報告を、私は謁見の間で受けていた。

 隣国の侯爵家令嬢、聖騎士のエルヴィ・エルク・ヘイデンスが主に説明役を買ってでた。


 ロランは、私が依頼をしパーティに同行させたのだが、思惑通り彼は上手く彼女らを導いてくれた。また、噂通りの腕で、魔王を倒してくれた。


 アルメリアたちは、ロランの手柄を自分たちのものにするのを、よしとはしないだろう。

 だがそれでは困るのだ。


「検分官が確認したところ、死体は魔王で間違いないだろう、とのことでした」

「魔王で違いない、とは? そなたたちが倒したのだろう?」

「いえ、陛下。……私たちが魔王のところへ駆けつけたところ、亡き者となっておりました」

「何でもよい。そなたたちを前にし、かの悪逆非道の魔王も観念したのだろう」


 四人をそれぞれ見回すと、やはり釈然としていない様子だった。


 ロランがやったんだよぉ~ん、とでも言えればよかったのだが……。

 彼の望みは、『普通の生活』だ。

 英雄としてもてはやされることを望まなかった。


 表舞台へ無理に引っ張り出すのはよそう。依頼報酬は、何でも望みを叶えること。


 私は彼の望みを叶える義務がある。


 ロランは、仕事だけ完遂しそっと姿を消した。


 ……なんというか、プロ感がすごい。ロラン、カッコいい。


「この話は終わりだ。これは、魔王城を攻め落としたそなたらの偉大な功績である。あとのことは連合軍の将帥たちに任せて、今日はゆっくり休むとよい」

「お父様。ロランが……決戦を前に姿を消してしまったの……」


 ふむ。それでアルメリアはどことなく元気がないのか。

 まだ幼いリーナ魔導士が、こくこく、とうなずく。


「……陛下ちゃん……ロラン、おトイレ、とっても長い……」


 陛下ちゃん、て。

 セラフィン大神官が、リーナ魔導士の頭を撫でた。


「リーナさん。ロランさんは、きっとすごいモノを出してるんですよ」


 いや、違うと思うぞ。セラフィンよ。

 アルメリアだけではなく、みな、ロランの安否を心配しておるようだ。


「陛下、私たちは、ロランこそが、魔王を討伐した張本人ではないかと愚考しております」


 そう思い至るのも当然のこと、か。

 あいつ、超強いからなぁ……。


 魔王を単独討伐とか、どうかしておる。

 史上最強とまで言われていた魔王なのに。


 三〇分もかかってないとか、何をどうしたのってレベル。


「ロランが倒したという証拠もない。そもそも、そなたらの活躍がなければ、魔王城攻略も出来なかったであろう」


 と、ロランからはそう聞いている。


「お父様、違うの」

「何が違うのだ、アルメリア」


 みなで力を合わせ、魔王城を攻略していった。持ちつ持たれつだと……ロランは……。


「わたし……猪突猛進で、戦闘中や移動中は本当に細かいところを見てなくて。注意散漫っていつもロランに怒られてたわ。魔王城でも、トラップにかかりそうだったわたしを何度も助けてくれて……」


 ふむ……。


「大技の使いどころ、それによる相手との心理的優位性の保ち方、小技とフェイントの効果。戦闘継続時間をいかに長くするか……それら全部、ロランに教わったのよ」

「陛下、私もです」


 エルヴィ騎士が小さく手を挙げた。

 彼女はたしか、前衛での壁役であったか。


「憶病で逃げ癖のある私に、味方の守り方を一から叩き込んでくれたのです。言い方もキツいし、何様だと思った頃もたしかにありました。ですが……それは正論で、戦闘における彼の状況判断は常に正しかった。私は……恥ずかしながら、彼の言葉に耳を傾け、言われた通りスキルを使い、行動していたにすぎません」


 ロランめ……控えめな報告をしおって……。


 私や、その背後にいる国民、ひいては人類を不安にさせないため、か。

 腕が恐ろしく立つかと思えば、よく気の回る男だ。


 誠、あっぱれである。


「……ロラン、お兄ちゃんみたいで、リーナ、好き……いっぱい、しゅき……また、なでなで、されたい……」


 リーナ魔導士、私もだ。彼のことが『いっぱいしゅき』だ。


「お聞きの通りです、ランドルフ王様。わたくしたち、ロランさんがいなければ、ヘボパーティもいいところだったんです。彼がいなければ、魔王城攻略もままならず……それどころか、辿り着くことさえ……いえ、全滅さえあり得ました」


 と、セラフィン大神官も口にする。


 影に徹した本当の大英雄ではないか……。

 改めて礼をしたいところだが、連絡が取れないのは私も同じだった。


 ……それからというもの、勇者パーティの乙女たちは英雄としてもてはやされた。


 王都では祭りが一か月も続き、やがて新しい日常を迎えた。

 だが……アルメリアはどんどん元気を失くしていった。


 彼の消息が一向に掴めないからだ。

 万一の想像をしてはそれを振り払う日々だという。


 そんなとき、再び彼が私の前に姿を現し、頼みごとをしてきた。

 大恩人である彼に貸しなどとは思わぬが、彼は借りだと言い張った。


 だから私は、元気を失くしたアルメリアをどうにかしてやってくれ、と依頼したのだ。


 依頼というよりは相談をした一週間後。

 食事などでは顔を見せたアルメリアは、一切部屋から出てこなくなった。


「どうして……? ぐすんっ……やだよぉ……死んじゃっただなんて……うううう……ふぇぇぇ……」


 余計めそめそしていた。

 ろ、ロラン……何をした……!?

 いや、ロランは関係ないのか……?


「セラフィン大神官よ、最近のアルメリアをどう見る?」


 私は、王城で酒浸りの大神官を私室に呼んだ。


 酒蔵が空になるかという勢いで、帰還後は四六時中酒を呑んでいるという。

 今も、目がとろーんとしていて、顔がすこし赤い。


「ん~、そうですねぇ……。恐怖状態の『フィアー』に近いかもしれませんねぇ~」


「な、なるほど……! 王女で勇者で美しいアルメリアを何者かが狙っている、と」


「はい。魔族が使う魔法で、リアルナントカという異常状態にする魔法がありまし、ゔっ……」


「ちょっと、えずくのやめて!」


 では、魔族の残党がどこからかアルメリアを狙っている、ということか。

 さすがに直接攻撃では敵わないから、精神的な攻撃をしてきた、と。


 腑に落ちた。

 だから余計に落ち込んでしまったんだな。


 顔をくしゃくしゃにして、セラフィン大神官は吐き気に耐えている。


「では、アルメリアにかけられた異常状態を浄化してやってくれぬか」


「は、はい……。わ、わかり……ゔっっっ――」


「だ、誰か! 誰かおらぬかぁぁぁあ!」


 後日、セラフィン大神官は、アルメリアにかかった異常状態を浄化魔法で快復させた。


「ロランったら、夜な夜なやってきて、あんなことをして……も、もおおおおおおおおおっ!」


 何があったのかは知らないが、そんな声が王女の部屋から聞こえたという。


「え、これ身分の差ってやつじゃ……!? うそ、やだあああああ、つらいいいいい! きゃあああああっ!」


 アルメリアは枕に顔をうずめて、ベッドで嬉しそうにバタ足をしていると侍女は言っていた。


 詳細はわからぬ。

 だがわかることは、ロランが何かしたお陰で、アルメリアは元気になったということだ。


 さすが、ロラン。プロは違う……!

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