第12話サラマンドラと観戦者
俺は三人を促し、村へと急いだ。
近づけば近づくほど村が騒ぎになっているのがわかった。
どんどん熱を持つこの風と強くなった煤のにおい……。
「兄貴、火事です!」
「みたいですね」
戦闘中はいちいち敬語を使わないが、通常時はいつも通り接することにした。
村にやってくると、村人たちが井戸から水を汲んで消火活動にあたっていた。
事情を訊こうと思ったが、まずは火を消すことが先決だろう。
俺たちが消火の手伝いをしていると、
「職員さん、どうやら襲ってきた魔物のせいで燃えたらしいぜ」
槍持ちが村人たちから話を聞いてきてくれた。
「そうでしたか。ならこの火事はそいつが原因……」
「でかくて、トカゲみたいな魔物だって、村の人たちが」
トカゲの魔物で、炎を吐くといえば、サラマンドラだろう。
だが、あの魔物はこの近辺に生息していただろうか。
さっきのレッドウォルフもそうだ。
ここらへんではなく、もっと南に生息しているはずなのだが……。
サラマンドラが相手だと、冒険者たちに指示を出しながら、というわけにはいかない。
このクエストランクはCだったが、サラマンドラが相手だとすれば、クエストランクは、もっと上のランクになってもおかしくない。
「わかりました。引き続き消火活動の手伝いを」
「おう、わかった」
三人が消火活動を手伝っている間、俺は付近を見て回った。
地面に大きな足跡を見つける。
「……」
指が四本。一本ずつは細長く、爪も長い。
尻尾を引きずったあともあった。
土に立てた爪痕がまさしくそうだ。
間違いなくサラマンドラだろう。
騒ぎが起きてからそれほど時間は経ってない。まだそれほど遠くへ行っていないはずだ。
足あとを辿って、俺はサラマンドラを追いかける。
すぐ先に、砂煙を上げながら移動する魔物を発見した。
「見つけた」
わかりやすく殺気を放つと、びくん、とサラマンドラが足を止めて反応した。
「キェ……?」
四足歩行だったサラマンドラが、後ろ足立ちになって、きょろきょろとあたりを見回した。
後ろ足立ちは警戒している証だ。
野生の雰囲気を感じない。
「飼い慣らされた魔物か……?」
さらに俺が近寄っていくと、サラマンドラもこちらを視認した。
「キェェェェェ!」
甲高い鳴き声を上げて威嚇する。
正面切って俺を威嚇するとは、見上げた根性だ。
相手の力量すらわからない馬鹿かもしれないが。
すうう、とサラマンドラが息を吸い込む。
「ギュェェェェェ!」
放射状に火炎を放つ。
ゴウッ、と凄まじい速度で火炎が迫る。
俺はそれを腕一本でかき消した。
「ギュエ……??」
くり、と首をかしげるサラマンドラ。
「ギュェェェェェ!」
また馬鹿のひとつ覚えのように、炎を吐き出す。
今度は、右から左に、地面を焼き尽くすかのような火炎放射だった。
それは……避けるのもバカバカしいので食らってやった。
「ギュエ?」
やはりわかってなさそうなサラマンドラは、また首をかしげた。
「俺の体に火が燃え移るよりも早く動けば、火は燃え移らない」
「ギュェェェェェ!」
サラマンドラは、四足歩行になり俺のほうへ突進してきた。
「村をめちゃくちゃにした報いは受けてもらうぞ」
「ギュェェェエエ!」
長い長い爪の攻撃範囲に入ると、また後ろ足立ちになったサラマンドラ。
前足を振りかざした。
その瞬間。
俺は前足の足首から先をもらった。
「……ギュエ―――ッ!?」
俺はやつの足首を使い、その鋭い爪で喉を刺した。
「ギュェェェエエ!?」
ドスン、ともがく敵の眉間を思いきり殴る。
痙攣して苦しそうだったサラマンドラを楽にしてやった。
「すまんな。こちらも手ぶらだったので使わせてもらった。よく研いであるいい爪だ」
事切れたサラマンドラが鳴くことはもうなかった。
視線を感じて遠くの茂みに目をやる。
「……」
まずは、村のみんなにサラマンドラのことを報告しよう。
◆???◆
サ、サラマンドラを一瞬で倒した……!?
しかも炎を腕一本で消しやがった……。
遠くてよく見えなかったが、どうなったのかだけはわかった。
うわぁ……!
――や、やべえやつだ!
冒険者っぽくないけど、ランクでいえばオレと同等のAくらいだろう。
いや、それ以上か……?
まあいい。
あんなどうかしてるやつ、オレははじめて見た。
「――ん? ……オレのほうを見てる?」
そんなわけねえ。
あそこからここまで一〇〇メートルは離れてるんだ。
そんなわけ……。
「……」
あんな意味わからねえほど強いやつを、オレははじめて見た。
強いというか、桁が違う。いや、もう次元が違う。
レッドウォルフと戦ったときは、あいつは何もしてなかったが……決めた。
あいつにオレの仲間になってほしい……!
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