第25話 告白



「……という訳だ。もう気が済んだか娘、…いやルリアよ」


 ルリアは納得がいくまで、ゴードンから事の経緯を詳しく聞いていた。



「…なるほど。クリフを呼び付けていたのも、色々な情報を伝える為だったのね」

「そういう事だ。クリフはわざと失敗をして、私に呼び付けられる理由を作っていたのだよ」



 ゴードンから事の真相を聞いたルリアは、どこか安心した様子になった。

 彼女はクリフが父や親友を亡くし、自暴自棄になっているのではないかと、ずっと心配していたからだ。



「私に内緒にしてたのはムカつくけど、まぁいいわ。オルソンさんやアレスの無念もはらせたしね」



 そう話したルリアを見て微笑んだクリフは、ゴードンとアダムスに視線を戻して声をかけた。



「お2人共、このまま王城へ行かれるのですか?」

「私は陛下に報告せねばならないからな。…しかしアダムスは寄り道するそうだ」

「え? アダムスさん、どこに行くんですか?」



 ゴードンは、呆れたように大きなため息を吐く。そしてアダムスは答えた。



「賭場だよ、クリフ。大きな任務が終わったんだ。それくらいは陛下も許してくれるだろう」

「……えぇ!? 賭け事はリアムスの仲間になる為の偽装工作じゃ……」

「こいつは元々、賭け事が好きで熱くなりやすいタイプの人間だ。…それに芝居も好きなようでな。まったく、あの猿芝居がいつバレるか、肝を冷やしたぞ」



 ルリアはゴードンの言葉を聞いて、堪えきれず大笑いした。


 2人は馬車に乗り込み、最後にクリフとルリアに握手を求めた。

 ルリアはゴードンに対しまだバツが悪いようだったが、ゴードンはルリアの頭をわしわしと力強く撫でた。



「ルリアよ、お前もよく戦った。…そして辛いだろうが、これからの事をしっかりと受け入れるんだ。お前の事は陛下にも話しておく」

「え、何よ? …何の事?」

「…いずれ分かる。お前の未来を、司祭として慈愛母神マレイヤに祈っておる」

「何よそれ?…気持ち悪いわね」

「何だと!? 司祭の言葉に、気持ち悪いとは何事か!」



 ルリアはまた笑い出し、それに釣られた3人も笑みを浮かべるのだった。


 そして馬車は動き出した。

 




───





 クリフとルリアは生まれ故郷に帰省し、オルソンとアレスの墓参りにやって来ていた。

 3年前の犠牲者も多く眠る共同墓地には、今爽やかな風が吹いている。


 2人は季節の花をオルソンの墓標に飾り、両手を組んで英雄オルソンに祈りを捧げた。



「…さて、オルソンさんはこれでOKね。次はアレスのお墓よ」

「そうだね、ルリア」

「そうだな。やっぱり俺の墓は盛大に花を飾ってくれよな!」



 クリフとルリアはしばらく無言になる。

 そしてルリアは言った。



「クリフ、1つ聞いていいかしら?」

「……う、うん」

「どうしてオルソンさんはあの後天国に行ってしまったのに、こいつはまだいるのよ!?」

「わ、分からないよ。…何かまだ心残りがあるのかな??」



 あれからずっと2人の背後には、アレスの霊魂が付きまとっていたのだった。



「……アレス? 僕たちのそばにいてくれるのは嬉しいんだけど、まだ何か心残りがあるのかい?」

「え!? いや、その……」



 アレスはらしくない態度で、返答に困っている。



「アレス、男ならはっきりしなさい!」

「…わ、分かったよ、そう怒るなってルリア……」



 3人の間に静かな時が流れた。



「…お、俺はその、……ル、ルリアの事がずっと好きだった」



 ルリアとクリフは、目を見開き口をポカンとさせた。

 そして我に返ったクリフは、心臓の鼓動を速めて勇気を振り絞った。



「…ちょ、ちょっと待ってよアレス! 抜け駆けはダメだよ! ……ぼ、僕も、ルリアが好きなんだから!!」



 今度はルリアとアレスが、目を見開き口をポカンとさせた。

 そしてしばらくの間、3人の間に沈黙が訪れる。


 その沈黙を最初に破ったのは、ルリアの大きな笑い声だった。



「…おいルリア、どうして笑うんだ! 俺達は凄く真剣なんだぞ!?」

「そ、そうだよルリア!」



 ルリアは笑いが収まると話し出した。



「ごめん、ごめん、気持ちはすごく嬉しいけど、…はっきり言って、2人共全然私の好みじゃないわ!!」



 アレスとクリフは予想していなかったルリアの返答に、唖然とする。



「ルリアお前なぁ、これから天国に行っちまう人間に、それは無いだろ!?」

「そうだよ、僕だって勇気を振り絞ったのに!」

「…あら、だってはっきり伝えた方が、本当の優しさなのよ?」



 3人はそれぞれの顔を見ると、誰からともなく笑い出していた。

 そんな3人を、故郷の風はやさしく包むようにそっと吹いている。



「……ふう、これで思い残す事はねえ。2人共、お前らが爺さん婆さんになったら迎えに来てやるぜ。長生きしろよな」

「…アレス。……君も行ってしまうのか」



 肩を落とすクリフに、ルリアはそっとその背中に手を置いた。



「また3人でバカな話が出来て、本当に楽しかったぜ。……じゃ、また会おう!」



 アレスは、背後に現れた眩い光の中へと、ゆっくり歩いていく。



「…アレス! …ありがとう、本当にありがとう! …君は僕の親友だ! 君はずっと僕の味方だった! 忘れない、…絶対忘れないよ!!」

「アレス、天国で男を磨いときなさい! …オルソンさんにもよろしくね!」



 アレスは2人の言葉に一度立ち止まるが、掲げた手の平を2人に振ると彼は再び歩き出し、眩い光の中へ消えていくのだった。



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