第23話 決着



 オルソン、ウォルグ、両者の激しい打ち合いの金属音が、大聖堂に響き渡る。

 騎士としての高みに辿りついた2人からは、他を寄せ付けない威圧感が漂っていた。



「──見える、見えるぞオルソン! お前の思考と槍術の全てがな」

「ウォルグ、腕を上げたな。…だがお前が勝利する事は決して無い」

「ほざくなオルソン、俺はお前に勝ち、司教と共に理想郷──神聖王国を作りあげる!」



 戦いがしばらく続いた後、オルソンは勝機を見出すと、幾千の敵を葬って来た必殺の一撃を聖槍から打ち放った。

 しかし、ウォルグはそれを寸前の所で見切り、一瞬の隙を付いてオルソンの右肩に狙いを定め大剣を振り下ろす。


 ウォルグの大剣はオルソンの右肩に深々と食い込み、やがてそれはオルソンの心臓部にまで達するのであった。




 ウォルグは勝った。

 ついに英雄と褒め称えられたオルソンを超え、聖騎士の頂点に立つ事が出来たのだ。


 かつてウォルグは、いくつもの戦場で命を落としかけた。

 しかしその度に這い上がり剣を振り続けた。いくつもの過去の試練が、無数に彼の脳裏に浮かんでいた。


 そして眼の前のオルソンの体は、原型を留める事が出来ずにドロドロと崩れ落ちていく。



──すると、崩れ行くオルソンの体の背後から、剣を振りかざすクリフの姿が見えた。



「お前の負けだウォルグ!!」

「────!!?」



 クリフの剣はウォルグの胸の中央を捉える。そしてそれは、ウォルグの背中まで突き抜けた。


 ウォルグはその手から大剣を落とすと、口から大量の血を吐き出し、やがて膝から崩れ落ちたのだった。



「…悪いけど、これは1対1の勝負じゃない。僕は騎士ではなく、死霊術師なのだから」



 ルリアは一歩も動けずに、事の結末を見ていた。戦いが終わった今でも彼女は動けずにいる。

 そこにクリフが歩み寄った。それを見たルリアはようやく動きだし、クリフの元によろめきながら歩いていく。そしてそのまま倒れる様にクリフに抱きついた。


 クリフもルリアを抱きしめるが、その手は大きく震えていた。


 そして、そんなクリフの肩に霊魂に戻ったオルソンがそっと手を置いたのだった。



「──父さん!!」クリフは父を見上げ、オルソンは微笑みながら黙って頷いた。

 やがてオルソンはその場を後にし、背後にある大きな眩い光の中へとゆっくり歩いていった。



「…父さん! 行かないで……!」

「クリフ、男になったな。…私はずっとお前を見守っているぞ」



 オルソンはクリフに優しく微笑むと、眩い光の中へ歩を進め、やがて消えていったのだった。




 ウォルグの最期を見た司教リアムスもまた、膝から崩れ落ち、ウォルグの遺体から目を離せずにいた。


 クリフはルリアをそっと離すと、リアムス司教の方へ歩いていく。

 リアムスはクリフが目の前に迫って、ようやくクリフの方へと視線を向けた。



「……30年、いや、それ以上か。…ここまで来るのにな」



 リアムスの護衛をしていた配下の聖騎士は、クリフを恐れ大聖堂正面の入り口の方へ、必死の形相で駆けていく。



「リアムス、後はお前だけだ。…これでアレスと僕の計画は全て終わる」

「……わ、私は大司教となり、この地に神聖王国を築く男。…もう1歩なのだ、あと1歩でそれが現実の物となる。……諦めて、諦めてたまるか!!」



 リアムスはその場から立ち上がり、クリフから逃げるように大聖堂の入り口に向かい、懸命に走り出した。



「…まだだ! まだ聖騎士は腐るほどおるのだ、──誰か、誰かおらぬか! 死霊術師だ、死霊術師が現れたぞぉ!!」



 リアムスは何度となく声を張り上げた。

 やがて彼の呼びかけにより、続々と聖騎士団が大聖堂に姿を現したのだった。


 その先頭には、聖騎士副団長であり6聖剣のフィリーがいた。そしてすぐ横には同じく6聖剣のウェスもいる。



「…おお、フィリー、そしてウェス、よく来てくれた! お前たちが来てくれればもう安心だ! …死霊術師はあの男だ!!」



 しかし、聖騎士団に助けを求めたリアムスは、異変に気が付く。

 フィリーの足元には、少し前に逃げていった自分の配下の聖騎士が倒れていたのだ。



「聖騎士団、副団長として命じる! 慈愛母神マレイヤを汚した逆賊、リアムスを直ちに捕縛せよ!」

「「──は!!」」



 フィリーの命令により、聖騎士たちは即座にリアムスを捕縛する。



「…貴様ら、誰に何をしているか分かっておるのか! わ、私は来月には大司教に任命される男だぞ!? 」


「うるさいなぁ、ねぇフィリーさん、この人の両腕切り落としてもいいですか?」

「…ウェス、そりゃまずいだろ。せめて片腕だけにしてやれ」



 ウェスとフィリーの言葉に青褪め、リアムスは言葉を失うのであった。



 

 

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