第22話 英霊



 クリフとルリアを殺しに向かった聖騎士2人のうち1人は、すでにルリアによって倒れされていた。

 しかし、クリフを守りながら戦っていた彼女も体力の限界を迎えつつあった。


 そこにアレスを倒したウォルグが、ゆっくりと歩いて来る。



「どけ、女1人も仕留められんでどうする? お前は司教をお守りしろ」

「…も、申し訳ありません、ウォルグ様」



 ルリアと戦っていた聖騎士はその場を去ると、すぐ様リアムスの護衛へと回った。そしてウォルグは満身創痍のルリアと対峙したのだった。



「…娘よ。降伏して司教に忠誠を誓え。さすればお前もクリフも助かる」

「あんたらは、私の故郷の人達を沢山殺した。オルソンさんも、アレスも……!!」


「オルソンは惜しい人材だった。私も残念だ。…だが彼は我々の計画に感付き、探りを入れていた」

「…許さない、あんたもリアムスも私が許さない!!」


「出来れば女子供は殺したくなかったが、……致し方ない」



 ルリアの窮地にクリフは一歩も動けず、迫りくるウォルグを見ているしかなかった。

 すると、クリフの前にぼんやりと人影が浮かび、やがてそれはアレスの姿になった。



「クリフ、頼むルリアを助けてくれ! もう俺は戦う事が出来ない!」

「……アレス、僕は無力だ。…剣の腕も法力も無い。禁呪の力でもどうにもならなかった」

「クリフ、お前は気付いているはずだ。俺の他にも、お前に呼び掛けている霊魂がある事を!」



 クリフは下を向き、両拳を力いっぱい握り閉める。



「…それだけは出来ない。死者への冒涜だ。あの人を呪いの傀儡にするなんて、出来る訳がない!」

「聞けクリフ! お前が何者で、どんな手段を使うかなんて関係ない! お前は目の前の大事な人をどうしたいんだ!?」

「……………」

「──クリフ!!」

「…僕は、……僕はルリアを守りたい!死なせたくない!」



 ルリアに迫り大剣を構えていたウォルグが、クリフの異変に気が付いた。

 クリフの髪は逆立ち、その周りには混沌とした重い空気が立ち込めている。



「──我に語り掛ける英霊よ、我はその求めに応じよう。不死の王の名において命じる、英霊よその姿を現せ!」



 クリフが呪術の詠唱を終えると、その英霊は静かにゆっくりと、その偉大なる姿を現した。



「……バ、バカな、これは死霊術の範疇を超える術式だぞ!?」

「くそ、こんな事が! …こんな事が起きてたまるかぁ!!」



 リアムスとウォルグは驚愕の表情を浮かべ、両者がよく知る英雄の姿を目の当たりにしていた。


 身を包んだ全身鎧、紫黒色のマント。その右手には聖騎士の頂点たる証、聖槍ホーリーランスが握られている。



「英霊オルソン! 我を主と認め忠実な僕となり、我が敵を滅ぼせ!」


「──我が息子クリフよ。私はこの時を待っていたぞ! お前を主と認めその義務を果たそう!」



 クリフが出現させた英霊は、王国の英雄6聖剣最強を誇った父オルソンであった。



「ウォルグ、そしてリアムス。貴様らに引導を渡す為、黄泉の国から舞い戻ったぞ!」

「…オ、オルソン! ……死して直も我が理想郷の妨げとなるか!」



 呆然とするリアムスに、覚悟を決めたウォルグが声をかける。



「司教、恐らくこれが最大にして最後の難関。このウォルグが、全身全霊によりオルソンを討って参ります」

「…うむ。…そなたの勝利を信じておるぞ」



 ルリアは、あまりの衝撃にその場から動けないでいたが、クリフが彼女の腕を掴んで後方へと引き寄せた。



「…クリフ!オルソンさんが、…オルソンさんが!!」

「もう大丈夫だよルリア。後は僕たちに任せるんだ」



 ウォルグは大剣を中段に構え、オルソンに向かって、ゆっくりと間を詰めていく。



「──オルソン、再び黄泉に戻るがいい!」

「…来いウォルグ、道を間違えた哀れな男よ!」

「お前には真理が分からんのだ!…オルソン!!」



 ウォルグは大聖堂に響き渡る唸り声を上げ、勢いそのままに大剣をオルソンに打ち付けるのだった。



 

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