第21話 勝負の鍵



6聖剣アダムスに、戦闘能力のある司祭ゴードン。そして力を取り戻したアンデッドのアレス。


 形勢不利と思われる状況でも、司教リアムスは冷静に頭の中を整理していた。



──6聖剣とはいえ、アダムスは背中に大怪我をしている。そして戦闘訓練しているとはいえ、ゴードンは所詮司祭。聖騎士に勝てる訳がない。


 女は聖騎士見習いの首席らしいが、実戦経験は皆無。

 そしてクリフの動屍ゾンビを呼ぶ呪術は、まだ油断は出来ないが、自分の法力だけでも抑え込めている。


 勝負の鍵は、ウォルグ対アレス。


 リアムスは、ウォルグの勝利を確信している為、この場の全員を抹殺する事は十分可能であると考えた。



 リアムスはそれを言葉にし、配下の聖騎士を強く鼓舞した。

 すると3人の聖騎士達は剣を握り直し、2階から降りて来たアダムスとゴードンに、斬りかかって行く。

 そして残りの聖騎士2人は、ルリアとクリフに向かって行った。 




 それぞれ死力を尽くした戦いは長く続いたが、1番先に勝負が付きつつあったのは、アレスとウォルグの戦いだった。

 


「…アレス・ブライアント、お前の名前は良く聞いていたぞ。剣の天才がいるとな。…だが私には、お前やオルソンの様な才能は無かった。だから人の5倍は剣を振って来た」



 アレスは再び肩で息をしながら、無言でウォルグの剣を受け流している。しかし、それもギリギリの状態であった。



「1つ1つ積上げて来た私だからこそ分かる。剣士の性格と思考、戦闘時のコンディション、そして剣術の幅。…天才には分かるまい。今何が起きているのか、自分は何故負けるのかを」



 アレスは最後の力を振り絞り、大剣を上段から振り下ろした。しかしウォルグはそれを読んで容易くかわし、アレスの急所を突いたのだった。


 

「…お前は何かに焦っていた。表に出さない様にしているつもりでも、俺には分かる。…恐らくは呪術による肉体の維持には、時間の制限があるのであろう?」



 ウォルグの足元にアレスはうつ伏せに倒れた。


 それでもどうにかアレスは立ち上がろうとするが、肉体の表面はドロドロに溶け、体を支えていた右足は脛辺りから砕けてしまい、アレスはそこで力尽きてしまったのだった。



「…よし、最大の障壁は無くなった! 残りの4人を始末すれば我々の勝利だ!」



 戦況を見ていた司教リアムスは、勝利を確信し声を張り上げた。


 ゴードンは司祭という立場ながら、聖騎士相手によく戦っていた。しかし体のあちこちを剣で切られ、彼もまた限界を迎えていたのだった。


 そんなゴードンに止めを刺そうと、1人の聖騎士が渾身の一撃を放って来た。ゴードンは両腕が鉛のように重く、もうそれを防ぐ事が出来なかった。


 しかし、間一髪の所でアダムスがそれを剣で受け流し、聖騎士に止めを刺した。



「…ふう、助かったぞアダムス。お前の方も終わったようだな」

「ああ。…だがもう俺は動けん。背中の傷が開いて血が足りんのだ」



 アダムスは2人の聖騎士を倒していたが、カルロにやられた背中の傷が開き、彼もとうに限界を超えていた。


 アダムスは壁に背中を預け、そのまま床に座り込んでしまった。それをぼんやり見ていたゴードンも力尽きて、そのまま意識を失い倒れてしまうのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る