第19話 絶対絶命



 アレスは、大剣の先を司教リアムスに向け宣言した。



「カルロはご覧の通りだ。…あとはリアムス、ウォルグ、お前らの首を残すのみ」



 アレスの言葉を聞き、リアムスはゆっくりとその口を開いた。



「…なるほどな。やはり死霊術師ネクロマンサーの正体は、オルソンの息子か。…そしてそのしもべとなったのはかつての親友。…君達は強い絆で結ばれていたようだな」



 クリフとアレスを取り囲んだ聖騎士8人は、ジリジリとその距離を縮めていく。そしてリアムスは続けた。



「さてクリフ、君がいかに優秀な死霊術師であろうと、この大聖堂に動屍ゾンビは呼べないぞ。司祭12名による法力の結界が張り巡らされておるからな。…そうそう、それとお友達の力も大分弱まっているはずだ。動くのも一苦労だろう」



 クリフが振り向いてアレスを見ると、アレスは眉間にシワを寄せてリアムスを睨んでいる。



「…くそ、体が重い。でも大丈夫だクリフ。俺が絶対あいつらを倒す!」



 体を思うように動かせないアレスを確認した聖騎士たちは、ここぞとばかりに間を詰め次々とアレスに襲い掛かった。


 しかし、それでもアレスは全ての攻撃を剣で受け流すが、防戦一方となってしまう。そして当然の如くその隙を付いて聖騎士2人が、アレスの後方にいたクリフを狙いにいった。



「くそっ!…逃げろクリフ!」



 アレスは叫び、クリフも後方へと活路を見出そうとする。しかし、さらに別の聖騎士2人がクリフの後方へと回り込んでしまった。


 そして、絶対絶命のクリフにリアムスが語りかけた。



「クリフよ、これで終わりだな。…だがどうだろう? もしも君がこの先、大神殿の為に働いてくれるのなら、命を助けようじゃないか? どうするかねクリフ?」


「断る。人攫いや戦争の道具にされるくらいなら、僕は死を選ぶ」



 クリフは即答し、リアムスは大きなため息を付いた。



「…オルソンも君も、どうして分かってはくれんのだ。信仰による強力な国家を作り上げれば、この国はもう他国から侵攻される事も無くなる。…強固な国家とはな、大勢の人々の死の上に成り立っている物なのだよ。どの国の成り立ちもそうだ。そこに例外は無い」



 アレスは4人の聖騎士を相手にし、肩で息をするようになっていた。通常アンデッドとなったアレスは疲れや痛みを感じないのだが、12人の司祭による法力がクリフの呪術を弱め彼をそうさせるのだった。


 そしてクリフも4人の聖騎士に囲まれ、さらに間を詰められてしまっていた。



「クリフよ、大司教任命の儀は知っているな? それが終われば、大神殿は聖地と認められ巡礼者の落としていく金で、この国には莫大な金が集まる。…ラディ、トマス、ノブレス、そしてカルロも死んだ。莫大な金の配当者は随分少なくなった。どうだクリフ、配当者になってお前の故郷を豊かにしないか?」



 クリフはリアムスを睨んで言い放った。



「金の亡者め! …その金の為に、どれだけの人を殺めて来たんだ!?」


「…金は力だよクリフ。金があれば家族や友人を助ける事も出来るだろう? …それに多くの人を殺めているのは君も同じであろう。…悪い事は言わん、私に忠誠を誓い大神殿の為に働いてはくれんか?」


「同じ事を言わせるな! お前の仲間になるくらいなら、死んだ方がマシだ!」


「…そうか残念だよクリフ。だがな、私はどうしても君のその力が欲しくなってしまったよ」



 リアムスはウォルグに合図すると、ウォルグは大聖堂の外に控えていた聖騎士たちに指示を出した。



「よし、お前ら女を連れて来い!」



 すると大聖堂の扉が開き、そこに2人の聖騎士に両腕を掴まれている少女──ルリアが姿を見せたのだった。



「ルリア……!?」



 クリフとアレスは、ルリアが捕らえられている事を知り愕然とするのだった。




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