第18話 4人目の首



 アレスは船内奥にいたカルロを見付けた。カルロは椅子に腰を落とし、手に持った酒瓶を呷りながらアレスと対峙している。


「…てめえが人攫いのカルロか? 人を攫い、殺し、さぞ楽しかったろうな?」

「ククク……。その通りだ。人を攫い、それが大金になり、そしてお前らの大神殿は完成した」

「なるほどな。てめえもリアムス司教も、クズ中のクズだったわけだな」


 カルロは薄笑いを浮かべ、再び手にした酒を呷る。


「このまま放置しておけば良かったものを。…大司教任命の儀が終われば、各国から大神殿に巡礼者が訪れる。いや、それだけじゃねぇぞ。貴族や王族の婚礼の儀もある。お前らの国はさぞ栄えたろうな」


「そんな事に興味はねえ。──てめえもリアムスも俺が殺す!」


 アレスは大剣を両手で構える。


「…まぁ待て。落ち着いて考えてみろ。この国は何度敵国に襲われた? その度に多くの人間が死んだろうが。金さえあれば国は強くなる。戦争の抑止力にもなれば、飢餓で死ぬ子供だっていなくなるんだぞ?」


「人を殺し、女子供を散々攫って来たお前がそれを言うのか? …もうお喋りは終わりだ。大罪者は死霊によって闇に葬られるがいい」


「チっ!…クソが」


 カルロはテーブルの下に隠していた石弓クロスボウを瞬時に取り出し、すぐ様その引き金を引く。そして放たれた矢はアレスの左肩に突き刺さった。

 しかしアレスは微動だにせず笑みを浮かべる。焦ったカルロはさらに数発放つが、アレスには全く効かなかった。カルロは青褪め、持っていた石弓クロスボウを床に落とした。


「…ク、クソっ! …貴様もアンデッドとは……」

「地獄で懺悔しろ、クズ野郎」


 アレスは大剣の一振りで、カルロの首を空に飛ばしたのだった。




───





 翌日の朝。大神殿の大聖堂では、朝の清掃をする司祭見習い達の姿があった。その中には掃除道具を両手に持ったクリフもいる。


「おいクリフ、隅々まで掃除しとけよ。見落としがあったら、俺達が怒られるんだからな」

「…うん、分かった。しっかりやっておくよ」


 クリフは変わらず、大聖堂や宿舎の掃除を同僚たちに押し付けられていた。


「さて、俺達はもう一眠りするか。出来の悪い奴がいると本当に助かるぜ」

「…全くだな!」

 

 司祭見習いの2人は大声で笑いながら、大聖堂を出ていこうとした。


──するとその時、大聖堂正面のドアが開き、大勢の人間が雪崩の様に入って来たのだった。聖騎士、司祭、その数は20人を超えた。

 そしてその中心には、司教リアムスと聖騎士団長ウォルグの姿もあった。


「リ、リアムス司教様、…それにウォルグ様まで!? こんな早朝から一体どうなされたのですか!?」


 リアムスらは司祭見習いの質問には答えずに、クリフの方を直視している。


「司祭達は2階の配置に付け。聖騎士はこのまま奴の周りを囲むぞ」

「「──は!」」


 ウォルグの指示に従い、12人の司祭達は大聖堂の階段を一気に駆け上がると、大聖堂が見渡せる渡り廊下に陣を取った。そして8人の聖騎士達はクリフの周りを慎重に取り囲んでいった。


「…司祭様、こ、これは一体何事でありましょうか…?」


 司祭見習いの2人は震えながら、聖騎士達とクリフを交互に凝視している。そして2人はクリフの背後に立つアレスの姿を見た。


「……ひ、ひいぃぃーっ! …だ、誰だお前は、いつの間に!?」


 アレスは大剣を肩に担ぎ、返り血に染まった聖騎士の鎧を纏っている。その禍々しさに2人は驚き立ち尽くしていた。


「…やれやれ、とうとうバレちゃったか。でも君達が掃除を押し付けてくれたおかげで、3人の首を祭壇に置く事が出来たよ。…あ、これはお礼の気持ちに君達にプレゼントするね」


 クリフは掃除用の蓋の付いたバケツを、2人の前に放り投げた。すると、バケツの中から血に染まった人間──海賊カルロの首が床に転がった。


「…ひ、ひ、人の首、…人の首だあぁぁああーっ!」

「……ひ、ひいいぃぃいいーっ!!」


 司祭見習いの2人は腰を抜かし全身を震わせると、四つん這いになりながらも必死の形相でその場から逃げ出したのだった。


 

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