第16話 死霊術師の正体



「その動屍ゾンビの大群が、ラディや海賊たちを襲ったって言うのか…!?」

「…そうです。フィリーさんの信じられない気持ちは分かります。…でもそれが紛れもない真実なんです」



 ケビンの話が信じられず、フィリーはウェスの顔を見る。そしてウェスも左右の掌を上に向けて顔を横に振った。



「ケビンさんの話が本当なら、この村を救ったのは動屍ゾンビたちという事になりますけど?」

「それは違う。……オルソン様なんです。オルソン様が最後の力を振り絞って、村人を救った…」

「おいおい、どういう意味だよケビン?」



 フィリーの質問にケビンは返答せず、困り果てたような顔をする。それを見たウェスは言った。



「…まぁケビンさんの口からは言えないでしょうね。その話が真実なら、オルソン様が死霊術師ネクロマンサーって事ですから」

「おいウェス、何訳の分からない事を言ってんだ?」

「まぁ、にわかには僕も信じられませんがね」


 

 オルソンが死霊術師で、その力を使って動屍ゾンビを操り、村の窮地を救った。ケビンの主張に2人は次第に言葉を失っていった。


 しばらく沈黙が続いた後、ケビンが再びその口を開いた。



動屍ゾンビが海賊を襲った光景は、多くの人が目撃しています。…しかし多くの人がパニック状態でその光景を見ているのです。動屍ゾンビが人間を襲っている、という事しか認識出来なかったのでしょう」



 ウェスはケビンのその言葉に少し考え込み、そして話し出した。



「まぁ、その可能性はあるでしょう。何せ極限状態ですからね。自分達はアンデッドに襲われた、と思い込んでいる人達がいてもおかしくありません。……でもその話には矛盾がある」


「…ええ、分かりますウェスさん。元々村は海賊に襲われていたんですから。それを目撃した人間も多くいます」

「ですよね。なのに自分達は海賊に襲われたって言う人は、1人もいません」



 そう答えたウェスは、自分の言葉にハッとなった。そしてフィリーの顔を見る。フィリーも何かに気が付いた。



「…まさか情報統制か?」

「その通りです、フィリーさん。海賊を見たと話す村人は次々に姿を消したのです。…おそらくアンデッドの襲撃から何とか逃げ切った、ラディかトマスの仕業でしょう」


「それで村人は、3年前の事を話さないのか」

「…そういう事です」



 その後、しばらくの間フィリーとウェスは、ケビンの話を聞いた。



「じゃあ、仮にオルソンさんが死霊術師だったとして、ラディやトマス、そしてノブレスを殺したのは一体誰なんだ? その3人は全員死霊術師に襲われたんだぞ?」



 フィリーはケビンに尋ねた。

 ケビンは一呼吸おいてから、ゆっくりと話し出す。



「この村でも、その事件の事は広まっています。もし、オルソン様以外に死霊術師がいるのなら、答えは1つです」



 そしてフィリーとウェスは、死霊術師の正体を知るのであった。




───




 日が沈み、辺り一面に暗闇が立ち込めたきた頃。

 大神殿の宿舎にある部屋に、その男ゴードンは帰ってきた。長年使い込んで来た長杖を壁に立て掛けると、彼はすぐに部屋の明かりを灯した。


 すると、自分が座るべき書斎の椅子に、1人の人間が座っているのが分かった。



「……貴様、一体何の真似だ!?」

「あら、お帰りなさい死霊術師さん…」



 ゴードンの書斎の椅子には、何とルリアが座っていた。



「…死霊術師だと? 何をふざけているんだ小娘が! …しかもお前は私に暴力をふるって自宅謹慎中ではないのか?」


「そんな事はどうでもいいわ。それより私はやっぱりあなたが怪しいと思うのよ。3人の首を祭壇に置いたのはあなたでしょう?」


「小娘がバカな事をぬかしよるわ! …じゃあその根拠は何だ? 言ってみろ!」


「…そうね、やっぱり何と言っても、その歪んだ顔よ!」



 ルリアの言葉に怒り心頭になったゴードンは、大声で衛兵を呼びルリアをまくし立てながら部屋から追い出した。



「お前の様なバカに付き合う程、暇は持て余しておらん! とっとと失せろ、この小娘がっ!」

「…絶対あんたの正体を暴いてやるんだから、覚えていなさい!」



 衛兵2人に連れていかれるルリア。それを見ていたゴードンは、何を思ったのかルリアの方へ歩いて来て、一言彼女に告げた。



「…小娘よ。すぐに大神殿はまた大騒ぎになる。もう危険だから立ち寄ってはいかん。…分かったな?」



 ゴードンの意外な言葉にルリアは呆然とする。そして衛兵にこっぴどく注意され、宿舎の外につまみ出されてしまった。



 ルリアは仕方なく司祭の宿舎を後にし、自分の宿舎のある聖騎士養成施設の方へと向かい歩き出した。そして数分歩いた後、ルリアは背後に誰かが自分の後をつけて来ているのに気が付いた。



「……誰? 私の後をつけてるのは分かってるわよ。姿を見せなさい!」



 ルリアがそう言うと、物陰から3人の聖騎士が姿を現した。ルリアはその3人の中に見覚えのある人物を見て驚いた。



「ウォルグ騎士団長!? ……一体私に何のようですか?」



 聖騎士団長ウォルグは何も喋らずにルリアに近付くと、彼女の腹部にその拳を叩き込んだ。ルリアが地面に倒れると、ウォルグは2人の聖騎士に命令を下した。



 聖騎士たちは用意した縄でルリアを縛ると、大きな頭陀袋に彼女を入れそのまま連れ去ってしまったのだった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る