第15話 アレスとオルソン



──3年前、ケビンの命を救ったのはアレスだった。



 アレスは故郷がアンデッドの襲撃を受けているという事を知り、即座に早馬を走らせオルソンが率いる討伐隊に加わった。


 彼はまだ聖騎士見習いではあったが、養成施設での成績は常にトップであり、「剣の天才」と言われ続けたウェスであっても、アレスには一度も勝てないほどだった。



 そんなアレスは、生まれ故郷が海賊に襲われている現実を目の当たりにすると同時に、6聖剣ラディがオルソンの背中を刺すという目を疑う様な光景も見てしまった。


 しかし、それでもアレスはラディの剣が仲間のケビンに迫った時、反射的にケビンの腕を掴み強引に後方に引き寄せた。

 それでもラディの剣はケビンを突き刺したが、アレスの咄嗟の判断でケビンは何とか致命傷だけは避けられたのだった。



「──ラディさん、何故だ!? なぜオルソンさんを切った!?」

「…ククク。金と自由を手に入れる為さ。ここにいる奴らと村人共も全て殺す!」

「き、貴様!自分の部下を殺すと言うのか!? …気でも狂ったか!」



 アレスは、聖騎士の精鋭中の精鋭である「6聖剣のラディ」と互角に戦った。

 自分の家族を、友達を、ラディや海賊から守りたかった。

 なぜラディがオルソンや自分達を殺そうとしているのか、アレスはまるで分らなかったが、目の前のラディはオルソンを殺した敵に間違いなかった。


 アレスは限界を超えてラディと戦った。しかしさらに不幸が彼を襲う。


 討伐隊から少し離れた場所に、本来いないはずの男──6聖剣トマスの姿があった。トマスはすぐに馬を走らせ、アレスの背後に回ると同時にアレスの背中に切りかかった。

 しかしアレスはそれさえも、驚異的な反射神経でどうにかかわした。──しかしその機会をラディは逃さなかった。


 アレスはラディの一撃で致命傷を負い、その場に倒れたのだった。



「…くそ、若造が手こずらせやがって」

「ラディ、まだまだ任務は残っているぞ。目撃者の聖騎士と村人を全員殺す」

「分かってるさトマス。後は海賊たちと戦っている部下達を、背後から刺しまくれば終わりだぜ」



 こうしてラディとトマスは馬を走らせ、海賊と戦っている討伐隊の聖騎士らを背後から襲ったのだった。

 アレスのおかげで重傷を負いながらも、何とか致命傷を避ける事が出来たケビンは、薄れてゆく意識の中でその一部始終をぼんやりと見ていた。



──オルソンが死んだ。自分を助けてくれたアレスも死んだ。そして仲間の聖騎士たちも……



 1人、また1人と聖騎士たちがラディとトマスに切られて倒れていく。そして海賊たちは再び村の住民たちを襲い出している。そんな光景を見てケビンは絶望した。


 そんな時、ケビンはふと倒れているオルソンを見た。ケビンもオルソンの武勇や人格に憧れ聖騎士を目指した1人だった。その男が自分の眼の前で倒れている。ケビンは悔しかった。



 そんな時、ケビンは1つの奇跡を見ることになる。


 死んだと思っていたオルソンが、右腕を少しづつ、地面から上げていったのだ。オルソンは自分と同じようにかろうじて生きている状態、もう少しでその生命の灯火が消えようとしているのがケビンには分かった。


 そしてオルソンは声を振り絞って何かを喋ったのだ。



「……ゆ、…許して…くれ、みんな、…これしか…方法はもう…」



 オルソンは最後の力を使って、自身の掌を天に向けた。

 ケビンにはオルソンが何をしているのかが、全く分からなかった。しかし、どれくらいの時間が経っただろうか、ケビンが気が付くと辺りの景色が一変していたのだ。



───アンデッドの大群。


 ケビンの前方では、海賊に襲われて死んだ村人やラディらに殺された聖騎士達が、動屍ゾンビとなり、よろめきながら皆同じ方向へと歩いていくのが見えたのだった。


 

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