第14話 3年前の陰謀



 隠れていた男はウェスに見つかり、何かに怯えるようして短剣を握り閉めている。それを見たウェスは、特に剣を抜く事もせず黙って彼を見ていた。


 そこにフィリーもやって来て、その男の顔を確認する。



「お前、ひょっとして… ラディの部隊にいた、ケビンじゃないか!?」

「!? ……こ、こっちへ来るな! あなた達は一体何をしにこの地へ来た!?」


「落ち着けケビン。俺達は3年前のオルソンさんの不審な死について、知りたいだけなんだ」

「…フィリーさん、あなたは司教の心棒者ではないのですか!?」



 男の「司教」という言葉に、フィリーもウェスも顔付きが変わる。



「司教? リアムス司教は大神殿の指導者ってだけだ。 …俺が心から憧れて目標にしていたのはオルソンさん、ただ1人。……俺がスラム街で喧嘩に明け暮れていたのを拾ってくれて、聖騎士として育ててくれたのがオルソンさんなんだ」



 フィリーの頬にはいくつもの涙の雫が垂れる。それを見ていたウェスが話し出した。



「ケビンさん、フィリーさんはオルソン様の事になるとすぐこうなるんですよ。……それと僕もウォルグさんみたいに司教には心酔していません。ついでに言うと慈愛母神マレイヤすら信じていませんからね、僕は。…剣技を極めたいだけなんで」


「おいウェス、そりゃ問題発言だぞ!? …それに俺の話はまだ終わってねぇ!」

「はいはい、では続きをどうぞ」



 フィリーはその後もオルソンの事を涙ながらに語り続けた。ウェスは呆れて大剣の手入れを始めている。


 ケビンは、2人の言葉が嘘とは到底思えなかった。



「…信じていいのですか、フィリーさん」

「ああ。勿論だ」



 ケビンは握っていた短剣をそっとテーブルの上に置いた。



「ケビン、…とりあえず生きていてくれて、本当に良かった」

「…まさか、あなたがラディ隊の末端の騎士である私の事を、覚えていて下さるとは…」


 ケビンはフィリーが自分の生存を喜んでくれた事、そして3年前の事件の事も思い出し、自分の感情を抑える事が出来なかった。

 彼はその場に蹲ると、やがて声を出して泣いたのだった。


 ウェスは何も口を出さずに、家の窓から外の景色を見ている。しばらくしてケビンが少し落ち着いてから、フィリーは言った。



「…ケビン、3年前の事件の事、話してくれるな?」

「……はい。勿論です。全て話しましょう」



 ケビンは隣の部屋へ2人を連れていき、自分を匿ってくれていた女性を彼らに紹介した。



「彼女はナタリー。重傷を追っていた私を助け、半年以上も献身的に世話をしてくれた人です」


「そうだったのか、本当に大変だったなケビン」


「…ええ、そして私は怪我が癒えると、ラディ達から身を隠す為に2年ほど生まれ故郷に戻っていたのです」


「ラディだと…!?」フィリーは思わず身を乗り出した。


「はい。私はラディとトマスが死んだと聞いて、やっとナタリーに会いに来れたのです。ナタリーは私の命の恩人ですから」


「ケビン、どうしてラディとトマスから身を隠していたんだ!?」


「フィリーさん、私はこの目で見たのです。──オルソン様が背後からラディに刺されてしまうのを」



 ケビンの言葉に、フィリーとウェスは驚きのあまり言葉を失った。





───3年前。


 オルソンの生まれ故郷に、アンデッドが出没したとの情報が神殿に入った。オルソンは聖騎士団長としての任務も他にあったが、自ら志願してアンデッド討伐隊に加わった。


 元々その地域は6聖剣ラディの管轄であった為、ラディは指揮官として討伐隊20騎を率いた。こうして総勢22騎がオルソンの故郷へと向かったのであった。



 しかし、討伐隊がオルソンの故郷へ辿り着いて目にした物は、アンデッドなどでは決してなかった。逃げる住民を背後から剣で斬り付けているのは、海の略奪者──海賊だった。



「こ、これは……! 一体どういう事だ!?」



 オルソンは不可解な状況に直面しながらも、聖騎士達に素早く指示を出し、自身も故郷の人々を助けるべく馬を走らせようとした。



───その時だった。


 オルソンは背中に殺気を感じてすぐに後方を見ると、味方であるはずの6聖剣ラディが自分の背中を深々と突き刺して来たのだった。


 オルソンが落馬し動かなくなるのを見たラディは、オルソンのすぐ後方に控えていたケビンにも切りかかって来た。ケビンは状況が把握出来ず、そのままラディの剣で刺されてしまったのだった。




───




「私もラディに切られたのです。しかし、…私は1人の若者に命を助けられた」


「…若者?」とフィリーはケビンに尋ねた。


「そうです。3年前のアンデッド討伐には、1人の凄腕の聖騎士見習いも駆け付けていたのです」



 凄腕の聖騎士見習いという言葉に、ウェスが思わず反応する。



「…ケビンさんその若者って、ひょっとしたらブライアントの事でしょうか?」


「ウェスさんもご存じでしたか。…ええ、その通り。私を助けてくれたのは、アレス・ブライアントです」


 

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