第11話 海賊カルロ



 しばらく考え込んでいたフィリーに、ウェスが声を掛けた。



「フィリーさん、オルソン様はやっぱり強かったですか?」


「…ん? ああ、もちろん相当強かったぜ。今のお前でも絶対勝てないくらいにな」


「え、それは相当ですね」


「ウェスてめえ、己惚れてんじゃねぇ!」



 フィリーはウェスに頭頂部に拳骨げんこつをお見舞いする。割と強かったその衝撃にウェスは自分の軽口を後悔した。



「…それにしてもオルソン様は、誰もが憧れた聖騎士でしたよね」


「ああ。…英雄譚にもなった最強の男が、アンデッドなんかに負けたなんて未だに信じられねぇ」



 フィリーは込み上げて来た物を、手の甲で乱暴に拭った。オルソンは彼にとって恩人だったともウェスは日頃から聞いている。



「…そうだフィリーさん、少し馬を飛ばせばオルソン様の生まれ故郷ですよ。2人でお墓参りしましょうよ」


「……はぁ?何言ってんだ?任務中に」


「大丈夫ですって。調査という名目にすれば。それに3年前の事、何か分かるかもしれないですよ?」


「お前って、堅物そうに見えて意外と自由奔放だよな」



 ウェスはフィリーに笑顔を向けると、すぐに騎馬で駆けていく。



「こら、待てよウェス! まだ部下達に何の説明もしてねえだろうが!」


 フィリーは、引き連れていた40人の聖騎士の小隊長らに命令を下すと、慌てて騎馬で駆けていったウェスを追いかけるのだった。




───



 

 その日の夜。リアムス司教は、6聖剣ウォルグとアダムスを筆頭に聖騎士団の精鋭30名を連れて、とある港街の漁港に来ていた。



「よし、20名はここで待機しておけ。何かあったらすぐに煙弾で知らせるからな」


「了解致しました、ウォルグ様。…どうかお気を付けください」


「ああ。しっかり準備しておけよ。海賊は腹黒くて予測不能だからな」


「──は!」



 昼間であれば、海や波止場にはいくつもの漁船が見えるのだが、殆どの住民が寝静まる時間のせいか、波止場に一隻の船しか見当たらい。 


 しかしその船はどう見ても漁船ではなく、見る者を圧倒してしまう威圧感と不穏な空気に満ちている。


──そう、それはまさしく海賊船であった。



「…これはこれは。まさか司教様までお越しになるとは…」


「いいから、すぐにカルロの所へ案内しろ!」



 ニヤついた男の言葉を遮るように、ウォルグがまくし立てる。



「勿論ですとも。お頭はこの奥でお待ちです」

「下手な真似はするなよ」



 男は薄笑いを浮かべたまま船の甲板を歩き出す。その後にアダムスと3人の聖騎士が続き、ウォルグは司教リアムスも守るように周囲を警戒しながら歩いている。

 そして残りの7人の聖騎士が後ろを警戒しながらそれに続いた。



 男が船室のドアをノックすると、低い声で「入れ」と短い返事が返って来る。

 ドアを開けた男が、中に入るようにアダムス達に合図した。


 先にアダムスと3人の聖騎士が中に入り、ドアの外で待っていたリアムス司教に声を掛ける。

 リアムスは部屋の奥の大男と目が合った。大男は大きなロッキングチェアにふんぞり返って酒瓶を手にしている。



「…カルロよ。久しいな。元気でやっておるか?」


「司教、挨拶はいらねえ。すぐに本題に入ろうじゃねえか」


「そうだな。…では、さっそくノブレスの事だが」 


「おっとその前に1つ質問だ。見ない顔がいるが、そいつは大丈夫なのか?」



 海賊カルロは、6聖剣アダムスの顔を指さしている。



「6聖剣のアダムスだ。数日前から私達に協力する事を誓ってくれた」


「数日前だと? …本当に大丈夫なんだろうな、司教よ?」



 猜疑心の強いカルロに、アダムスが返答した。



「自分で言うのも何だが、俺はギャンブル狂でな。人生が破綻する直前に司教に助けてもらった」


「…そういう事だカルロ。私がかなりの額を肩代わりしている」



 アダムスと司教の言葉に、カルロは豪快に笑い出す。



「そいつはいい。それなら信用出来るってもんだ。賭け事はいいよなぁ。分かるぜ兄弟」


「…では話を戻そうカルロ。ノブレスが死んだのは、お主ももう知っているな?」 


「ああ、勿論だ。まさか俺を疑ってはいねえだろうな、司教よ?」


「お主が裏切った可能性は低いと考えている」



 リアムスのその言葉を聞いた海賊カルロは、突然激昂したのであった。



 

 

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