第10話 6聖剣 フィリーとウェス



「…た、た、助けてくれーっ! …ぐああぁぁあーっ!」


 ノブレス邸には、無数の動屍ゾンビ骸骨戦士スケルトンが押し寄せ、次々に私設兵団の兵士らを襲った。実戦経験豊富な兵士らは当初こそアンデッドを倒していったが、どこからともなく無数に出現するアンデッドの群れに、とうとう根負けして次々と噛み殺されていった。


 数の暴力で私設兵を圧倒するアンデッドの大群。やがてそれらは腐敗臭を当たり一面に撒き散らしながら、ノブレスの寝室まで押し寄せた。



「…だ、誰かおらぬか! 助けて、助けてくれぇーっ!!」



 ノブレスがそう叫ぶと、何故か目の前の動屍ゾンビ達はノブレスを無視して、全く別の方向に徘徊していってしまった。



「……ど、どうなっているんだ!?」



 すると蠢く動屍ゾンビの大群の奥から、大剣を肩に担いだ男がゆっくりと歩きながらノブレスの眼の前に姿を表した。



「…クク。お前がノブレスか。まるで出荷前の豚だな」

「だ、誰なんだお前は!? …ど、どうして私を狙うんだ!」

「大罪者は死霊によって闇に葬られる、…ただそれだけの事さ」



 男は部屋の片隅にうずくまっているノブレスに、一歩一歩近づいていく。



「…ま、待ってくれ! 頼む殺さないでくれぇ。金はいくらでもやる!」



 男は肩に担いでいた大剣を構えると、瞬く間にそれをノブレスの心臓に突き刺した。次第に薄れゆく意識の中で、ノブレスは男の着込んでいる鎧に見覚えのある紋章を見た。


──それはまさに、慈愛母神マレイヤへの信仰を形取った紋章であった。



「…ま、まさか、…お前は」



 ノブレスはそこで息絶えたのだった。






───ノブレスの首が祭壇に置かれた2日後。


 短期間に3人もの首が祭壇に置かれ、大神殿ではまだ普段の荘厳な静けさを取り戻せずにいた。


 大神殿の中に死霊術師かその協力者がいると分かり、誰もが周りの人間に疑心暗鬼となるのは至極当然で、大神殿中には不穏な空気が立ち込めている。

 修道女の中には故郷に帰りたいと願う者も多くいたが、誰が死霊術師の協力者か分からない今では、その願いは全て却下されていたのだった。



 一方、聖騎士達は初めの事件発生と同時に増えつつあるアンデッドを討伐すべく、忙しい日々を送っていた。



「いや〜、相変わらずウェスの剣術は凄まじいな」

「フィリーさん、僕はまだまだですよ…」



 6聖剣ウェスは、肩にかついでいた大剣をゆっくりと背中の鞘へと戻した。


 大神殿から西に約8キロ。広大な共同墓地にアンデッドの目撃情報が大神殿に通達され、6聖剣のフィリーとウェスは聖騎士団40騎を連れて、そこにやって来ていた。


 フィリーは聖騎士団の副団長を務める男だが、誰にでもざっくばらんに接する男であり、多くの聖騎士から慕われていた。

 彼の特技は、一度会った人間の顔と名前を全て覚えてしまう事であり、それも慕われる要因であった。


 そしてウェスは、6聖剣の中で一番若く昨年19歳という若さで、6聖剣に大抜擢された青年だった。おまけに顔立ちも整っており、同性より異性に慕われる事が多かった。



「謙遜すんなよウェス。剣術で団長のウォルグさんに匹敵するのは、お前くらいだろ?」

「…でも、僕が聖騎士見習いの時にもっと凄い男がいましたよ。僕はそいつに模擬戦で一度も勝った事がありませんでしたからね」


「マジか? …お前より凄え奴がいたのかよ!?」

「ええ、歳は僕の1つ下ですけど、あいつはまさしく剣の天才でした」

「…で、そいつは聖騎士団にいるのか?」



 ウェスはフィリーの問いかけに、少し間をおいてから返答した。



「あいつ、…ブライアントは3年前に死にました」

「3年前って、例のあの事件で死んだって事か?」

「その通りです。……ねぇフィリーさん、今回の事件と3年前の事件、何かきな臭い匂いがしませんか?」

「……ほう、お前もやっぱりそう思うか?」



 6聖剣フィリーはウェスの質問に答えると、3年前の事件について思考を巡らせた。



───そう、3年前の前聖騎士団長オルソンを襲った事件について。


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