第6話 剣霊

「ギャ~ッ!」


 空燕がもう一度叫ぶと、鋭い爪を引っ込めたでかい肉球が空燕の顔を踏み潰す。


『その反応は一度で十分なのよ。煩いからこのまま息の根止めてやろうかしら』


 どうやら良い声は虎の声らしい。その声が物騒なことを言う。空燕は苦しくなってきて、顔の上の前足をバタバタ叩いた。


『……はぁ〜。もう、叫ばない?』


 呆れたような声に、空燕は肉球の下で首を縦に振った。黄金の虎は空燕の顔を踏み潰していた右前足を退けると、汚い物でも拭うように臥牀に擦り付けた。

 空燕はその様子に少しだけ傷つきながら、問う。


「……ぇえ〜と、、どちら様で?」


『……はぁぁ〜。私、あんたのその危機感のなさ、尊敬するわ……』


 黄金の虎が空燕を、食べる価値もない獲物を見るような目で見る。


『私の名前は『真叶シェンエイ』。そうあんたの愛剣よ。……正しくは、あなたの愛剣に宿った剣霊けんれいよ』


 空燕はその言葉に目を剥いた。


「剣霊?」 空燕が首を傾げる。


『そうよ』 虎が頷く。


「霊?」 空燕が反対側に首を傾げる。


『そう』 虎がまたかこいつと頷く。


「霊!」 空燕が突如として大声を出す。


『しつこい!』 虎が唸った。


「霊など見えたこともないのに!!何故!?」


 空燕が頭を抱えると、虎がなんだそんなことかと言った。


『あんた、掟を破ったでしょう?だから、魔や霊や魑魅魍魎ちみもうりょうを感じるようになっちゃったのよ』


 まぁ、三十年も一つも掟破んなかった奴もそういないんだけど。


 虎のその言葉は空燕には届いていなかった。

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