第4話 黒い影

 荷造りを終えた空燕は早速と言うように馬車に乗せられ、湊国への途上にある。馬車を操るのは盛将軍その人だ。

「いくら友好関係にあるとはいえ、他国の将軍が一人で来たのか?」と問えば、「お忍びの任務だから」と返された。

 鎮魔ちんまなんて眉唾物まゆつばものに頼ろうとしているなんて公に出来ないよなと、空燕はやけに納得した。


 馬車の中の空燕は、盛将軍を思い浮かべた。

 隣り合った北の巍国ぎこくと南の趙国ちょうこくが一つになって出来た湊国しんこくだが、盛将軍の母国である巍国は元々趙国に侵略される側だった。

 それを防ぎ、趙国との戦争で将軍に成り上がったのが、盛将軍だ。その将軍がまさかあれほど若い男だとは。

 若さにも驚いたが、空燕を更に驚かせたのはその影だった。


 妓楼の前で巡り会った時には気が付かなかったが、盛将軍の影はやけに存在感があり、濃く、そして禍々しい印象を空燕に与えた。

 空燕は気の所為だろうと思い込もうとした。自分には魔を見ることも、聞くことも出来ないのだ。今までだって、怪異や魔を感じたことすらない。


 だから、この鎮魔の旅は茶番劇だと思っていた。それなのに。

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