第10話 開かない扉

 病棟は「く」の字を描くように建っている。一方が病棟にはいる扉、片一方がOT室だ。曲がった部分がナースステーションだ。

 

 扉には当然施錠がされていた。

 私たちスタッフもその扉の施錠は厳しく言われていた。


 患者さんは皆、その扉を目指していた。

 いや、違う。みんなに聞いたわけではないので断定出来ない。一生、病院で終えるのを望んでいる方もいらっしゃるかも知れない。


 でも大多数はその扉が施錠されていない状態を狙っていた。施錠するたびにそれはひしひしと感じる。


 外泊や家族面談の時はその扉を通ることが出来た。しかし大抵の方は外泊の許しなどでなかった。テレビ以外は社会から隔離された生活であった。病棟が社会であってすべてであった。


 汗水漬くで働いている時は寝ている患者さんが羨ましくもあったがすぐに間違いだと気付けた。なぜなら病棟から一歩でれば私は何ものにも不当な拘束を受けない自由だからであるからだ。


 たぶん僕は入院を望めば叶う病状だと思う。自分でもいかれているのはわかっている。でもたぶんわかっているという一点から僕は働いているように思う。上手く言えないけど……

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