第8話 非常階段
階段の掃除を命じられた。
「階段?」
2病棟には1階まで通じる非常階段があったのだ。
重たいドアを開くと照明のスイッチが直ぐに目に付いた。下まで降りてみた。
「これは凄い、凄いぞ!」
これまでの構想が消し飛んだ。
飛んだ瞬間、また消し飛んだ。
「階段では車いすの患者さんは降りられない……」
5㎝くらいのヤモリがちょろちょろしていた。箒でシッポを押さえた。するとシッポは切れ、本体は逃げて行った。シッポはくねくねしていた。
「2病棟、50名、全員を助けるのは無理なのかもしれない。車いすの人は残す……」
掃除などせずに階段に座って考え込んだ。
「車いすの患者さんは15名。知的に階段を降りるのが無理であろう患者さんが5名。残り30名をこの階段から逃がす。同意しない人も出るだろうけど……」
「死ぬまでここからでれんよ……」と言った近藤さんの言葉がリフレンする。
「みんなわかっているんだ。病院だってビジネスさ。常に50名前後の患者さんは抱えていたいはずだ!退院なんて無理だし、家族も望んでいない。じゃどうすれば…いいの?」
「ヘタすりゃ大量殺戮で希望してた歴史に名を残すことが出来るかも…しかし、今の僕に司法は何て言う?」
論点がズレてきたので掃除のふりは辞めることにした。収穫はヤモリのシッポだけだ。
「これだけの建物に火をつけたらどのくらいのスピードで火の手が回るのか?考えとかないと本当に殺戮者になるよ!」
荒木田は正義感からすべてを抱え込もうとしていた。
なぜか?そういう病気だからである。
過去、何度もそれで失敗していた。
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