第3話 懲りない面々

 病棟3階から窓下に見える池を眺めながら昼食を取るのが唯一の憩いだ。


 午前中は入浴の補助の仕事だった。全然上手く出来なかった。しかしそれはさておき刺青を入れた患者さんが多かった。ヤクザだと思う。若い頃ヤクザやって好きなことして歳取って年金で入院生活って汗かいて働いている給料より年金の方が高いとは納得いかない話だ。年金ではないかもしれないが三食昼寝つきとはいい身分だ。そんな奴らは死ねばいい……とは言えない。死ねばいい人などいない。


 暑いほど池の緑色は増し、森の木々と同化していく。


 昼からも入浴補助だ。辞めることはきめているが取り急ぎ目の前の仕事はこなさなくてはならない。

「いい人が辞めて残念ね~」など思われたくもない。黙っていなくなる、これが僕の辞め方だ。


「そろそろ行くか」


 絶望的感情で食堂を後にした。


 浴室に行くには50名を収容する談話室がある。食堂にもなる。


 寝てる人、まだ食事をしてる人、ひたすら誰かに文句を言っている人、歌っている人……大体皆さん毎日同じことをやっている。


 「おまえがどかんか!(どかないか)」


 「やるか?車いすで」


 怒号が飛び交う。とりあえず行って二人を離す。こんなのは日常茶飯事だ。

 

 患者さんのほとんどは統合失調症だ。鬱が一人いたかな?私は躁鬱病なので感じるのだが雑な診断ではなかろうかってね。病名が付くことで安心する人もいるだろうがその間服用する薬も違ってくるから注意が必要だ。


 なぜ、こんなことを言うかというと私に躁鬱病と病名が付いたのは発症して10年後だ。鬱病から躁鬱病に診断が変わった。全く違う病気だ。確かに判断の難しい病気だが主治医から詫びられたことはない。


 みんななにかしらの病気だった。躁鬱病の男が統合失調症の患者さんのお世話をしているという図式だった。僕の心身の負担は容易に想像が付くだろう。まあ、続けるのが始めから目的ではないのだけれど……。


「紙とクレパス…何色にもできるな」      


 自分の心身が秒単位で刻まれ、綻び始めているのを感じていた。

 

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