敵艦発見!!
回天を2機出撃させた翌日の深夜23時。
潜水艦の電波探知機は、敵艦1隻を発見した。
敵艦はこちらに向かってきている。
私は命じた。
「魚雷戦用意! 並びに、回天戦用意!」
回天2機にそれぞれ、搭乗員が乗り込む。
「急速潜航! 敵艦との距離を詰めろ!」
潜望鏡で敵艦を確認する。
艦橋の高さは30mと思われた。
この大きさなら、敵は戦艦かも知れない!
なんという大物。
敵艦は単独航行をしている。
この付近の海域は、制空権も制海権もアメリカが握っているため、まさかこんなところに日本軍の潜水艦が来ているとは思ってもいないのだろう。
相手が1隻なら、戦いは容易だ。
しかし、深夜であり、月明かりもなく、回天の簡易的な潜望鏡では敵艦を視認できない可能性が高かった。
回天は、一度出撃させてしまうと、回収は不可能。
出撃させて敵艦にたどり着けなかったら、特攻隊員はさぞかし無念であろう。
この距離なら、回天を使わなくても、通常の魚雷での攻撃が可能だ。
しかし、本艦が既に敵に発見されているのであれば、この後、爆雷攻撃を受ける可能性がある。
本艦の位置は絶対に、敵に気付かれてはならない。
艦内は静寂に包まれた。
何一つ、物音を出してはいけない。
敵艦のソナーに感知されないようにするためだ。
声を出す分には大丈夫。
艦内の空気の振動は、海中には伝わらない。
しかし、扉を強く閉めたり物を落としたりするのは厳禁。
艦の振動が海中を伝わって、敵艦のソナーで聴取されてしまうからだ。
何か大きな音を立ててしまえば、それが原因で位置が特定され、爆雷攻撃を受けて約100名の命が海の底に沈んでしまうことになる。
海底の静けさの中で、通信員は敵艦から発する音を聴取し、報告した。
「敵艦内から食器を落とした音が聞こえます」
潜水艦は、海中では視界が限られている。
よって、聞こえてくる音が頼りなのだ。
こちらに直進してくる敵艦は、左へと舵を切り、本艦に対して舷側を見せた。
こちらに爆雷攻撃を仕掛けるのであれば、本艦の直上に来るはず。
弱点である舷側を晒すということは、こちらの存在に気付いていない可能性が高い。
魚雷攻撃でいける!
私は確信した。
航海長から、攻撃位置到着の報告を受ける。
水雷長からは、魚雷発射準備完了の報告を受ける。
海底の静けさの中で、私は命じた。
「魚雷、発射!」
合計6発の魚雷が、敵艦に向かって真っすぐ進んでいく。
魚雷を発射したため、こちらの位置は相手に聴取されてしまっているだろう。
この魚雷が当たらなければ、返り討ちに遭ってしまう。
通信員は爆発音を聴取した。
「3発命中!」
報告を受け、乗組員たちの士気が上がる。
私は潜望鏡を覗き込む。
敵艦は炎上しており、右舷に傾き、沈みつつあった。
敵艦からの反撃に備えて深度を下げると共に、とどめを刺すために再度、魚雷の装填を命じた。
その時、回天の搭乗員から艦内電話が入る。
「敵が沈まないなら出撃させてください!」
しかし、この距離で既に魚雷を命中させた以上、回天を出撃させる必要はない。
私は、回天搭乗員からの出撃要請を却下した。
30分後、魚雷の装填が完了し、私は艦を潜望鏡深度まで上昇させて、敵艦の様子を探った。
海面に、敵艦の姿はなかった。
「敵戦艦、1隻撃沈!」
艦内は大いに湧いた。
久しぶりの大戦果である。
一方、涙を流して悔しがっている者たちもいた。
回天の搭乗員たちである。
「戦艦の如き好目標に、なぜ回天を使用しなかったのか!」
彼らは、死ぬために生きていたのだった。
自分の死をもって祖国に報いたい。
ただそれだけを考えて、狭い潜水艦の中で毎日を過ごしていたのだった。
彼らの気持ちも分かる。
しかし、私は自分の判断は正しかったと信じている。
数日後、海軍基地からの無線で、
「敵重要艦船、遭難。捜索中らしき敵の通信、多数あり」
との報告を受けた。
ひょっとしたら、本艦が撃沈した艦船のことを指しているのかもしれない。
さらに数日が過ぎた。
無線によって、広島に新型爆弾が投下されたとの情報が伝わってきた。
もちろん、この時の私たちは新型爆弾が何なのか、知る由もなかった。
8月15日。
終戦の知らせを無線で受けた。
日本は戦争に負けたのだった。
このことは、一般の乗組員たちには、帰港するまで秘密とした。
本艦には回天の搭乗員たちが乗っている。
敗戦を知ってしまうと、生き恥を晒すことになると考えた彼らが、自決をしたり独断で戦闘を継続したりする可能性があるからだ。
私は、彼らに死に場所を与えることはできなかった。
8月17日、我々は日本本土の港に寄港した。
私は、乗組員に日本の敗戦を伝えた。
回天搭乗員のみならず、乗組員みんなが涙した。
下船した我々は、武装解除を受けた。
潜水艦や回天は米軍に没収され、海中に投棄された。
私は、艦長としての任務を終えた。
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