くすんだ銀の英雄譚~おひとよしおっさん冒険者のセカンドライフは、最大最難の大迷宮で~
226.冒険者のエリートって何ですか…? と首を傾げそうになりましたが、そういえばそんな話がいつぞやあったような気がしなくもありません。【後編】
226.冒険者のエリートって何ですか…? と首を傾げそうになりましたが、そういえばそんな話がいつぞやあったような気がしなくもありません。【後編】
「そう……なんですか?」
《連盟》の教導施設が置かれるようになったのは比較的近年になってからのことで、確かにすべての支部に置かれているものではない。だが、それでも冒険者の活躍が盛んな地方や地域――その中でも大都市の支部を中心として、この二十年ほどの間で、各所へ設置が進みつつあるものだ。
さすがにミッドレイのような田舎町では縁のないものだが、クロンツァルトの国内に限っても、王都ウェステルセンのみならず、ランズベリーやロンドフォード、ダンブリッツといった主要な都市ならば、規模の大小こそあれど、そうした施設はあった。
まして、オルランドは東方の《
シドの疑問に応じる形で、セルマは頷いた。
「それこそまさしく、民業との競合を避けざるを得なかった結果です。《スクール》の選抜課程には冒険者宿のネットワークも出資を行っており、《連盟》の側も、それら冒険者宿の意向を無視できるものではありません」
――どうやら、また世知辛い類の話らしかった。
渋い顔になってしまうシドを他所に、「さらに」とセルマは話を続ける。
「オルランドの市内に限れば、選抜課程の卒業生は
「おまけに、どこの冒険者宿でも好きなとこ選びたい放題だしねー」
カウンターに頬杖を突きながら、やれやれとばかりにサティアがかぶりを振る。
「所属先がネットワークでも有力どころの冒険者宿だったりすると、《連盟》も余計に強いこと言えないってハナシだよね。『うちの冒険者が不当に低く評価されている』――だなんて変な難癖つけられちゃったら、何かと面倒も多いだろうしさ」
「《連盟》の一職員としては、たいへんお恥ずかしい限りですが――ご推察の通りです。サティア様」
――そこまで。
シドは渋面で呻きかけた。
これまで件の二人に対しては、完全に『知人の子供』相手の距離感でいたシドだったが。つまるところその彼らは既に冒険者として、シドよりはるか高みにあるということではないのだろうか――少なくとも、このオルランドでは。
「でもまあ、そんなのがうちに来てくれるっていうんだから、あたしとしては願ったりかなったりってくらいだよ。たしかその子達って親御さんの紹介だっけ? 今度お礼を言いに、きちんとご挨拶行った方がいいかなぁ」
「ソウカモネ……」
うきうきと言うサティアのことばを聞きながら、内心、少なからぬショックを受けていたシドであった。
果たして、自分はちゃんとやってゆけるのだろうか――そんなにも輝かしい道を歩む、未来の俊英達と共に。
「ところでその二人、歳と性別は?」
「? サティア、どうしてそんなことを」
――気にするんだ? と最後まで言い終えるより先に。
「わかってないなぁ」とばかりに指を振りながら、サティアが答えた。
「部屋割り。考えとかなきゃでしょ? フィオレさんやクロちゃんもそうだけど」
――確かにそうだ。
これからパーティを組むにしたところで、今日はじめて出会ったばかりの相手と相部屋というのは、心情的にきついものがあろう。繊細な年頃の少年少女であれば
「《スクール》に通ってたっていうくらいだし、もしかしたらその子達は、もともとオルランド住まいなのかもしんないけどさ。でも、家から
フィオレを見る。件の二人と直接面識がありそうなのは――少なくとも、ナザリ達の娘とは会っているはずだ――彼女一人だ。
シドの視線に気づいたフィオレは、考え込む表情をして、
「もう一人の子のことは、私も知らないんだけど……ティーナは名前の通りに女の子で、たしか十一よ。今年で十二歳」
「じゅうに!?」
ぎょっと眼を剥くサティア。
だが、それも無理からぬ反応であっただろう。オルランドの学制がサティアの語ったとおりのものであるなら、件の彼女はたった一年で、その選抜課程なるものを卒業した計算になる。
「えっ。それ……なんていうか、本当に? 本当にそれ、ぜんぶ信用していいやつ?」
「そう言われても……」
さすがに、あまりにも話がうますぎるということか。にわかには信じがたいといった面持ちになるサティアに、困惑を深めるフィオレ。
「一応念のためで訊きたいんだけど、それってそんなに凄いことなのかい?」
「《スクール》は選抜課程も含めて単位制だし、講義を受講しなくても試験に合格さえすれば、単位はもらえたはずだから……だから、卒業に必要な分の単位を集めるだけなら、もしかしたら、なのかもしんないけど」
サティアは呻く。
「でも、普通は一般課程と同じ四年制のはずだし。卒業試験に落ちて留年するのも珍しくないみたいだから……」
つまるところ、これはよほどの『異例』なのだろう。
だが、そう――そういうことなのだ。サティアの驚愕は、そもナザリからこの話を聞いたときからシドの中にあった懸念と、おそらくその理由を近しくするものだ。
満年齢十二歳は、子供だ。
少なくとも、クロンツァルトの――シドの常識では、まだ『子供』の年頃である。
冒険は危険な
いくら何でも、真っ当な家で育った、未だ大人とすら言えない年頃の子供が進んで飛び込むような、そんな仕事ではない。
そんなものに、自分の『娘』を連れていってほしいというナザリの話を最初に聞いたときは、さすがにシドも面食らったし、我が耳を疑いもした。
この話はそうしたシドの当惑を押して、なおナザリの方から強く頼み込まれた結果始まったものであったし、その『娘』にまつわる『事情』を聞き知ることとなったのも、そうした中でのことだった。
サティアから学制の話を聞いた時点で、「やはり」という気分はいや増していたが――この場でもっともオルランドの事情に詳しいであろう彼女の困惑しきった反応に、およそのことには呑気なシドの胸中にも、さすがに不安の陰りがよぎりはじめる。
ドアベルの軽やかな音と共に玄関が開いたのは、ちょうどそんな時だった。
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