その5 飛び去った非道。
甘ぇ。
ほんのり甘ぇ。
砂糖で甘くした水とは全然違う。
スッキリした甘さだ。
これいくらでも飲めるやつやん。
期待以上の味で、気分が良くなった私は、眼鏡を外して川の水で顔をじゃぶじゃぶ洗った。
うひょ~、甘ぇぜ美味ぇぜサイコーだぜ!!
もうちょっと飲もう。
イイ感じに甘くて清々しい気分だ...。
ジョボジョボジョボジョボ
浮かれてはしゃぐ私のハートに、耳が音を届けた。
それは水の音のようだけれど、川を流れるそれとはまた別だと感じた。
持参したタオルで顔を拭き、眼鏡をかけて音のした方向を見る。
??:「コンニチハ。」
あ、こんにちは。
あなたの股間も、こんにちは。
蛇口の先から、ジョボジョボボ...。
....
おおおおおめええええええよぉおおおおおお!!
それは無い!
それは無いって!!
ありえん!!
あったらアカン事やで!!
だってそこ、上流やし。
私が飲んでた川の、水の、上流やし!
あれかおまえ、アレか。
そういう変態プレイヤーか。
「お飲みなさい」じゃねぇぞ!!
っざっけんなよ!!
マジで頭に来た私は、何か言ってやろうと思い、腰の痛みも忘れて、ツカツカとそいつに向かって歩み寄ろうとした。
その瞬間...
バサッ!!
男の背中から、羽が現れた。
白く、大きく、左右整ったそれは、すぐさま肉体の左右に広がった。
??:「ジャアネ。」
有翼人はそう言うと、クルッと向きを変えて川に背を向け、力強く地面を蹴った。
それと同時に左右の羽が大きくはばたき、浮いた肉体をさらに空へと運んで行った。
あまりの出来事に、私は文句を言うために開けた口を塞ぐ事もできず、呆然としたままその姿を見送ってしまった。
ポカーンと開いた口は、仕事の機会を失い、閉じるタイミングもわからなくなった。
思い返せば、私が階段を下りてここに来た時、周囲には誰も居なかった。
顔をじゃぶじゃぶしている時に空から降りたのでなければ、この状況はありえない。
風を切る音や着地音は感じられなかった...。
そうか...有翼人が存在するのか...と、ここが「異世界」である事を、改めて実感した。
むしろ、今やっと、「異世界に来たんだな」と、心の底から納得できたと言える。
事態を理解し、色々と納得した。
そして我に返り...
オエエエエエエ!!!!
時間差で気持ち悪くなった。
あいつのよぉ、アレをよぉ、飲まされたかと思うとよぉ...。
はぁ...。
川縁で体育座りをし、惨めな気持ちで水面を見る。
そんな私の背後から足音がし、聞き慣れた声を耳が拾った。
イケ:「お待たせ~。どう?もう水飲んだよね?美味しかった?」
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