その4 甘い水の流れる川。
PCゲームに明け暮れた翌日の天気は、一転して快晴となった。
腰の痛みは消えてはいないけれど、我慢すれば本来上るはずだったあの石段を踏破できる...んじゃないかなあ、たぶん、ってぐらいには良くなった。
イケ:「これ以上は無理だ、と思ったら遠慮なく言ってね。」
新井:「うぃうぃ。」
軽く返事をしたものの、あまり自信はない。
もし、途中で動けなくなったら、イケモトは私をどうするつもりだろうか?
昼食は、乙枯川の下流にある、‘山麓蕎麦もげろん’で、「やまいも納豆オクラそば」を食べた。
ここ数日食べさせてもらっているイケモトの料理、味付けがとても私の好みにピッタリで、店で食べるよりそっちの方が良いと感じていた。
イケモトにそれを伝えると、「でも自分で蕎麦は打てないからなあ。」という返事だった。
もし私がリクエストしたら、蕎麦を打つ修行を始めたりするのかな?
食事の後、行ける所まで車で進み、無料駐車場に停めた。
いよいよ川沿いを上流へ向かって歩き出す。
地元の名所らしく、歩道が整備されていてありがたい。
神社巡りであんな所まで歩いた私だけれど、道らしい道が無い場所に行くのは好まない。
石だらけの場所をピョンピョン跳ねながら進まないといけないなら嫌だな...と、内心思っていた。
イケ:「ここから歩いて10~15分ぐらいかな。」
駐車場から歩き始める時、そう言っていたイケモト。
私の前を歩く事5分、足が止まった。
何やら上を向いている。
新井:「ん?何かあった?」
横に並んで、声を掛けた私に...
イケ:「へばった...。」
と、弱々しい返事をする。
早ぇよ!!
額から、滝のような汗を流している。
イケ:「この道、真っ直ぐ、看板あるから、先を歩いて...。」
新井:「いいよ、一緒に行くよ。」
うむぅ...これ、私が腰痛が酷くて歩けなくなるようだったら、本当にどうやって助ける考えなのか?
気持ちでどうにかなる、みたいな精神主義?
そこからは横に並んで、一緒にトボトボ歩いた。
はひぃ
ふひぃ
はぁあ~~~
イケモトの口から、情けない呼吸音が出て来る。
よっぽど日頃運動不足なんだろうな...。
立ち止まる事数回、最大15分と予想していた距離を30分かけて...
‘↓水汲み場↓’
という看板を発見した。
新井:「ここ?」
イケ:「うん、そう。行って来て。」
新井:「一緒に行かないの?」
イケ:「ちょっと、経ってから、行く。」
イケモトはそう言って、その場にへたり込んでしまった。
新井:「じゃあ、行って来るね。」
私はそう言い残すと、看板の指示に従い、川へと向かう階段を下りた。
その先は、私が当初予想していた石がゴロゴロした場所で、5メートルほど先に川があった。
「水汲み場」って書いてあったけど、まんま川やんけ。
上空から光が射し込み、水面がキラキラ光っている。
白い雲、青い空、イイ感じだ。
水筒を持って来ていたけれど、最初の一口は手で飲みたい。
水の流れに両手を浸し、すくい上げて口に運んだ。
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