第3話 方法
薬の時間が近づいて、慌てて洗面所に顔を洗いに行った。ひどい顔をしている。「不幸な女の顔って、こんな顔なのかしら?」なんて自惚れながら、ナースステーションに薬を貰いに行った。
「大丈夫? 不安時の
看護師さんの言葉に首を振る。薬はできるだけ飲みたくなかった。
部屋に帰りかけると、後ろから
「薫さん。月を見に行きませんか?」
携帯ブースから紫と一緒に月を見上げた。柔らかい光。なんで月はこんなに優しいんだろう。
「月の光を吸い込んでみてください」
紫が言う。
「光を吸い込むって不思議な表現ね」
ふっと笑いながら、私は言われた通りにやってみた。とても癒やされる感じだ。随分と気分が安らいだ。
「不安時のお薬より効くかも」
笑って言うと、
「薫さん……あと5日ほどで新月です。『誓い』を書きませんか?」
紫は真剣な表情で、そう言った。
紫に具体的な方法を教えて貰い、誓いを書いてみることにした。「おまじない」に過ぎないことなんだろう。でも、こんなに真剣に心配してくれる紫の気持ちがありがたかったから、やってみるだけやってみようという気になったのだった。
「やり方は、とてもシンプルなんです。紙にペンで、自分の誓いを書くだけなんです」
「『誓い』って、『願い』ではないんだっけ?」
「『〜しますように』っていう他力本願な形では意味がないんです。」
「どんな形にすれば?」
「『私は〜になっています』っていう『未来形』です」
「未来形?」
「英語で言えば、I hope 〜でも I wish 〜 でもありません。I will 〜 です」
確かに、「will」は未来形だ。自分がどうなっているかを書けばいいのか。
やり方は、とても簡単なものだった。
1、 紙とペンを用意する(どんな紙でもどんなペンでも構わない。自分が好きなものやピンときたものを使用すると良い)
2、 新月の時間を正確にチェック
3、 48時間以内に「誓い」を書く(8時間以内がベスト)2つ以上10こまで
「……ますように」という書き方ではなく、「……になっています」という形で書く。
「○○君とつきあえますように」ではなく、
「○○君とつきあっています」のように未来形で。I hope ではなく、I will の形で。
4、 書いたら読み直す。確認する。
5、 時々見ることができるところに保管するのが良いが、見なくてもいいし、毎日見てもいい(ネガティブな願いは叶わない)。
「要するに、新月を迎えてから48時間以内に、なりたい自分を2〜10個、紙に書けばいいだけです」
「方法は難しくなさそうだけど……」
「あ、それと、主語は、必ず『私は』で。自分がなりたいことを書かないとダメです。あと、ネガティブなことは叶いませんので注意して下さいね」
確かに、方法は難しくなさそうだった。でも、そこに辿り着くためには「他力本願」ではいけないのは確かだ。
「次の新月は、9月15日金曜日の午前10時40分です。新月になった後に書き始めて下さい。48時間以内に」
「わかった。やってみるよ」
単なる「おまじない」であることはわかっていて、期待もしていなかった。
でも、今の自分が、未来にはこうありたいと思うことは、とても前向きなことにも思われ、私は、書いてみようという気になったのだった。
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