第19話

 ココ、夜の国、魔道具が全然発達してる。


「伝書紙に例の特殊なインクを使ってるんですね、成程」

《コレは、ブランシュもココに呼ぶべきかも知れませね》


「けどなぁ、好きな人が出来たかもだし」

《そこは相談してみましょう》


 で、帰って来たら。


『ふへへへ、ざまぁ』


「ブ、ブランシュ?」

『あ、おかえりなさぁーい』

「聞いてくれよアヤト、アイツマジでクソでさ」


 僕らの居ない間に、ブランシュが失恋してた。

 しかも割と早い段階で。


「ブランシュ」

『けど今はすっかり不能さんになってくれて、ふふふふ、ざまぁ』

「シアンにシスターが相談して分かったんだよ、ふふっ、ざまぁ」


 その話は瞬く間に広まって、流石に隊の中でも普通の扱いになったらしく、町の人も同情して普通に接する様になったらしい。


『緘口令の意味、プギャー』

「無理だよ、人の口に鍵を掛けるの大変だし、プゲラ」

《広まってからの緘口令は無意味ですしね、領主様も理解しての事なのでしょう》

「あぁ」


「ま、コレで良かったと思うよ、下手にヒソヒソと続くよりはさ」

『私はもう満足ですよぉ、一生裏で語り継がれるでしょうし、私の様な思いをする者が出なくなるのが1番ですから』


「偉い偉い」

『えへへへ』

「でも僕はブランシュには幸せになって欲しいな」

《ですね、移住しませんか?夜の国へ》


『するぅ』


 それから一夜明けても意志は変わらずで。


「本当に良いの?」

『だって安全なんですよね?』

《はい》


『それにユラさんもセレッサさんも行くんでしょうから、行くしか無いじゃないですか?』

「そこは大丈夫だよ?この家は残す事になったし」


『偶には売りにだとかは来るつもりですけど、結局はココでも可哀想な子だって見られちゃうのが嫌なので、寧ろ移住させて下さい』


《そうですね、噂が落ち着けば可哀想だとの印象も落ち着くでしょうし、意外と向こうで良い出会いが有るかも知れませし》

『いや、もうそこは本当に期待しません、平穏に魔道具が作れるのが1番ですから』

『ブランシュ、ごめんね』


『いえ、私に見る目が無かっただけですから、気にしないで下さいユラさん』


 優しいしユラも懐いてる。


 もしハンナが居なくて、ブランシュと出会ってたら。

 多分、僕はチョロいからブランシュと付き合って、結婚してたかも知れない。


 だからじゃないけど、良い人だから、幸せになって欲しいんだけど。


 あれ、これ。


「キョウさん、ちょっと良いですかね」

「おう?」




 バカと言うか、馬鹿正直と言うか、愚直と言うか。


「何か、考えてる途中で、僕って酷い人間なのかなと思って」


「ハンナに言わなかったのは偉い、それと俺に相談したのも偉い。その性質、ハーレム形成には向いてるだろうけど、下手すれば相談女に堕ち易いクソ性質だ」

「ですよね、前に教えて貰った事と合致して、本当に僕ってチョロいなと思って」


「いや、下手に意固地にならないから良いんだよ。俺は絶対に他を愛さない!とか不確実な事を思い込むより、偉い、自分をちゃんと分かってて偉い。何処かのクソと偉い違いだ」


 うん、このネタで隊のガス抜きをしてやろう、未だに許せないだとか嫌悪してるヤツも居るし。


 そう思う事は悪い事じゃない、好む権利と同等に、嫌う権利は平等に存在すべき。

 同性愛者を何とも思わなくても良いし、性転換者を嫌っても良い。


 実害さえ無いなら、害さないなら、心の中は自由が保障されるべき。


「僕、どうしたら、どう思えば本当は良いんですかね」

「そのままで良いと思うぞ、だって実際にブランシュは良い子だし、可哀想だと思って然るべき事態だし。けど後先を考えて、手を出さない、そこが1番大事じゃん」


「何か、浮気したみたいで嫌なんですけど」

「まぁ、逆の立場でハンナさんがそう思ったら嫌だろうけど。言うなよ、言っても何も良い事は無いから」


「でも浮気に近く無いですか?」

「可能性の問題でしょうよ。そこを考えないより、考えた上で選んだって事が重要だと思うけどなぁ」


「やっぱり言います」

「えー、ハンナさんが誤解したらどうすんのよ」


「そこは誤解を解きます、ブランシュは良い子だって、ちゃんと本人に理解して欲しいなと思うんですけど」

「なら本人じゃなくて周りに言えば良い、それはいつか本人にちゃんと伝わるから大丈夫、夜の国で相手探しのついでに言う程度で十分だよ」


「何となく理屈は分かるんですけど、そんな上手くいきますかね?ちゃんと伝わります?」

「ブランシュに万が一でも気を向けられたい?」


「いえ」

「そこだよ、分かって貰えるってなると大概は惚れる要因になる。けど後で、人から分かって貰えたんだってなると尊敬とか敬愛の念になり易い。自分の居ない所で友達とか先生が褒めてくれてたら、嬉しいとか有るじゃん?」


「あー、いゃー」

「無いか、まぁ、俺も無いから想像なんだけどさ。俺がアヤトを凄い褒めてたって後から知ったら、嫌な気はしないでしょうよ?」


「直接言って貰うのが1番なんですけど?」

「まぁ、俺らは恋仲になる事は無いから直接言うけどさ。男女関係は難しいからこそ、不要な誤解を避ける為だよ」


「浮気心では」

「無い、可能性の問題を客観的に考えて出た答えの1つ。ってか別に今はブランシュちゃんを抱くつもりすら無いだろ?」


「無いですし、ブランシュはそんな子じゃないと思います」

「でも弱ってるとさ、そうはいかないんだよ、自暴自棄も相まって抱かれちゃう子も居るのよ。下手をすれば自傷行為、しかも自傷行為だって気付かないで適当な相手と付き合う子も居るしさ、そうならない様に支える方が重要じゃない?」


「本当に、幾つなんですか?」

「教えなーい」




『いやぁ、マジでもう皆は許してるみたいですけど、俺は無理だぁ』

「可愛い娘ちゃんが生まれたばかりだもんなぁ、そらそうだよ」

《俺の妹にあんな奴が近寄っただけで、俺もう許せないっすよ》


「だよなぁ、けどシスターは何も悪く無いからなぁ」

《そこなんすよねぇ》

『子供が生まれるまでには、まぁ、普通に接してやろうとは思いますけど。関わらせたく無いし、子供がクソになられたら許せるもんも許せないし』


「そこでさ、色々と学べる場所を作ろうと思うんだよね、それこそ領主様を支えられる様な子にする。教会だけだと手狭だから、町から離れた所だけど寮も作ろうと思ってるんだよね」

《それ、金ってどうなんすか?》

『領主様を支えられる程って、理想高過ぎじゃないっすか?』


「そら急には無理だよ、でもあのクソみたいのを捻り出さない為には、色々と教えないといけないじゃん?」

《まぁ》

『問題は金っすよね、1人だけしか入れられないのは逆に可哀想だし』


「半年に1回、1人に幾らなら出せるよ?」

《マジなんすか?》

『ウチは、この位っすね』


《マジっすか》

『ギリギリ、死ぬ気で、贅沢を一切しなければ』

「成程な、なら子供が多く入るなら割引にするか」


『ウチ最低でも3人は欲しいんすけど』

「良いねぇ、そこらも考えて金額決めるわ」

《マジっすかぁ》


 読めるけど書けないヤツが多いから、助かるっちゃ助かるけど。

 金が掛るのかぁ。


「教会ではタダだしな、まぁ、分かるよ」

《ウチの妹、ちょっと体が弱いし、嫁に出さないといけないから大変なんすよ》


「そこも考慮しないとだよな。けど入れられるなら入れるか?」

《そら勿論っすよ、あのクソに引っ掛からない様な子になって欲しいんすけど、俺らは働きに出ないとだし》

『そこなんだよなぁ、ウチの親はもうすっかり同情してるし、けど嫁は相変わらず許して無いし』


「そこらが解決出来れば最高だよな」

《そっすねぇ》

『だな』


 それからマジで学園が出来た。

 アイツの愚行は絵本になって、子供にボコボコに言われてて流石に俺らも許した。


 うん、凄いな、学校って。

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