第18話

《彼が夫のアヤトです》

「宜しくお願いします、アヤトです」


 凄い、ハンナと同じ耳と尻尾、それと顔。

 似てる。


 ユラの記憶では、兄弟姉妹が居ない事になってるけど。


《長男のカインです、どうも》

「次男、4番目のアベルです」


 えっ、凄く不穏な名前だけど。


《今は居ませんが長女はルルワ、次女はアワンと言うんですが。すみません、其々に旅に出ていまして》


 ルルワって、カインとアベルが殺し合う切っ掛けだったような。

 でも、そう仲が悪そうにも見えないし、悪いとも聞いて無いし。


 いや、コレが先入観だ、何か言うのは止めておこう。


「そこはハンナから聞いてるので」

《全て話しました》

《ぁあ、そうなんだね》

「どう思う?」


「まだ全てを知らないんですが、ハンナがココに戻った時点で、少なくとも他のご姉妹はココへ戻って幸せになっても良いんじゃないかとは、思います」


 ぁあ、意志表示苦手。


《そう伝えたんですけどね》

「ルルワは仕事が終わったら戻って来るみたいなんだけど、アワンは連れが居るから少し悩んでるみたい」

《ルルワが奴隷紋、アワンは奴隷商等の監視役だそうです》

「その、安全なんですか?」


「うん、連れは奴隷だし」

《外の者には、普通では見えない刺青を使っているんですよ》

「へー、凄い、応用したら色々と便利そうですね」

《まだ魔道具等の案内は受けていないので、追々お願いしましょう》


「そうだね」


 ご両親に会うべきか凄い悩んだんだけど。

 ハンナが会わせたいって言うまで何も言わない方が良いって、キョウさんが。


 確かに、兄に僕の子供を見せるとなると、ちょっと引っ掛かるし。

 ハンナの兄弟姉妹も許して無いなら、別の家庭の事なんだし、任せよう。




「良い人だね、嫌味抜きで」

《そうなんです、珍しく邪心が殆ど無い人だと思います》

《それに怯えないのも良いね、ココで普通に過ごして大丈夫だと言っても、つい身構えるのが殆どだから》


《そこは私と私の身内を信頼しての事だと思いますよ》


 それに彼は強いですから。

 多分、何となく気配は感じ取ってる者が何人か居そうですけど、手出しをする気配は無いですし。


 居ても、私が潰せば。


《そうだ、他にもココに来たい子が居るんだよね?》

《はい、気配としては、恐らくは竜人かと》

「ココでは珍しいけど、星の国に多いんだよ」


《多いと言っても殆どが竜のままの姿で、人型は珍しいですね》

《それは何故なんですか?》

「まぁ、大きさがね。僕達もだけど、獣や魔獣化の呪いを受けて姿を変えられた者の子孫、その呪いが解けないままに子を成した結果だ。って言われてるけど、最近は違うんじゃないかとも言われてる、竜と人との間に子が出来たから」


《竜と人が》

「あ、メスの竜とオスの人間ね、卵から人が産まれたのにはビックリしたよ。けど殆どが竜なんだよね、9個の中でも1個だけが人型だった」

《しかも親の特性を受け継いで、アルビノ種なんです、目は赤く肌も髪も白い。そうして目立つ子は直ぐに狩られる側になりますから、どうしても他国には出せないんですよ》


《では、そうした者の番は?》

「竜になれる子は竜と、けど人型と人が番っても竜の子は滅多に生まれないらしいし、特性も人の方を多く受け継ぐんだって」


 今までの世界でも、異種族間の妊娠率は非常に低い、しかも妊娠の継続が難しい場合も有る。

 魔王なら実験だと言って好き合う様にさせ、様々な組み合わせを試したんでしょうけど、流石にココでは難しそうですね。


《ハンナ、妊娠の事なら大丈夫だよ、女性側に淫紋さえ入れれば確率は倍になるから》


《それは女性側が人の方が、確率が上がるんですよね》

「そうそう、そこなんだよね、人側が妊娠する方が安定する確率が凄く上がるんだ。けど竜種は子種に作用されるのか、人型の殆どはオスなんだって」

《私達は大きさがそう変わらないからか、生まれて来る子供の性別への影響は殆ど無いですよ》


《ぁあ、致してる最中に竜化されたら裂けて死にますもんね》

「それもだけど、まぁ、大きさがね。そこは伸縮自在らしいけど、怖いしね」

《無いとは思いますけど、まぁ、体躯が違い過ぎますから受け手が受け入れる事が稀なのでしょうね》


 以前なら大人気でしたけどね、竜種。




『ブランシュ?』

『帰りましょう、ユラさん、セレッサさん』


 ブランシュがデートを終えて迎えに来てくれたのは良いんだけど。

 何か、凄い、落ち込んでる。


 けど今はキョウもハンナも居ないし。


 シアンに相談かな?


『どうしたの?』

『ぅう、愚痴を聞いてくれますか?』


『私?シアンじゃなくて?』

『ぁあ、ぅうん』


『それかシスターに』

『ぅう、そこが原因なんですぅ』


 帰る事になって普通にお別れした後に、次の約束をしてないなと思って戻ったら、シスターと話してる時に嬉しそうだったって。

 うん、私でも心が折れる。


 って言うか酷い、普通にムカつく。


『今聞く』

『いえ、もう良いんです、諦めますから』


『何で』

『大き過ぎるのは困りますけど、無いよりは、有った方が良いのは分かりますし』


 胸。

 確かに全然違うけど。


『じゃあ、ならデートしなければ良かったのに』

『まぁ、欠点に目を瞑れるかもとは思ってくれたのかもですし、もう良いんです、恋をしなくても結婚しなくても死にませんし』


『嫌だ、何でデートしたか知りたい』

『私は知りたく無いです、どうしようも無い事ですし』


 嫌なら断りそうな人のに。

 もしかしてブランシュの勘違い、とか。


『ブランシュの勘違いかもだよ?』

『デートの時、緊張してるのかなとも思ったんですけど、あんな顔見てないんですもん』


『聞く、2人に聞く、ブランシュは離れてて』

『はぃ』


 良い人かな、良い世界かなと思ったのに。


『シスターが好きなの?』


「ブランシュ嬢、何の事だろうか」

『シスターと凄く嬉しそうに話してた、シスターが好きならどうしてブランシュとデートしたの?』


「子供には関係」

『有る、同じ失敗をしない為。ねぇ、シスターが好きなの?』


「シスターは女神に」

『好きか聞いてるの、それ、はぐらかし?』


「いや」


『もう良い、領主様に言うから良い』




 彼が口を割らないから、と、本当に領主様の所へ。

 そこで流石に話したらしく、シスターと彼が付き合う事に。


 はぁ、私、噛ませですかそうですか。


「すまなかった」

『本当ですよ、良かったですね、人の不幸や恋心を踏み台にしてお付き合いする事が出来て、精々幸せになれば良いんじゃないですか。あ、子供にはしっかり教えてあげて下さいね、妥協や打算で相手を選ぼうとすると、周りをとっても傷付ける事になるって。あ、シスターモレノには内緒でしたっけ、私とデートした事すら知らないんですし』

《恨みを買えばどうなるか分かっていただろう、だと言うのに、お前が深く考え無かった結果だ。ブランシュ嬢の頼みで、今回は咎は負わせないが。お前の胸だけで押し留め子供にはしっかりと教育をしろ、でなければシスターモレノごとお前をココから追い出す、分かったな》


「はい」


 それでも愛欲に負けて子を成して、幸せに暮らすんですよね。

 はぁ、クソ、マジでクソ。


 もう良いや。


《すまなかった》

『いえ、見る目が無いのは前回で薄々気付いてましたし、もう良いです。恋をしなくても死なないし、結婚しなくても子を成さなくても死なないし、もう良いんです』


《だが、いや、いっそ政略けっ、いや、すまなかった》

『ごめんねブランシュ、何で、何もしないで許しちゃうの?』

『クソでもお客様はお客様、私達のゴハンの元ですからね、減らすより増えて貰った方が得ですから』


『ごめんね、頭良いのに』

『もういっそ、もっとクソバカな相手を』

《それはお勧めしない、愚か者の底知れぬ愚かさは深淵よりも厄介だぞ。先々代の夫がそうだったらしい》


 統治に無知でやりたい放題、しかも周りも無知で遺産争いが起きたらしい。

 ですけど当主は妻の方、妻の血筋でも無いのに勘違いした妾が争いを初めて、知らしめる為に妾達を晒し首にしたらしい。


 そして夫と血の繋がりの無い子供は教会へ。

 だからこそ、教会はココでは嫌煙される場所だった、と。


『その、お子様達は』

《功績を挙げる為に殆どがスタンピードかダンジョンで亡くなったが、唯一の子孫がモレノ。祖母もシスターだったが愚かでな、だが祖父母と生まれた息子は賢く、教会は存続が可能だったのだ》


 幾ら子孫が多くても、結局は愚かなら死ぬ。

 生きるか死ぬか。


 死なないならもう、このままで良いですよね。


『ごめんね』

『ユラさんは何も悪く無いですよ、悪いのはあのクソなんですから』

《すまない》




 うん、俺も許せない。


「君だよね、ブランシュを傷付けたの」

「すみませんでした」


「君の子供が同じ目に遭う様に呪ったから、しっかり守ってあげてね」


 絶望した顔すんなよ、マジでウザい。


 嫌ならするな。

 当たり前なのに、向こうでも問題になる事で。


 大変だろうな、残るアヤト達は。

 まぁ、だからこそコレが大義だなとも思うんだけど。


《教育の重要性をまざまざと見せつけられる事になるとはな》

「良い機会だけど、最悪だ」


 裏で聞いてたけど。

 本当、ブランシュちゃんとか子供が1番傷付くからこそ、親は気を付けないといけないのに。


《学園創立を、どうか、お願い致します》

「俺は専門家じゃないから、助力をお願いしますよ領主様」




 隊の仲間達には既に伝わっていた。

 モレノには言わないではいてくれてるが。


『お前の子供と遊ばせるのを躊躇われるって、思わなかったワケ?』

「すまない、浅はかだった」

《子供に罪は無いって限界が有ると思うんだよね、だってさ、嫌ならしなきゃ良かったんだしさ》


『そこな、つかブランシュちゃんマジで可哀想』

《前も取られたんだろ、見る目っつうか、今回は相手が悪かったよな。まさか俺らもシスターが好きだとは知らなかったし、けどまぁ、俺らも何か償いをしてやらないとな》


「すま」

《謝るなら最初からすんなよ、クズ》

『まぁ、皆のシスターだから我慢してやってたんだろ、コイツなりのなんじゃねぇの』


《マジで有り難迷惑だわ》

『だよな、俺らユラちゃんに毎回泣かれるか睨まれるかだし、本当困るわ』

「すまない」


《謝るだけで償えてしかも望みが叶うなら楽だよなぁ》

《あまり追い詰め過ぎないで下さい、無茶をされて困るのは俺達なんですから》

『そらそうだ、うん、俺は無視させて貰うわ。嫌味しか出ねぇし、けど仕事はしますよ。それに子供がしっかりとした子ならまぁ、子供に罪は無いって事にしますよ』

「悪かった、すまない」


《では、見回りに行きますよ》

「はい」


 もう町全体に伝わっているのか、俺の思い過ごしなのか。

 視線が辛い。


《町を出ても構いませんけど、他でも既に事実が出回っているから無理ですよ。見られていましたからね、君とブランシュ嬢の事も、ユラ嬢に連れられて領主様の元に行ったのも。君は娘を持つ者の敵になったんですよ、緘口令は敷かれてますが、その事に甘えないで下さいね》


「はい」

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