第17話

『如何でした?』


 ハンナが偵察に行ってる間、試しにって。

 感度が2桁は上がる潤滑剤を貰って、1人で実際に試したんだけど。


「痛い」

「でしょうねぇ、実質、神経剥き出し状態なんだろうし」

『もうちょっと薄めれば良いんですかね?』


「いや、アレ、せめて中だけの方が良い、どう足掻いても電気が入った様な痛みで無理」

「いや、でもアレじゃん、乳首開発とか、ドМには喜ばれるんじゃない?」

『あー、世に聞く珍しい性癖の方ですか、成程』


「シアンちゃん知ってるんだ、流石耳年増」

『違いますよ、朝の国の先代の王がドМさんだったので』

「えっ」


 兄貴。


「あー、アレかな、プレッシャーに弱いとか、それこそ罪悪感が大きいとなるって聞くし」

『そこなんですかねぇ、優しい方でしたからビックリで。けどまぁ、そうですよね、だからこそ私がこう追い立てられたんでしょうし』


 ココで今更兄貴の性癖を知るの、こう、微妙な気分に。


「ま、アレだな、もう少し抑え気味のを何パターンか作るって事で」

『はーい、かしこまりでー』


「どんまい」

「はぃ」




 奴隷紋を消してきて正解でしたね。

 予想通り、重罪人の子が奴隷紋を刻まれ各地へと売り飛ばされ、奴隷紋を消さずに逃げ出して来た者は同行者と共に送り返される。


 ただ、そこであまりにも不遇であれば、今度は買い手側に奴隷紋が入れられココへ連れて来られる。

 そして獣人の奴隷紋は解呪され、ココで使用人や養子に迎え入れられる。


《私の親の罪、とは》

『人と交わり子を成した事、お前を作った事だ』


《念の為にお伺いしますが、どうして罪となさったのでしょうか》


『ただでさえ当時は人が獣人を排除しようとしていた時期、そんな時に治世に協力もせず性欲に任せ子を成した』

《子を思えばこそ、適切な時期に適切な場所で。では、片方は獣人奴隷だったのですね》


『あぁ、貴族が入れ込んで起きた悲劇、隠されていた為に知るのが遅れてしまった』


《兄弟姉妹が》

『一先ずは養子に出されたが、1人は親の罪を贖う為に奴隷紋を入れる者となり、1人は各地の監視役の為に奴隷として人と旅をし』


 親の面倒を見る者、ココで教育を施す者。


《そして、私》

『恨むなら親と世界を恨んでくれ、平和的に地位向上と融和政策を同時に行うのは不可能なのだ』


《必ず利権や権利が絡みますから、はい》


『お主の主人は善き者だったらしいな』

《申し訳御座いません、人と婚姻を果たしてしまいました》


『子は』

《いえ、暫くは、主人に姉妹がおりますので、その方がお育ちになるまではと。ココへの移住もしっかり考えて下さってる方です》


『お前の親も、そう賢ければ良かったんだがな』


 愚かな親の罪は子へも類が及ぶ、だからこそ親となったのなら自身を律さねばならない。

 愚かな子の罪は親の罪なのだから。


《あの、私の》

『あまり勧めないが、まぁ、会うだけ会ってみたら良いだろう』


 子は親に似ると言うのは、あくまでも外見だけなのかと思う程に、愚かな人達だった。


「あぁ、やっと戻って来たんだね」

『私達はこの様な状態だけど、ココならもう大丈夫よ』


「元気そうだね」

『奴隷紋が無いから入れたのよね、じゃあココでお相手を見付けないと』


《先ずは謝罪が先では》


「ハンナ」

『あ、ハンナと名付け』

《確かに私はハンナですが、どうして獣人差別が多い時代に私達を生み出したのですか。愚かさは罪なのです、どうしてココに来る事を考えず、人の領地で子を成したのですか》


『この人を奴隷には』

《ココの者を説得したんですか、ココの内情を調べたんですか》


『いいえ、でも』

「僕が行くなと言ったんだ、バレなければ大丈夫だと。子供の伴侶の事までは、考えてはいなかった」

《何とかなるだろう。けれども、どうにもならなくなって子に類が及んだのですよね》


「人に惚れても良いだろう、そう思っていた、けれども甘かった」


 奴隷紋を刻む者になったのは、既に顔を焼かれてしまっていたから。

 人に嫉妬され顔を焼かれた可哀想な長女を生み出したのは、この2人。


《人の薄情さを知り、独身のままに今でも奴隷紋を刻んでらっしゃるんですよね、お姉様は》


『ごめんなさい、どうか、止めてあげ』

《無理です。この世が奴隷紋を必要としなくならない限り、きっと、お姉様は仕事を止めないでしょう》


 人も獣人もエルフも、子が愚かさの犠牲にならない状態になるまで、私なら止めないだろう。


「すまなかった」

『ごめんなさい』


《今の希望は、孫を抱く事ですかね》

「叶わないだろう言われている、けれども」

『いつか、抱けなくても、見るだけでも』


 世界が救われるとしても見せませんし、なら他の方法で世界を救えば良いんですし。


《そうですか》




 愚者の親を持っているのに、妹は賢い子に育っていた。

 罪人の子と言えども、赤子だったし、やはり良い場所に送り届けてくれたのだろう。


《すまないね、色々と教えたんだけど、アレが限界らしい》


《お疲れ様で御座います、お兄様》


 こう、労われると。


《すまない、あの愚か者の血が入っているせいか、どうにも涙脆くて》

《私達は私達。賢ければ賢い程、愚か者のお世話は辛いかと、心中お察し申し上げます》


《ココで平穏に過ごした僕を、許してくれるんだろうか》

《許すも何も、何処で生きても辛さにそう変わりは無いかと、得て苦労するのも無いままに苦労するのも、苦労は苦労です。寧ろ、私が許して貰えるか不安なのですが》


《知らないからこそ結婚したのだろうけど、それこそ許す許さないでは無いよ、アレらとは違って考えて慎重に行動しているのだろうし》


《ですが今は、違う懸念点も浮かんでいます》

《何かな?》


《その、夫となった方のご姉妹が、ココを知れば直ぐにも子供をと望む様な方なので》

《あぁ、別にココでなら大丈夫だよ、僕も既に子が居るし。血筋なのかね、人にどうにも惹かれてしまうのは》


 奴隷の子として連れて来られた貴族の娘に、うっかり。


《あの、でしたら星の国は》

《あぁ、その説明を任されてるのが君の弟、ココで教師をしてるんだけど。どう?会ってみる?》


《はい》


 表情は柔らかい、それこそ普通だけれど。

 尻尾や耳に出るまでに僅かに差が有る。


 この子は、どれだけ苦労して来たんだろうか。


「えへへ、お兄様とか言われちゃったんだけど」


《どう思う、あの子》

「凄い苦労してるっぽいよね、何か、固かったし」


《少し差が有るんだよね、尻尾や耳に出るまで、まるでコントロールしてるみたいに》

「あー、そこまで見て無かったわ、ごめん」


《いや、先に言わなかったから無理も無いよ、本当に少しの差だし。慣れてからは殆ど差が無かったし》

「なら大丈夫そうなんじゃない?」


《なら良いんだけどね、打ち解けたって演技だったら、それ程までに苦労して来たって事だし》

「連れて来るんでしょ?旦那だけ」


《アレらが役立たずだし、僕達が見極めないと》

「姉ちゃん達も呼べば?」


《来るかどうか、上のは未だに人間嫌いかもだし》

「あー、寧ろ守ってやんないといけないかもなのか」


《だね》


 奴隷紋を解呪し、四肢が揃って無事にに戻って来てくれた子。

 ただ、どれだけ苦労したのかは未知数。




『おかえり』

《ただいま、早速ですが情報共有を》


 星の国は夜の国と内々に同盟を結んでいた国だった、って。


「だよねぇ、夜空には星が有るんだし」

『セレッサ返そう?』

「そうだね、先ずは身近な子から」

《でしたらシアンも、子を成す気だそうですから》


「うん」


 上手い流れの有る世界。

 けどコレ作られた世界なんだよなぁ、そう流れる様に仕組まれた世界。


 じゃあ、朝の国の王が20年周期で交代すんのも、仕方無い仕組みなのか?


「なぁ、もしかして朝の国って、必要悪なのかねぇ」


《悪しき見本、ですか》

「何となく理屈は分かるんですけど、それ本当に必要なんですかね?」

「綺麗事だけで片付けられない事が出たら、やっぱり裏の仕事人とか必要じゃん?」


「そう、そこですか?」

「だってココで俺らの理屈を押し付ければ解決する事って、殆ど無くない?向こうですら差別が無くなってないのに、じゃあ専門家でも無い俺らが解決出来ると思う?向こうでだって専門家が頑張って、アレだよ?」


「そこは、そうかも知れませんけど」

「後はもう良く有る通り、力で言う事を聞かせる、聞かせ続けて定着させるしか無いんだけど」

《また新しい考えを持った強い者が現れ、王が交代する》


「それ、物語の、この世界の強制力だとか運命だと思うんだよね」

「僕が王になっても、変わらないって事ですか?」


「そこは分からないけど、向こうでは様々な物語や神話が有るじゃん?それが1つの世界、1つの国で起きてたとしたら、結局は同じ事になるんじゃない?」


《正義の上塗り、ですかね》

「そうそう、北欧神話でも父親殺しは有るし、母親の身を焼いて生まれる子供の神話が有る。世代交代が時代の変化を表してるワケじゃん、そうやって仕方無い舞台装置なんじゃないかな、と思ってさ」


「そこ、どうにかなりませんかね?」

「釣った魚をあげるか釣り方を教えるか、けど教えるのって凄い大変だよ。とある発展途上国では水汲みをしないで済むし綺麗な水が使える様になるのに、井戸を掘るのを反対したり、それを破壊して売ったり。今までを否定されるから嫌だとか、豊かになって略奪されるのが怖いとか、常識だとか知識教養の差って埋め難いんだよ。識字率が高い国ですら差別は有る、知識教養を普及させるって、物語とは違って凄く大変なんだよね」


《少なくとも、夜の国は大丈夫かと。人の奴隷も、表向きだけかも知れませんが、ココとそう変わらない状態でしたので》

「でもだよ、コレから先、朝の国がどれだけ堕ちるか。底上げって凄い大変で時間が掛かるけど、文化文明を壊すのって直ぐなんだよ。鎖国して焚本しまくって大人を排除して、子供に医者をさせるとかさ、1世代で愚かにさせるのは簡単だって実践されちゃってるじゃん?」


「ユラ、学校とか学園とか分かる?ココに出来るとか無いかな?」


『無いと思う、けど分かる、行ってみたい』

「だよねぇユラちゃん、そっかぁ、そうだよねぇ」

「うん、よし、昼と夜の間に学園を作ろう。それでいつか交流させて、交換留学とかさせるとか、どう思いますか?」


「良いんじゃない?ダンジョン物から学園物にシナリオが変わって、もしかすれば強制力も弱まるかもだし、大きく変わってくれたらユラちゃんも平和に過ごせるんだし。それが大義、かも?」

「先ずはココの領主さんから話してみ」

《そこはキョウに任せ、私達は夜の国に行きませんか?》


「だね、俺の大義になりそうだし」

「すみません、僕の思い付きなのに」


「土台だけ、それに専門家でも無いし、絶対に抜けが有る筈だし。そこら辺を任せる、だからそっちはそっちで頑張れ」

「はい」

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