第15話

「ユラちゃんの言う通りだったわ」


 キョウさんが引き籠りは嫌だから、と夜の国まで偵察に行ってくれたんだけれど。


 夜の女神が加護する国は、別名獣人の国と言われていて、人口の殆どが獣人。

 そして殆どの人間が奴隷として扱われるか、それこそペット扱いなんだとか。


「だから魔獣で国境線を守ってたのかな、って思うんですけど」

「いや聖獣は聖獣で人を選別してたから大丈夫っぽい、どす黒いのが馬車ごと吹き飛ばされてたし、俺は普通に無視されたし」


 けれどユラが知る夜の国は、人と獣人の割合は半々、それこそ奴隷となる者も半々だったらしく。

 本来とはかなり違っている。


《暫く私だけで潜入しようかと》

「なら奴隷紋は消した方が良いと思う、城門前で身体検査されてた。多分、間者かどうか疑われての事だと思う」

「うん、消そう」


 コレで赤ちゃん出来るし、もっと良くなって貰えるんだし。


《あの、まだ、避妊を》

『あ、男性側の避妊薬が有りますよ?』

「え、魔道具凄い」


『ただ、痛いですよ?』

「え?」


 殺精剤を尿道を通してダイレクトに注入する方法で、麻酔はするけど、切れた後は暫くヒリヒリするらしい。


『で、女性側にも毎回注入して頂ければ避妊はほぼ完璧、持続期間は1ヶ月で。あ、週3日で3回の計算で、ですね』


 いや、それ、超えちゃう。


《倍、ですと》

『1ヶ月に2回注入する事になりますね、残留した薬の成分で、なので』

「いや、うん、製造をお願いします」

『お兄ちゃん』

「アヤト君、飽きられる心配しなさ過ぎじゃない?」


「あ、え」

「いやまぁ、ハンナさんが良いなら良いんだけどさ、定期的に我慢するのも大切だと思うよ?」

《日頃はダンジョンですし、今回は私が偵察へ行きますし、そう気を遣って頂かなくても大丈夫ですよ》

『あ、直ぐには出来ませんし、作り置きも不可能なので。どうしましょうか、優先度』


「あー」

「まぁ、今回は避妊薬だろうね、念の為に持たせたいし」

『分かりました』




 全然、予想外で。


『夜の国に逃げる筈だったのにぃ』

《最悪は船で星の国、ですかね》


 私にとっては未知の国。

 けどキョウ的には平和過ぎるから、コッチの方へ来たらしい。


 獣人とエルフと人間が仲良く住んでて、それこそ魔族も普通に暮らしてるって。


『もう、星の国に行っちゃうのも良いのかも』

《そうですね、ですがアヤトはキョウの為に動くかと》


『そこぉ、程々にってお願いしたいけど、きっと手抜きで失敗したら後悔するだろうし』

《暫くは薬や魔道具が揃うまで、様子見してみましょう》


 予測が付かないのが人生なんだけど。

 嫌だな、嫌な事が起こるの。


『うん』




 先ずは感度を僅かに上げる潤滑剤の製作が完了し、奴隷商の販路へ。

 次に殺精剤の製作が完了し、コレは女性用の緊急避妊薬としてギルドの販路へ。


 その間に町も落ち着いたので、ユラはセレッサと教会へ。

 ブランシュは休憩とデート。


 キョウは夜の国周辺の偵察を続行。

 アヤトはヴァイオレットとダンジョンへ。


 私は奴隷紋の解呪へ。


『いやぁ、感慨深いねぇ、ハンナちゃんが奴隷を卒業かぁ』

《お世話になりました》


『うんうん、もう奴隷紋を刻まれないようにね』


《えっ、ココでされたのでは》

『いやいやいや、ウチは半ば仲買い、奴隷紋を刻まれた子がココへ来るんだよ。ウチに刻める道具も術師も居ないし、高いんだ彼ら、彼女かもだけどもね』


《その、私も術師になりたい場合》

『勿体無い、術師は全て顔を焼いてるらしい。まぁ、恨みを買う仕事だからね、種別も何も分からなくさせる為だろう』


《特定の、私と同じ者を探す為だとしても》

『なら先ずは夜の国だろうね、最近だと行ける様になったみたいだし』


《ですよね、ありがとうございました》

『うんうん、また良い品物を頼むよ』


 奴隷商人とは別の存在、奴隷紋を刻む者が存在している。


『え、そう言う組織とか、出て来なかった筈』

《となると、ココの流れに沿って出た既存とは違う集団、と言う事ですが》


『真っ先に怪しいのは星の国なんだけど』

《大幅に変わっている夜の国かも知れない》


『潰しても、変わらないかも知れないし、そうしない方が良い?』


《集団が何を思って行っているのか、次第かと。単に労働力や金を得る為だけなら、寧ろ潰した方が良いとは思うんですが》

『敢えて宥和政策の為に、獣人奴隷を他国に流す?』


《善き獣人なら生かされ、悪しき獣人なら殺されて終わる。もしかすれば、私は犯罪者の子なのかも知れません》


『じゃあ』

《だからこそ奴隷紋の確認をしている、許されぬままでは国に迎え入れる事は出来ない。のかも知れませんし、単に確認しているだけで深い意味は無いか、それ以外の何かか》


『やっぱり行って欲しくない』

《大丈夫ですよ、補助系魔法は意外と強いんですから》


『あ、本来は無かったんだけど、獣人になれる魔道具って、有った、有る』

《それは、何処に?》


『んー、お金払うと買えるんだけど、ココだと多分、売ってない。DLCって言えば分かると思う』

《もしかすれば、少なくともキョウは連れて行けるかも知れませんね》


『キョウなんだ』

《逃げ足最優先ですから》


『ごめんね、何も出来無くて』

《いえ、ココでも知恵は重要、十二分に皆の役に立ってますよ。大丈夫》


 今までなら獣人化の魔法や魔術、それこそ呪い等は有ったんですが。

 魔道具的な、何か。




『はいじゃあいきますねー』

「いや何も言わないで良いからねブランシュ」

「アヤト、ひっひっふー」


「ひっひっ、それコレにっ」

『一旦止めますよー、力を抜いて下さいねー』

「手を見て握って、緩める、はい全身に。そうそう、もう1回、次は息を長く吐きながら、そうそう」


 アヤトが尿道に管を入れられてんだけど、何か出産みたいだなコレ。

 不思議。


『はい終わりましたー、お疲れ様でした』

「ぁりが、とぅ」

「いやー、コレ月に2回か、シンドイなぁ」


「小便すんの怖ぃ」

『ダメですよぉ、他の部分を傷付けて無いかの確認でも有るんですから』

「宦官でも排尿大事って言うしな、頑張れ」


「ふぇえ」

「じゃあ避妊具と薬にしとくか?」


「試しましたけど、アレ、何か違くないですか?」

『そうなんですか?』

「さてはブランシュちゃん処女か」


『そうなんですよぉ、だから気になってて、どう違うんですか?』

「そのまんま、膜が張ってて、無い方が良い」


『んー、やっぱり改良が必要そうですよねぇ』

「で、どうなのよ」


『いやぁ、ふひひ』

「お父さんは結婚までは許さないからね、ヤり逃げダメ、絶対」


「あ」

「ん?漏れちゃったか?」

『痛いですか?』


「ハンナと結婚式、してない」


 アヤトの場合、いきなり子育てから始まったしな。


「よし、先ずはユラちゃんに聞いてみよう」


 重要イベントが有るかもだし、それで何か思い出すかもだしな。

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