第13話

『出来た、完成です、成功。の、筈です』


 僅かにキョウさんへの影響は残ってますけど。

 ハンナさんに全然、ヘイトが向かない。


 と言うかもう、今までの事をどう謝れば良いのか。


「ブランシュ、罪悪感でいっぱいだ」

『はぃ、もう、本当に、今まで』

《全ては加護の影響です、どうかお気になさらないで下さい》


『天使』

《いえ、ただの奴隷ですよ》


『天使が奴隷だなんて』

《いえ、ただの獣人奴隷です》

「もう少し小さくならない?」

「キョウさん」


『あ、そこなんです、もっと小型化させられたらとは思ったんですけど。急ぎでしたし、その、伝書紙は製作プランは出来てる段階で』

「じゃあ次は」

「あ、でも魔道具作るの嫌なんじゃ?」


『最悪の環境での魔道具作りが嫌なだけで、ココの様な環境なら、寧ろ大歓迎と言うか。出来たら、このまま、ココで作らせて頂きたいんですが』


 凄い我儘言ってますよねぇ、私。


「あー成程ね。厳しい環境に置けば、早くその環境から離脱する為にと努力する、結果的に早く良いモノが出来上がる。成程、コレは難しい問題だ、改良の余地を残してダラダラと資金を得られるからね」

『そんな、違います違うんです』


「でもさ、そこ素人には分からないじゃん?依頼品の場合は特に、もう少し時間とお金が有れば出来ると言われたら、金持ちはホイホイ金を出す」

『仰る通り、ですけど』

「ブランシュがそうしたとは思わないけど、他の人がね、だから魔道具職人って冷遇なのかな」


 確かに他の者はそうする事もありますけど、私は。


「あー、アレ、コンテストを開くとか?」

「確かに、イベント的にも有りそうですよね」

《既製品を納期までに小型化、性能を向上させ、丈夫さや安全性を比較する。ある種の競売ですね》

『あのー、空間移動の魔道具は流石に、膨大な魔力を使用するでしょうから、一般の方に運用は不可能かと』


《製作は誰にも可能なのでしょうか?》

『そこは私、時間と空間を操る魔法使いなら、ただそうした方はご自身で使ってらっしゃるでしょうし。そもそも魔力を凄く使うので、私は能力を持っていても魔力容量が少ないので、魔道具を作る方へ向かったんですが』

「時間と空間を操るって、無敵じゃん」

「あの、どうやって得たんですか?」


『そこはもう、本当、生まれつきでして。あ、でもどんなに膨大な魔力を持っていても過去に干渉は不可能ですからね、当時は鏡での魔道具だったんですが、手鏡が限界で。しかも道具を差し入れて水を持ち帰ろうとしただけで、かなりの容量を持っていた方でも魔力が吸い取られ、瀕死になってましたから』

「あー、流石に無理かぁ」

「じゃあ未来には?」


『鏡には映りますが次々と変化してしまい、定まらずに干渉も不可能でした』


「ソレで捨てられたのかな?」

『多分、だと思います、そうした実験から暫く遠のいてましたから』


「将来、どうしたい?」


『嫌な事を言ったり言われたりしない、諍いに巻き込まれないで、好きに魔道具作りをして、苦の少ない生活が死ぬまで続けられたらな、と』


 スタンピードとか有るし、王政が急に交代しちゃうとか有るんですけど。

 平和だった子供の頃が懐かしい、その頃の様に過ごしたい。


《一先ずは伝書紙の量産をお願いしつつ、で宜しいのでは?》

「だね」

「ココの魔道具のギルドの様子を見て来るから、空間移動と伝書紙、宜しくね」

『はい』


 信頼を得る為にも、早く。

 けど性能はしっかりさせないとだし。




『もう許しちゃうの?』

《元は加護の影響、ココで恩を売った方が後々にも宜しいかと》

「なら僕が行くよ」

「いや、それだとすっかり許されたと思うかも知れないから、俺らはギルドと警備隊に話をしに行こう」


《お願いします》


 ハンナが娼館に訴状の破棄に行く。

 私はアヤトとキョウと一緒に、領主さんの家に行ってから、ギルドに行く事になったんだけど。


 加護が抑えられてる筈なのに、そんな変わんない?


『ちゃんと効いてる?』

「ユラちゃんコレ多分、プラセボだよ。有名になった事と加護の事が広まってて、本人達も加護の影響だって思ってる可能性が有る。だからまぁ、噂を広める為にも、娼館のスカーレットを許す必要が有るんだよね」


『成程』

「まぁ、直ぐに広まる方法が有れば良いんだけど、騒動を起こすワケにもいかないし」

「それこそ面倒は嫌ですしね」


 あ、何か、殺気?


『お兄ちゃん、何か』

「うん?」


 私が話し掛けたのがいけないのか。

 アヤトに突進する男が。


「うぉっ」

「ビックリしたぁ」


 辛うじて避けたけど。


《アンタのせいで、俺は、俺は》


 アヤトの方が良いってフラれた人が、逆恨みで。


『お兄ちゃん』

「怪我は無いから大丈夫だけど」

「コレで広められるね。よし、ユラちゃんは耳を塞いでて」


『うん?』




 敢えてアヤトに下手人を引きずらせて、敢えて大通りへ。

 俺、アヤトと違って短気なんだよねぇ。


「俺らの加護は魔道具によって抑えられてまーす!だからもうご心配無くー!影響は今日にでもすっかり消えまーす!ご迷惑をお掛けしましたー!だからどうかコイツみたいに逆恨みしないで下さーい!でも許せないなら出て行きますんでー!苦情は警備隊かギルドへ言って下さーい!因みに今警備隊とギルドへ行く途中ですんでー!邪魔するなら次は殺しますからねー!」


「あの、キョウさん」

「謝罪も兼ねて、プラセボプラセボ、はいアヤトもどうぞ。ユラちゃん貰うよ」


「あ、はい」

「大声で、腹から声を、ユラちゃんとハンナさんを守る為にもしっかりとね」


「加護でご迷惑をお掛けしてー!すみませんでしたー!でも町と妹の為だったのでー!どうかご理解下さいー!」


 ダメだコイツ。

 根本的に優し過ぎる。


「甘い、ぬるい、もっと威圧も少しは込めないと舐められる。少しは怖いと思わせないと、ユラちゃんもハンナさんも完璧に守るには程遠いよ」


「魔道具が完成したので!今日で加護の影響は消えます!すみませんでした!だから手を出して来ないで下さい!」


 うん、アヤトはハンナさんに転がされた方が良いわ。




《大変、申し訳ない》


 町を救った英雄への、領民の行き過ぎた行為が2回も。


「コイツを引きずり回しながら事情説明と、加護の影響は魔道具で抑えられているのと、注意喚起等をお願いしますね」

《はい、その様に》


 私の意見も、そして各々の立場も、今こそ示すべきかも知れない。


『当主』

《ギルド長と警備隊長に伝えてくれ、付き添いを頼む、と》


『はい、畏まりました』




《英雄に逆恨みをする町だと思われ、強者の庇護を得られなくなったとなれば、お前らは自分達だけで守れるとでも思っているのか!強者を虐げる町を誰が守りたがる!そんな町に誰が行商に来る!誰が嫁に出すと思うか!このまま愚行を続ければ町は滅びるぞ!》


 僕を襲った人の両親が、領主に引き摺られる息子に鞭を打っている。

 正直、見てられない。


「意外と石を投げないもんだね、ココの人」

『意外とクソじゃないのかも』

《そうですね》

「でも、ココまでしないといけないって事だよね」


 向こうの世界なら、野蛮だとか批判を受けるだろうけど。

 ココでは石を投げる者は居ないけど、止める者も居ない。


《ゴマすりをしろと言うのでは無い!敬えと言っている!阿ろと命じているのでは無い!尊べと言っている!善き強者は家族と同等に!善き隣人とせよ!》


「言ってる事は、凄く、良いんだけど」

「小さい町なら尚更、向こうでもコレで良いと思うけどなぁ、罪を罪と示しつつ罰も与える。留置所だ刑務所だって土地と人手と金と時間が掛かる、でもコレで直ぐに終わらせられる。扱いが厳し過ぎれば誰かが止めるか、少なくとも同情はする、それで更正とか反省すれば町の人も許す流れになりそうじゃん?」


「ぅん」

「まぁ、元は俺ら平民だし、それこそ政治家とか為政者枠に改善を任せても良いんじゃね?」

『うん』

《もう暫く、引き籠った方が良いかも知れませんね》


「あぁ、居ない方が考えてくれるか。よし、そうしよう」

「ごめんねユラ、暫く教会に行けないけど」

『大丈夫、ブランシュに圧を掛ける』

《良いかも知れませんね》




 自分が鞭を打たれる側になっていたかも知れない。

 たった1度、会話をしただけの英雄に縋って、激情に身を任せ人に手を挙げそうになった。


『申し訳御座いませんでした、領主様』

《いや、お前の件は既に終わった事だ、さっさと帰って仕事に励むが良い》


『はい』


 今や殆ど客は付かない。

 汚物で汚れたドレスを身に纏い、無残にも町を歩き帰った娼婦など。


 今までの上客は何事も無かったかの様に他の娼婦へ。

 後はもう、物見遊山の客が来るか、罵りながらも性行為に及ぶのが好きな者か。


 確かに、恋だと思ったのに。


《あぁ、コレが、身の程知らずの娼婦か。なぁ、どうしたら娼婦の分際で奴隷に勝てると思ったんだ?どっちもどっちじゃないのか?》


『その通りなんですが、怖いですね、加護と言うモノは』

《なんだ、もう未練が無いのか》


 こうなって知った事は、想い人が居る者を無理に迫るのが好きな者が一定数居ると言う事。


『いえ』

《本当に、身の程を弁えない女だな》


 英雄から奪えたと思い込めるから、なのか。

 こう答えると喜んで抱き、延長料金も支払う。


 奴隷とそう変わらないのに、どうして私の方が優れていると思えたのか。


 多分、こうして必要とされる数の違いだけ。

 ダンジョンに入れる力も無いのに。

 私の方が劣っているのに。

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