第12話

 2番目の推しの獣人君が、よりによってお兄ちゃんを。


《好きです》

「えっ、あー、念の為に聞くけど、どう好きなのかな?」


《性的な意味で》


 加護、強い。


『お兄ちゃんのバカぁ』

「あ、ユラ、ごめんよ、男の子には効かないかと思って。あのね、君の好意は僕の加護のせいなんだ、後でシスターに相談して。ごめんね、じゃ」


 1回しか会ってないスカーレットにも狙われてるし、相変わらずメラニアにも好かれたままで、果ては前に泊まった宿屋の母子まで狙って来てるし。

 ココまで、被害が甚大なんだから、絶対に今後で役に立って貰わないと困る。


 困るって言うか、許せない。




「あー、祭の前日ってのもズレるかぁ」

「前々日、前倒しで制御具無し。キョウさんは僕の後ろで支援を、ハンナは」

《少し離れた場所でユラと支援を、もしもの場合は逃げます》


「うん、気を付けてね」

《はい、アヤトも》


 案の定、僕にヘイトが。

 しかも100頭居たら100、コッチへ。


 いや、うん、コレ加護を得てた方が確かに楽だ。

 流石にこの数は初めてだし、大小居るから討ち漏らしとか困るし。


「クソ怖いんだけど」

「大丈夫、討ち漏らしが居ないか確認してて」


「おう」


 最悪は、キョウさんに朝の国まで逃げて貰う作戦なんだけど。

 コレ、寧ろ国に向かいつつ討った方が早いかも?


「あの、このまま進みません?」

「そんな余裕?」


「はい、このまま迎撃しつつ朝の国に行っちゃおうかな、と」

「やるねぇ豪胆ボーイ、そうしよう」


 伝書紙でハンナとユラへ。

 うん、忘れてたんだ、スカーレットの事。




《アヤトは今、国境へ》

『スタンピードを引き付けさせるなんて、どうせアナタの指示でしょ、何て残酷なの』


《いえ》

『彼を独占したいからと言ってやり過ぎだわ』


 アヤトが居ないにも関わらず、加護が大きく影響している。

 コレもブランシュに報告をしなければ。


《いえ、そんな理由では》

『奴隷のクセに、奴隷のクセに!』

「ただい」

『お兄ちゃん助けて!』


 魔王ルートも存在しているアヤトを、怒らせてみたい気も有ったんですが。


「何をしてるの?」


『アヤトさん、無事に』

「何をしようとしてたの?」


『この奴隷が私達の』

「スカーレット、君とは話しただけで何も無いよね?」


『ですけど気持ちが通じ合うのに時間も触れ合いも必要無いと』

「そこは分かるけど、君とは何も無いよね?」


『私は』

「僕はハンナが好き、君の事は何とも思って無いんだけど、何をしようとしてたの?」


『私は、ただ』

「叩こうとしてたよね?」


『それは、彼女が私達の邪魔を』

「邪魔って?」


『アナタが娼館に来てく』

「仕事をしてただけなのに?」


『だから、それは、彼女の指示で』

「誰かが言ってたの?ハンナの指示だって」


『いえ、でも』

「加護の影響を受けてるのかも知れないけど、どっちにしても、邪魔なのは君だよ。しかも手を上げようとした、絶対に許さない、2度と関わらないで」


 勇者の覇気とはまた違う、魔王の威圧。

 ユラを守っても良いんですが。


『う゛ぇっ』

《アヤト、ユラが》

「あ、ごめんユラ、ごめんね、嫌なモノを見せて」


『ぅうん、お兄ちゃん、かっこよかっ』

《そのまま吐いて良いですよ、掃除すれば良いんですから》

「大丈夫だよユラ、床を掃除する良いタイミングだから」

「つか掃除させれば良いじゃん、ソレに」


《そうですね、着てるドレスで一先ずは床をしっかりぬぐって、娼館で自分で洗濯をしてくれれば私は許します》

『わだじも』

「よし、じゃあお願いね」

「おう、コレ位なら殺せるし、見張っとく」




 いや、うん、甘く見てたわ。

 理屈が通じなくなる程の加護、コレはマジで厄介だわ。


『ごめんね』

「ユラは何も悪く無いよ、僕がスカーレットとの事を忘れてたんだし」

「俺も、ココまで悪化すると思わなくて、ごめん」

《私も、ギリギリ間に合うかもと、すみませんでした》


『ううん、私も甘かった、ごめんなさい』

「ユラ」

「つかアレ何?初めてアヤトが人を殺すのかとビビったんだけど」


『多分、いあつ』

「威圧て」

「それって」


『アヤト、魔王にもなれる』

「えっ」

「マジかぁ、凄いなアヤト」


『キョウもなれる』

「ぉお、マジか」

「ならないで下さいね?」


「しないしない、責任取れんもん」

「あ、お兄ちゃんもならないからね、大丈夫」

『なっても良いよ、もう良い、ココクソだもん』


「ユラぁ」

『だって、違うんだもん、こんなに酷い事無かった』

「あー、コレもシナリオと違うのかぁ」


《あの、ココで聞くのも何ですが、どうして帰還が》

「あ、情報収集の為に、試しに捕まってみたんだけどさ」

「ごめんよユラ、あの約束、マジで忘れてた」

『そこは許す、けどアレは絶対に許さない』


 さっきの威圧って程じゃないけど、コレちょっと怖い感じだな。


「ユラちゃんが魔王になるルートとか無いのかな?」


『わかんない、でも、なる?』

「ならないでね?」

「いや、最悪は其々のルートを再考した方が良いと思うよ」

《ですね、このまま既定路線から外れ続け予想外の事が起こるかも知れませんし》


「だよねぇ、けどユラちゃんはちょっと落ち着こうな、一旦眠りな?」

『うん』


 ハンナさんが寝かし付ける間、俺らは俺らで相談する事に。


「君が魔王化ねぇ」


「殺したいなって思っちゃったんですよね、いけない事なのに」

「いやアレはそう思うだろうよ、理屈が通じないんだもん」


「でも、もう少し、分かる様に」

「この世の中には、向こうでもココでも、話が通じない者が居るって理解しとこうな?」


「それは話し合いが足りないか」

「アレ、威圧で引き下がっただけで通じて無いと思うよ。それにさ、だから揉め事が絶えないんだと思うんだよね。君の両親、多分、言動不一致だったり二律背反が凄かったんじゃない?」


「本当に神様か何か」

「違う違う、ほら、恋人の親がそうで。そうやって視野狭窄にさせられる、とまで思い至れてたら、ハンナさんもユラちゃんも傷付けずに済んだんだけど、ごめんね」


「いや、そもそも俺が忘れてたから」

「それでも、間に合ってても、いつか起こってた事。そこの対処を先手を打ててたら、神様に間違われても喜べたんだけど、ごめんね」

《あの、宜しいでしょうか》


「あ、ハンナ、ごめんね」

《いえ、全く何とも思ってませんのでご心配無く、全ては加護の影響でしょうから》

「つかもう寝たの?」


《はい、消耗が激しかったのと、今頃は謝り合ってるのではと》

「その通りなんだよなぁ」


《では、前向きに今後の事をお願いします、では》

「うん」

「ありがとうハンナ」




 ユラに頼まれたので、娼館へ復讐に行く事に。

 アヤトとキョウは迂闊に出歩けませんし、コレで牽制になれば良いんですが。


《訴状をお持ちしました》


 一応、犯罪に対処する集団は存在している。

 その指揮官は領主、ある意味ではこの娼館も領主の管轄内であり、警護はギルドが請け負っている。


 領主とギルドに今回の事を伝えると、直ぐに書簡を出してくれた。

 スカーレット及び娼館に関わる者全て、アヤトとユラ、そして私とキョウに接触する事を禁じる書簡。


 破った者は奴隷落ち。

 ココなんですよね、奴隷制度の便利な所、抑止力になる。


『確かに、受け取りました』

《では、失礼致しますね》


 アヤトとキョウには暫く引き籠って頂くしかないんですが。

 まぁ、休息週間と言う事で。

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