第11話

 ユラとハンナに言われて買った女戦闘奴隷ヴァイオレットは、その名の通り紫のメッシュ入り。

 まだ見た事が無いけど、エルフの子はベルデ、全部が綺麗な緑色らしい。

 娼館で色々と教えてくれたのがスカーレット、名前の通りの赤髪だった。


 受付嬢で鑑定スキル持ちのシアンは目が水色で、原作と違って同性愛者、しかも奴隷と密かに結婚してた。


 教会のシスターはモレノ、褐色って意味だそうで、確かに肌は褐色系。


『ブランシュは』

「待ったユラちゃん、ブランシュって名前だと、髪が白?」


『うん』

「となると魔物に育てられた子のセレッサちゃんは、目が桜色」


『ぶー』

「可愛いねぇ」

「そうなると髪色が桜色なんだ」


『うん』


 後は女冒険者(貴族令嬢)と執事。

 資金源になるのは分かるんだけど、凄い、僕と合わない。


「後は女冒険者(貴族令嬢)、アーテル、何だアーテルって」

『黒』

「黒髪黒目の白人系」


「あー、アレか、メラニア、メラトニン色素か、成程ね」

「アレ僕、本当にダメなんだよね、ツンデレ不器用系って本当に無理」


 別にアンタの事を心配してるワケじゃないんだからね、って言われても。

 そうですか、としか返せないし。


「アヤト君に気が有りそうだったし、そこは上手く色恋営業をだね」

「無理です嫌ですなら地道に稼ぎます」


「けどお金持ちだよぉ?」

「そこなんですよね、本来のルートと違う方法で、どう引き出すか」


 彼女が無茶をした所を助けて怪我を負い、好きになられるらしい。

 けど必死で関わらない様にしてたし、怪我を負える程には弱くないし、そもそもそんな危険を冒したくない。


《では、得てから接触してみては?》

「魅了系で落とすとか絶対に面倒しか無いよ?」


「いや、そう困らせて解決方法を呈示して、協力させるんだね?」

《はい》


「凄い、腹黒い」

《お褒めに預かり光栄です》

『うん、がんば』

「ユラぁ」


 でも変に遠回りして被害が出るよりは、良い。

 そう分かってるんだけど。


 関わるって思うだけで気が重い。


《大丈夫です、ちゃんと作戦は立てますから》




 ハンナさんの作戦で、加護を得るイベントに巻き込んで支援をさせる事になったんだけど。

 加護無しでも既に惚れてるんだよね、アヤトに。


「ごめんね、何か影響してても、それこそ好意を感じてても。それ、単に加護の影響だから」


 初手で平手打ち。


『別に、アナタが加護を得たからって』

「うん、嫌だよね、魅了されて、勝手に好意を持たされて。でもそれ勘違いだから大丈夫、加護の影響。平民の俺と貴族の君とでは絶対に有り得ないから大丈夫、心配しないで」


 ぐう聖顔でコークスクリュー。

 エグいなアヤト君。


『私は本当に前から好きで』

「あ、ごめん、無理。貴族だって事がバレない様にって警戒してたのも分かる、僕が急に現れてどんどんクエストをこなしてランクを上げて自分の立場が脅かされるって警戒してたのも分かる、それで素直に言えないのも。けど変わった方が良いよ、素直になれなくて本当に好きな人に見向きもされないってなったら、一生後悔するよ?」


 うん、アヤト君が今、後悔させたね。


『そんな事は』

「分かってるよね、分かってても制御出来無いのは分かる、俺も好きな人の事になると制御が難しいから。でもそうやって制御しないままでいても、いつか傷付けるか無関心になられるか、そうなる前に変わった方が良いと思うよ」


 惚気込みのストレートパンチラッシュ。

 あぁ、泣いちゃった。


『アヤトに、好きな人が』

「うん、ハンナを愛してる」


 あー、ノックアウト処か開戦の合図になっちゃったか?


『奴隷の』

「うん、貴族には難しいかも知れないけど、平民には奴隷とか身分って実はそんなに関係無いと思うんだよね。だってその人の子供が欲しいかどうかだけで、国を背負ったりとかは無いからさ、大変だろうね貴族って。でも相手を選ばないといけないなら、だからこそ、素直になった方が良いと思うんだけど。平民の言葉だから、ダメかな」


 あ、殺した。


『今まで、ごめんなさい』

「あ、いえいえ、生意気な事を言ってごめんね。けど大事な事だと思うからさ、頑張って貴族と冒険者、応援してるよ」


『あの、貴族としてあるまじき態度を取った事への償いと、その加護を制御する魔道具の生成を援助します。私も、この気持ちから早く覚めたいので』

「ごめんね巻き込んで、ありがとう、助かるよ」


 ぐう聖からの悪意無しのストレートパンチのラッシュと、惚気込みのコークスクリューにより、相手方は戦闘不能。

 恨み無しのテクニカルノックアウト、試合終了です。


『おかえり』

《お帰りなさいませ》

「ただいま、ありがとうハンナさん、ちゃんと伝わったみたいで直ぐに引き受けてくれた」


《アヤトの真心が伝わったんですね》

『頑張って偉い』

「ありがとうユラ。あ、何か影響は感じる?」


《いえ、特には》

『もう親しいと効かない?』

「そっか、じゃあ僕はもうハンナと親しいんだ」


《ですね》


 貴族のメラニアの為に、敢えて全てを伝え、加護を得た後でこそ苦言を呈してあげるべきだ。

 そうアヤトを説得し、メラニアを巻き込んで加護を得て、同時に心も折った。


 この試合を仕込んだハンナさん、凄いなおい。




『何で、ココが』

「朝の国に行ってから、匂いを辿った。不本意だけど俺も加護を得ちゃっててさ、どうしても制御したいんだ、この加護」


 今まで他国で散々使われて、果ては婚約者も何もかも取り上げられて、追放されて。

 平穏に暮らしたいから魔道具も作らず、単なる農民として生きてたのに。


 何、このキラキラしたイケメン、眩しい。


『加護』

「俺が魅力的に見えてるなら、それはココの昼の女神の加護の影響。で、俺は既に恋人が居る、その魅了系の加護どうにかしたくない?」


 恋人が既に居るとか、マジ残念。

 いや、何、コレが加護?


『その後、魔道具を作り終えた後は』

「好きにしてて良いよ、それだけがコッチの願いだから」


 あ、残念とか思っちゃった。

 悔しい。


 悔しい、意地でも制御具を作らないと。


『分かりました』

「ありがとう、ごめんね、助かるよ」


 ぅう、眩しい。


《何でもお申し付け下さい》


 あ、コレ、ヘイト系の加護も混ざってるんだ。

 良い人そうなのに、凄い、この人が何か嫌だ。


『急いで作りますから食事を運んで来て下さい、それから絶対に中に入らないで』

《はい、畏まりました》


 ぅう、ごめんなさい、早く作るから許して。




「はぁ、マジ誤算だけど、確かにそうだよね」

「主人公格は加護を得る、なら僕じゃなくても良かったんじゃ?」


「いや俺は帰還するし、そうなると加護を新たに得させないとってなるから、やっぱりアヤトなんだよ」

「女神様には悪いけど、本当コレ、面倒」


 今まで無関心だった女性達が、加護を得たからか噂が広まってか、アヤトに目を向け始めた。

 それこそ娼婦のスカーレットも、シスターも。


《ですがユラは凄く嬉しそうですよ》

「なー、未だかつてない程の破顔だから良いけど。聖獣も1種類だけじゃないのがなぁ、気掛かりだわな」


「アレですかね、やっぱり、続編的な?」

「だよねぇ、ある意味で定番だし」


「そうなると改変と言うより既定路線って事ですよね、今までの出来事」


「そうか?」

「男女兼用のがリメイクされた、とか」


「あー、確かに、リメイク版とかは普通に有るもんね」

「しかもボリュームパック込みのリメイク版、とか、要は全盛りなのかなと」


「だから俺も居るし君も居るしユラも転生者、確かにな、何か納得かも」

「けどイレギュラーって必ず存在するだろうから、他にも居そうなんですよね、転移転生者」


「アレは?兄貴を殺したの」

「関わって無いので全く、あ、匂いはどうでした?」


「俺も近付いて無いもん、マジで魔道具を取りに行っただけだし」


 私が誘導したんですが、もうバラす気は無さそうですね。


『お兄ちゃん』

「ん?どうした?」


『ココに住みたい』

「じゃあそうしようか、ユラとハンナはココに」

「いやメシとかどうすんのよ、流石にココ遠いし、子供同士の接触も大切だからな?」

《では彼女に魔道具を頼んでは?》


「魔道具、瞬間移動的な?」

《移動が早くなる何か、と思ったのですが》

『お願いしてみる』

「よし、俺が頼んでみよう」


『ありがとう』


 魔道具職人のブランシュは、見事にキョウに絆された。

 既定路線から外れているとユラは心配していたんですが、確かに、実はコレこそが本来の流れかも知れない。


 現に私もイレギュラー的存在、でしょうし。


「ブランシュー、良いかなー」


『あ、はい、何か』

「何処にでも行けるドア、瞬間移動出来る魔道具って無理かな?」


 彼の顔を見るだけで凄い渋い顔になってるんですが、どうやら眩しく感じているらしく、アヤトにも同じ顔をするんですよね。


『え、あ、制御具最優先ですよね?』


「あ、そうそう、次に伝書紙の複製、移動のは3番手で大丈夫」


『まぁ、案が出たら並行させますが』

「ありがとう、助かるよ。何か要望が有ればハンナさんに、嗜好品でも大丈夫だから、何でも言ってね」


『はい、どうも』


 そして私は凄く睨まれるんですよね。

 お手紙で謝罪と説明を受けたんですが、どうやらヘイトの影響も出ているそうで、嫌な思いをさせたくないからと最低限の接触に。


 他の方は平気なんですけどね、シスターからはヘイトを向けられないので。

 多分、加護前の親しさで、ヘイトの影響が。


『アナタがハンナ?』


 あぁ、スカーレット。

 コレ多分、元からは親しくないのでヘイトが私に来ますよね。


《そうですが、何か》

『殿方の自由を奪うなんて、本当に愛する者のする事では無いと思うの』


《はい、仰る通りで》

『娼館はキチンと性病検査もしています、彼の為を思うなら、そうした誤解も解くべきだと思わない?』


《仰る通りにさせて頂きます》

『どうだか、もし祭の前日までにアヤトが来なかったら、次は奴隷商に正式に抗議しますからね』


《はい、承知致しました》


 ヘイトとは、魔獣を引き付ける事は勿論、時に人間の正義感の暴走を招く。

 アヤトを大事に思う気持ちだけなら、有り難いんですが。


『ハンナ』

《大丈夫です、ユラの存在には気付かなかった筈ですから》


『ハンナ、ごめんね』

《いえ、彼女もアヤトを思っての行動なだけですから、帰りましょう》


『ぅん』


 スタンピードは祭りの前日。

 残り1週間。


 もし完成しなかったら。

 私の手札をバラすのも、信用を得る1つの手段になるかも知れませんね。

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