第10話

 初めての朝帰り。

 どうしよう、凄い気まずい。


《おはようございます、お帰りなさい》

『お帰り、頑張って作った』


 今までに無い、凄い豪華な朝食。


《ですがお疲れでしょうし、先ずはお風呂をどうぞ》

『沸かした』


 キョウさんすら戸惑ってる。


「あ、うん、よし、さっさと入りに行こう」

「あ、はい」


 勢いで返事をしたけど。


「何だよアヤト君、人と一緒は嫌か」

「嫌と言うか、そう人と入らなくないですか?」


「親戚とか友達とかと入らん?」

「それでも銭湯とかで」


「ハンナさんとは」

「無いですけど」


「は、事後処理どうしてたのよ」

「あ」


「童貞ー、そこは一緒に入って洗ってやるとかしようよー」

「すみません、寝ちゃってました」


「仕方無い、伝授してやろう」

「あ、ありがとうございます?」


 うん、お湯を掛けたり、頭を洗ってあげたりするのか。

 成程。


「後は泡で優しく体を洗うとかは、まぁ、教えて貰いなさい」

「はぃ」


 だよなぁ、僕は表面を洗うだけで良いけど。

 どう、してたんだろ。


「あ、そこは知らんからな、経験無いし」

「ですよねぇ」


 それから、豪華な朝食へ。


《食前酒です、どうぞ》

「あ、の、コレって」


《日頃の労いにと》

『超早起きして作った、だから今日はお昼寝凄いする』

「そっかそっか、ありがとうユラちゃん」

「ありがとうございます」


 気まずい。

 何も悪い事はしてないんだけど、今はちょっと、凄い気まずい。


『アヤト、食べてきた?』

「あ、いや、何だか悪いなと思って」


 超、言い出し難い。

 けどユラは知ってて、知ってコレを敢えて?


 いや、凄い期待した顔してるし。


「あ、そうそう、情報収集してきたんだ、娼館で」


 キョウさん。


《そうでしたか、ご苦労様です》


 あ、ちょっと無関心なのかなって傷付いたかも。

 けど、嫌な気持ちを隠してるかもだし。


「まぁ、後ろめたい事は何もしてないんだけど、アヤトは後ろめたくて飯に手を付けられないんだよね?」

「どストレートに言いますね?」

『何かしたのか』


「いやしてないけど、勉強してきたけど、場所が場所だから」


 ぁあ、見れない、ハンナの顔が見れない。


《如何でしたか?》

『綺麗なお姉さんは居ましたか』

「やっぱり化粧してるよなぁって思ったな、ハンナさん興味無いの?」


《そうですね、何かの役に立つかも知れませんし、学びたいですね》

『私も』

「ユラちゃんにはまだ早いよぉ、年頃になったらね」


『口紅は欲しい』

「可愛い色にしなね?」


 お、ちょっと悩んでるって事は、やっぱり赤色が欲しいのかな。


『うん、分かった』

「よしよし」


《あの、無理には》

「あ、いや、お腹は空いてるんですけど、食事に見惚れちゃって」

『余ったらお昼にするから大丈夫』

「成程ね、じゃあ今日は休息日だ、飲むぞぉ」


 うん、そうだ、飲もう。




《お疲れ様でした》

「本当に、何も、無いからね」


 居るんですよね、こうなる方、気弱な方に特に多い。


《はい、信じてますからご心配なさらないで下さい》

「握る強さとか、加減とか、見たり聞いたりで、触っても触られても無いからね」


《はい》


「妬いた?」


 コレは、凄い、面倒な事に。

 少し妬いたとしても、全く妬かないにしても、妬いたとしても。

 私や魔王の予測を外れ、揉める定番の1つ、ですが。


《少し、モヤっとしましたね》

「ごめんねハンナ、ハンナが1番、2番は無いからね」


 この正解を最後まで言えずに揉める方、本当に多いんですよ。


《ありがとうございます》

「本当に、エッチしたいのも触りたいのもハンナだけだから」


 普通、ここまで泥酔すると不能になるんですが。

 流石、英雄のバフ、コレ間違うと腹上死に繋がるんですが。


《なら確かめてみても良いですか?》

「あ、終わったらお風呂に入れさせてね、ごめんね、1人で事後処理させてて」


《いえ、労いも含めての事ですからご心配無く》

「好きだよハンナ、ハンナだけだからね」


 知識が無いは無いで楽だったんですが。

 まぁ、労いを込めているのは事実ですし。


《私も(性行為)好きですよ》




 やっちゃった。

 酔いに任せて、ハンナに触るの久し振りだから、つい。


「ごめん、酔ってて半分覚えて無いんだけど」


 何か凄いラブラブな、いつもと少し違った気が。

 悔しい、何でうろ覚えなんだろ。


《お風呂に入れて下さるそうで》

「あ、うん、するする」


《では、お願いしますね》


 先ずは流してあげて、頭を洗って。


「体を、いつもどう洗ってる?」

《では先ず、アヤトに》


 くすぐったいけど。

 何か、エロい。


 ダメだ、反応しちゃう。


「ごめん、気にしないで」


《あの、次は手を、貸して頂けますか?》


 柔らかいのは知ってるんだけど、何だろう、この感触。


 やぁらかぃ。


 あー、ダメだ、凄いした気がするのに。

 凄いもう、ムラムラする。


「ごめんハンナ、したい」

《良いですよ、私もなので》


 もう、嘘でも嬉しい。

 ダメだもう本当、演技とか見抜くの無理かも。


「好き」




 いや、うん、アレ演技じゃなさそうだわ。

 アレかな、獣人の本能的な。


『何してますか』

「あ、ユラちゃん、あー、仲直りしたかなと思って少し様子見してただけ。うん、大丈夫だったから散歩に行こうね」


『本当に?』

「マジマジ、暫く仲良しさせとこ?」


『わかった』


 何処まで分かってるんだユラちゃん。

 おじさんそこ気になる、凄く。


 あ、てか初めて2人で出掛けるのか。


 大丈夫かな、不審者扱いされないだろうか。


《あの》

「はい?」


 あ、コレ、職質だ。


《失礼ですが、ソチラのお子さんは》


 ですよねぇ、似てないもん。

 アヤトとユラちゃんは似てるけど、俺とは全く似て無いもん。


『私はユラ、コレは召使い、従者』

《成程、因みにお家は言えますか?》


『子丑通りのアヤトの妹、ハンナとお兄ちゃんがお話し合いしてるからお散歩に来た』

「その家で世話になってる冒険者のキョウです、ギルド行きます?」


『良いよ、お散歩だから』


 凄い理解してるじゃーん。

 そうだよなぁ、話さないからって理解してないとは限らない、ある意味で効率厨なのかもだし。


《じゃあ少しお散歩しましょうか》

「疲れたら言うんだよ、この人に肩車して貰える筈だから」

『今して』


《どうぞどうぞ》


 いそいそと人の肩に。

 可愛いかよ。


『高い』

「でしょうねぇ」


 アヤトも俺も高いほうじゃないからなぁ、羨ましいは羨ましい。


《キョウさんはアヤトさんのお知り合いなんですよね》

「まぁ、一緒にダンジョンも何回か行ってますけど」


《実は、警備隊から個別に依頼したい案件が有りまして》

『仕事か』


《はい、先日のスタンピード時に大幅に人員が》

『やりなさい』

「あ、はい」


《では詳しい事は書簡でお渡ししますので》

「それでギルドにか、成程ね」


 コレ良い仕事なんだろうなぁ、依頼受けるにも本当は精査しないといけないんだけど、この前は適当ぶっこいて揉め事にぶち当たりそうだったし。

 ユラちゃん、便利。




『予想より早いけど、イベント来た』


 アヤトとハンナには存分に仲良しして欲しかったんだけど、コレ重要なイベントだから、アヤトにも説明しないワケにはいかないのよね。


《前回は鎮圧成功だ、と》

『次は周期より早く起こる、朝の国の愚策のせいでコッチに来る筈』

「アヤト、対処した事は?」

「流石にスタンピードの制圧は無いけど、キョウさんは?」


「遠くで見た事が有るけど、マジ大群」

『そう、大群、前回のより多い筈』

「よし受けよう」


 コレ、加護を得てハンナが瀕死になってからのイベントの筈なんだけど。

 大丈夫かな、加護無しで。


『加護無しで大丈夫?』


「あー、加護得てから起こるイベント系か、成程ね」

「でも魅了系ですよ?」


「寧ろソコじゃね?敵を引き付ける、ヘイト系」

「え、何でも引き付けるとか厄介しか無いじゃないですか」

『魔道具は?』

《いえ、ブランシュは相変わらず行方不明でして、シアンは聞いた事も無いそうです》


 ブランシュは虐げられてた魔道具職人の子で、シアンは受付嬢で鑑定スキル持ち。


 私が既定路線から外れた行動をベルデにさせたのも有るけど、既に原作通りじゃない。

 なら何か、やっぱり作るしか。


「ユラちゃん、今回のイベントの参加者覚えてる?」


 そうだ、ブランシュやシアンと参加してた筈。


『覚えてる、ブランシュとシアン居た筈』

「よし、探し出して作って貰おうぜ」

「もー、加護得るの前提じゃないですか」


「手抜きして死ぬとか嫌じゃん?」

「手抜きになりますかね?」

《ですが聖獣化させるにしても、朝の国から逃げるにしても、退路は必要かと》


「ハンナ、絶対に絆されないからね」

《はい》


 アヤト、デレデレ。

 デレるんじゃなくて、デレさせて欲しいんだけどなぁ。


「はいはい、さ、準備しようぜぃ」


 キョウが居て何だかんだ助かってる。

 やっぱり、コレ、私の知ってるゲームとも違う内容なのかも。

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