第9話

 ゲームキャラだから、と言うか。

 私側の攻略キャラ、幼少期からマジ眼福。


 最初はフミトと共通の話題が欲しくて始めたゲームだったけど、ハンナの特別編意外はドハマりして、全員攻略して。


 けど仕事がお互いに忙しくなって、話し合う時間もゲームする時間も無かったのに。


 焦っちゃったんだよね。

 前とは全く違うから、愛されてるのか不安で、別に浮気の兆候も無かったのに疑ったり。


 何も無いのに疑われてるって思って、多分、ムカついたのかもだし。


《ユラちゃん?》


 前世の私の推し、鍛冶師の弟子のゴヴニュたん。

 コッチ側のキャラには神様とか精霊の中からランダムで名前が付く、だから最初の頃は攻略法を調べるのに凄い苦戦したんだよね。

 ですっかり神話にハマっちゃって、懐かしいなぁ。


『昔の事を思い出してたの』


 ココでも原作でも、私とアヤトは朝の国の戦乱から逃げ出して来た兄妹、と言う事になってる。

 ずっと一緒だから勝手に好感度が上がる相手がアヤトで、2週目で初めてちゃんと攻略したキャラ、ゴヴニュだん。


《そっか、大変だったんだもんね》


 なんて言ったら良いか分からなくて困ってるの、萌え。


『最近、読んだ本のお話してくれない?』

《あのね、この前……》


 こう誘い受けするのが正解だったのが嫌だったんだけど、今なら分かる。

 話して貰うのも大事。


 もっと学び取れた筈なのに、後悔ばっかり。

 変わらないとな、私はもうココのユラなんだし。


「ユラー、帰るよー」

『ありがとうゴヴニュた、またね』

《うん》


 変わらないと、と思ったのに。


『娼館に、行く?』

「いや、ユラちゃんが嫌に思うのは分かるんだけど、先ずは理由を説明させて?」

「何もしない、ただ僕達の大事な部分の事の勉強に行くだけ、見るだけなんだ本当に」


『何で見ないとダメなの?』

「力加減、俺が握って教えるの嫌だから」

「それとハンナを喜ばせたいんだ、けど奴隷って立場から、して欲しい事とか言えないかもだし」


「で俺が見張り役と解説、ハンナさんには後で言う」

「行かないで大丈夫って言われても困るし、素直に送り出されたら僕が嫌だし、待ってる間に嫌な思いをさせたくないから。最初に、ユラに、と思って」


 ココ、娼館が有るからエッチな見本って殆ど無いのよね。

 それこそ娼婦の姿絵的なのだけで、アヤトが童貞だったなら、寧ろ私は素直に送り出すべきなんだけど。


 居るのよ、攻略対象。

 多分、アヤトは名前で直ぐに分かってくれると思うけど。


 コレでもしアヤトが心移りを。


 いえ、アヤトが心移りしても特別編のキャラが居る。

 原作だとクソでもココでは良い人かもだし。


 こうなるならハンナ編もしておけば良かった。


 いや、無い。

 鬼畜即死エロゲだって言ってたし、こうならなければ絶対にして無い。


 うん、ハンナの相手を探して貰うのを条件にしよう。


『アヤトが心変わりしても良い様に、星の国でハンナの相手候補を探すのが条件』




 うん、俺はユラちゃんの条件には納得。

 なんだけど。


「えー」

『じゃあダメ』

「アヤト君、もしかしたら心強い味方になるかもだし、コレは寧ろ良い条件だと思う」


「でもぉ」

「リスクを負わずにココで何かを得るのは難しい、向こうとは違って情報は高いんだから。それとも俺最強とか思ってる?違って失敗したらどうすんの」


「ぅう」

「けど娼館が先で良いよね?ハンナと仲良しするのにアヤトに不具合が出ても困るから」

『うん』


「よしよし、ユラちゃんの方が聞き分けが良いねぇ」

「煽られても、でも、だって」

『何でハンナの気持ちを疑う』


「おぉ、確かに、そうだそうだ」

「だってもっと優しい良い人が現れたら、行っちゃうの止められないよぉ」

『止めろ』


「でも殺人犯の弟だよ?」


 凄いトラウマってんじゃん。

 アレか、連絡したら取り巻きにギャンギャン言われたか、可哀想に。


『アヤトは殺してない、私も誰も殺してない』

「だけで十分じゃない?ココでも罪を犯したならまだ分かるけど、前世での事でしょ?しかも自分じゃない他人が起こした犯罪で、君ね、そんなんじゃ宗教か陰謀論にハマるだけだよ?」


 友達の家がそうだったからなぁ、本当、見てらんないんだアレ。


 あ、何か急にスンってなったぞコイツ、どうしたんだ。


「確かに、選ぶのはハンナの権利だもんね」

「もう捨てられた事想像してるぅ、早い、早いよアヤト君。まだだ、まだ終わらんよ」


「いや、うん、ハンナの幸せの為にも寧ろハンナが相手を選ぶべきなんだよね。選ばれないかもって不安になるのは俺の幸せの事に偏り過ぎてる、ハンナの幸せの為にも、僕はちゃんと見極めないと」


 何コイツ急に。


 アレか、英雄補正が掛かるのか?

 バフ的な、加護的なアレ的な何か。


 クソ便利だなおい、転生体。


『うん』

「だよね、ユラの為にも良い見本を見せないとね、うん、頑張る」


 そこかぁ。

 父性バフかぁ。


 犯罪者の家族だとしても、だからこそ、良い父親になりそうなのにな。

 捨てた女、マジで見る目と愛が無いな、優位性が永遠に保たれて楽だろうに。


 そこか。

 それで裏切られたら死ねる、プライド高いタイプだったか。




「試しに連絡取ったら、凄いまくしたてられたんだろ、元カノの友人とか男友達に」


 何で。


「何で知っ、脳を覗いてる?」

「いや、知り合いが宗教絡みで同じ事されてて、良い機会だからそのまま切っちまえって言った。その時のはフザケ半分だろうけど、お前のは多分、ガチめだろうなと思って」


「いきなり音信不通で、何か被害が出てないか聞いただけで」

「どうどう、そう心が不安だとマジで浮気に走り易いから落ち着け、一旦本屋に行こう。で、茶でもシバいてから行こうな」


 自分達の前の年齢は教え合って無いんだけど。

 どう見てもキョウさんは。


 アレかな、若くなるバフも付いてる、とか。


 有り得る。

 ゲームだったらゲームに合わせないと辻褄が合わないだろうし、身体的にも、ピーク時での転移じゃないと直ぐ死んじゃいそうだし。


「そう僕も色んな人と関わってたら」

「いや俺は敢えて学びに行ってたの、気が付いたら何か違うなと思って、じゃあ何が違うのかなって。で、男らしさとか女らしさを色々と見知って、けど納得出来無くて更に見て考えて。で案の定アホには否定されるから、今度は深く突き詰めて、で反論材料にして論破。経験とか知識はソコの副産物、本職は。男とは何か、女とは何かのプロ、みたいな?」


「良いなぁ、プロ、カッコイイ」

「外見だけなら君凄いからね?」


 そこ、元とかけ離れ過ぎててどうにも自分じゃない気がする。


「見慣れようと毎日鏡を見て、こう動いたりとかしてたんだけど、まだ本当の自分じゃない気がしてるんだよね」


「それさ、俺らは逆なんだよね。体を見る度に違和感が有る、違うのになって。で、アヤトはその逆なんじゃない?やっと、中身に外見が伴った」


 自分に都合が良いからかもだけど。

 しっくりきた、アハ体験的に、成程って秒で納得しちゃった。


「良いのかなって前に、天才過ぎて怖い、何、何か、精神科医とか何か?」

「親がね、しかも親ガチャ的に当たりで、他の人よりは苦労が少なかったと思う。けど逆に考えちゃうんだよね、コレって叶えられるから言ってるだけの我儘なんじゃないのか、甘えじゃないのか、本当に俺は男なのか」


「いや男でしょうよ」

「自分ではそう思ってても、やっぱり他者の評価って凄く大事なんだよね。それこそ言葉だけじゃなくて、そうした態度とか、凄く大事で。でも難しいよなぁ、中身って弱点だからさ、アヤトも限られた人にだけ開示すべきだろうし。あ、ユラちゃんに話してみたら?正直だし」


「で、見合わないってなったら、僕が合わせれば良い」

「でも無理は禁物な、何でもそう、身の丈に合ったのが1番」


 自分の身の丈に合うのが奴隷、だから好きになった?


「それ、もしかして、僕の身の丈に合うのが」

「奴隷だと思ったから好きになったのかも知れない。そこは否定しないぞ、自己評価が低くて当たり前な環境だったんだし、実際に奴隷が好きなんだし」


 奴隷だとは思わずに接してたけど、奴隷だって事は知ってた。

 でも。


「違う筈なんだけど、どう否定したら良いのか」

「そらモテで勝負だろ、他者の評価を蔑ろに出来無い点の1つ。見極める力が有る凄い人に、凄い良い女に良い評価をされる、自分の立場や位置を知る指標が無いと判断付かないだろ」


 人の目を気にして何もしなかった。

 それこそネットに書き込みとかも、晒されるのが怖くて、誰とも関わらなかった。


 評価も無い、関わりも無い。

 自分でも幼さを痛感してる、幼稚だと分かってるけど、本当にどうしたら良いか何も分からなくて。


 だから、呼び捨てで良いって言われても。


「キョウさん、実は50才過ぎ、とか無いよね?」

「お、そう見えちゃう?良いね、うん、実に気分が良い」


「えー、教えてくんないの?」

「おう、気分が良いから教えない」


 本当に機嫌が良いのがまた。

 アレかな、賢者が良かったって言うし、マジで凄い年齢とかも有り得るのか。




『今日は調査に行くから、朝帰りするって』


 ユラにだけ言付けをし、出掛ける。

 コレ娼館に行きましたね。


《そうですか、じゃあ今日は早く寝て、明朝に豪華な朝食を作って労ってあげましょうね》

『うん!』


 魔王がこうして良く遊んでいたんですよね、冷え切った夫婦関係だとの部下の家庭に介入する遊び。

 妻には事前に説明をし、夫には労いだと称して娼館に行かせ、朝帰りの夫を盛大なもてなしと共に迎え入れさせる。


 何だかんだ真面目な部下は妻の相談をしただけで帰って来る、そして愚か者は相手と寝てしっかり風呂に入り帰って来る。

 私はついでにもてなしを受ける立会人として、魔王は隠れて観察を。


 嗅ぎ慣れない石鹸の香りを確認された瞬間に吹き飛ばされる者、泣かれる者、敢えてもてなしを続行される者。


 寝た者は大概は離縁となるが、潔白でも離縁する者も居る。

 既に他に心移りしている者。


 魔王が相手と引き合わせて離縁させる場合の手口でもあったんですが、まぁ、相手が相手でしたので同情心も湧きませんでしたけどね。

 やたら五月蠅く言うか泣くか、そうした者はもてなしの提案すら拒否して詰め寄り、離縁される。


 いがみ合う家庭では子の教育に悪いから、と。

 そう魔王が頑張って組み替えた縁組みも、全て滅ぼされた。


 滅ぼすなら、せめて前より良い世界にして欲しかったんですが。


 結局は同じ事の繰り返し、その殆どが改悪か、維持か。

 なら誰が最高権力者でも同じだと思うんですが。


 どうにも我こそは、と出張る愚か者が出る。

 それは時に勇者と呼ばれる愚者であったり、異世界人であったり、転生者であったり。


 ただ単に力を奮いたいだけなら、覇王とでも名乗り延々と戦い続ければ良い。

 私達民を巻き込まず、奴隷を巻き込まず、子を巻き込まずに好きにすれば良いのに。


 あぁ、ココでもしそんな愚か者が現れたら、次こそは滅ぼそう。

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