第7話

《でもだって、奴隷ですよ?》

『ココ、そこまで厳しいの?』


《厳しいと言うか、聞いた事は無いですね、奴隷紋の解除も》

『何で』


《反抗が怖いのは勿論、確実な避妊方法はコレが1番ですから》


『何で説明して無いのかな』

《さぁ》


『何か命令された事は?』

《アヤトからも無いので大丈夫ですよ》


『あのおじさんは、奴隷商の人は良い人?』

《まぁ、悪人とまでは言い難いかと》


『でも奴隷商人だよ?』

《2代目か3代目なので、ある意味で彼は家業を継いだだけですから》


 ココにはココの理屈が有るのは分かる。

 けど。


『本当は命を売り買いしたらダメなんだからね?』


《私は、コレは獣人と人とエルフとの共存の過程だと思います。私達は力だけなら同じ年の人間に勝てます、でも魔法はエルフ、技巧は人間。未だにエルフは人を避けていますが、獣人は人に近寄ろうとして恐れられ、この様な状態になったのだと思います》


 確かに、設定もその通りに書かれてた筈だけど。


『でも』

《いつか自然に混ざり合う、緩やかに確実に、やがて抑える事は不可能となる。きっと問題が絶えるまでは何百年も掛かるかも知れませんが、待つしか無い。急激な変化は問題を起こす、魔王やチートと呼ばれる存在と急激な変化は、同じかと》


 アヤトが王位を得る前の奴隷解放ルートは、確かに分断が更に加速して、治安が乱れてバッドエンド。

 獣人と同じ目に遭わせるルート、3種族奴隷化は、アヤトが魔王化して魔族の支配下に置いてもバッドエンド。


 でも、王位を得る気はアヤトには無い。

 そして王位を得ても、奴隷解放が上手く行くとは限らない。


『私が頭が良かったら解決策が浮かぶんだろうけど、ごめんね』

《もしかしたらまだ記憶が眠っているのかも知れませんし、今はゆっくり休みましょう。大丈夫、意外と魔道具が存在しているのかも知れませんし》


 そうだと良いな。

 だってアヤトはハンナが大好きなんだし。




「赤ちゃん出来無いんだ」


《すみません、商人がお伝えし忘れていたとは思わず》

「あ、いや、奴隷なんだもんね、今でも。そうだよね、ごめんね、奴隷だって事忘れてた」


 下腹部にある紋様は、それこそ淫紋かな、とか思ってて。

 奴隷紋だと思わなかった。


 奴隷だから尽くして、奴隷だから気を遣って。

 それなのに好かれてると勘違いしてて、凄く。


《アヤト》

「今日はもう寝るからユラに付き添ってあげて、今までごめんね、おやすみ」


 何で忘れてたんだろう、奴隷って。

 もし自分なら気を付けよう、ちゃんとしようと思ってたのに。


《分かりました、おやすみなさい》


 どうしたら良いんだろう。

 何となく自然に好き合って、結婚をして、赤ちゃんが出来る。


 奴隷ってだけでも馴染みが無いのに。

 奴隷に本当の気持ちを聞く方法が奴隷紋の解除なのに、ユラの為に暫くは避妊したいからって。


 無理だ。

 しかも色が見えないし。


 あ、キョウさん。




「超、追い詰められた顔してんじゃん?」


「ハンナの嘘の、見分けって」

「うん、無理」


「ですよねぇ」


 こうなるだろうと思ってた。

 奴隷だって辺りからじんわり落ち込んで、悲嘆の匂いプンプンさせて。


「アレじゃね、ゲームなら裏ルートじゃないと攻略不可、2週目以降専用のキャラ」

「想像以上に詳しいですよね?」


「ウチのが好きでさ、愚痴聞いたり一緒に見たりもしてるし」

「良いなぁ、同じ趣味とか、共有出来るとか」


「君さ、恋愛も無いの?」

「いえ、そこは居ましたよ、キスまでですけど」


「実質童貞だな」

「キョウさんもね」


「何してたの?恋人と」

「一緒に出掛けたり、勉強したり。妊娠させたくないならするな、したら妊娠すると思えって、そう教えられてたので」


「そこは偉いな、向こうの避妊具で100%は無いしね」

「薬と避妊具と外出しなら120%じゃないですか?」


「重い」

「ぅっ」


「いや、良い重さだと思うよ、無責任なアホより全然良い。少なくとも不幸になるかも知れない子供が生まれるのを阻止出来てたんだし、そこはお前と親の教育は偉いと思いますぞ」


「あんまり、そこ褒められた事が」

「第1発見者、小学生の時、今でもホラーとかスプラッター無理」


「ごめんなさい」

「いやコレ凄い抑止力になるから気にして無いんだよね、その子と俺に意味が出来るじゃん、だから言う様にしてる。それで無責任な生中田氏が減ったら、出来事にも意味が生まれるじゃん」


「でも僕、無責任な事を」

「奴隷だって忘れてたんでしょうよ」


「はぃ、どうも、奴隷の存在に慣れてなくて」

「アレか、ユラちゃんの誘導でか」


「はぃ」


「それさ、ハンナさんにも責任が有ると思うんだわ、良い意味で」

「良い意味で?」


「奴隷だと思わせたらユラちゃんに悪影響じゃん?だからメイドとか侍女って事に収めようとしたんじゃね?」

「でも、僕、そこ考えないで咥えて貰って喜んじゃって」


「恥ずかしい?」

「はぃ」


「情けない」

「はぃ」


「大好き」

「はぃ」


「それ伝わって無いと思う?」


「いや、流石にそこまでは無いと、思い、たい」

「今日、誘われた?」


「初めて、断っちゃいました」

「無理に迫られた?」


「ぃぇ、少しして、出て行きました」

「そう引くのも作戦かもだけど、好意が有っても同じ反応にならん?」


「でも」

「好意も何も無かったら、奴隷から解放されたかったら、頃合いを見てユラちゃん優先しないで妊娠しても良い筈じゃん?だって君は強いんだし、俺も居るんだし、妊娠しても安泰だぜ?なのに、だ、つまり敢えてしなかった。少なくとも本気でユラちゃん至上主義、けど君に好意が有るかどうかは別。で、好意が無いってなったらどうする?万能薬で娼館無双するのか?」


「いや」

「じゃあ好かれて無かったら諦める?」


「嫌だ」

「じゃあ様子見しつつ押すしかなくない?」


「まぁ、そうだけど」

「じゃあ逆に好意が有ったら何もしないの?」


「する、したいけど、何をしたら良いか」

「エッチ意外で何したら良いか分からんか」


「ぅう」

「童貞か」


「ぅう、恋愛、童貞、です」

「俺らさ、能力が有るから逆に普通の恋愛が無理じゃん?」


「まぁ、嘘が分かるけど」

「けどハンナさんのは分からない、特別枠だけどある意味では普通、普通の恋愛が出来るキャラ。難易度高いけどユラちゃんって言うチートが有る、使っちゃえば?」


「それズルく」

「攻略本はズルじゃない、叡智の結晶です。便利な道具と同じ、利用して何が悪い。と言うか恋愛マニュアルに興味無い派か、フラれるぞ」


「え、読んだ事有るの?」

「恋人と一緒にな、ありえねーとか、コレ良いとか情報収集すんの。全ての情報は情報収集する為の情報、興味が有るとか無いとか、つかどうやって付き合ったワケ?」


「同じ学部の子に、好きだって言ったら、良いよって」

「まさか高額なプレゼントしてないだろうな」


「デート代は、出してたけど」

「アレだ、ノートとか勉強は」


「まぁ、そこは普通に教えたり、教えられたり」

「親のブランドバックを貸して貰った、頭良いね、優しくて好き」


「えっ」

「真面目だから安心出来る、私を大事にしてくれて嬉しい」


「え、僕を知ってるの?」

「はぁ、キープ君乙」


「いや、でも特に高い買い物とかも無いし」

「大学内で一緒に居た事は?」


「殆ど無いけど、友達と一緒に授業取ってるからって」

「一緒に君の服とか買いに行った事が無い、休みに会えても隔週、泊まりは勿論無し」


「そう、だけど」

「君が良い企業に内定を貰えたら結婚、ダメなら他のキープ君か、托卵か」


「いやいやいや」

「友達の女の子も控え目で良い子、男と一緒にワイワイ騒がない」


「いやいやいやいや」

「偶に雰囲気の違う化粧とか格好をしてるのを見掛けた事が有るけど、友達にされた、好きになって欲しくてイメチェンしてみた。とか」


「神様か何かなの?」

「お客さん、良く聞くんですよ、男からも女からも。分かりますよ、事実だって認めたら更に虚しいですもんね」


「ふぇえ」

「大丈夫、可能性の問題で、もしかしたら君を。あ、事件後にいきなり連絡取れなくなったとか」


「ふぇええええ」

「どうどう、ユラちゃんが起きる」


「ぅう」

「どうですお客さん、今なら童貞の恋愛講座の講師、格安でお受けしますよ」


「ょろしく、ぉ願ぃしますぅ」


 イカンイカン、つい傷口を抉ってしまったが。

 まぁ、膿み出しだ、仕方無い。

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