第5話

《女神の加護について情報を頂きました》


 私も知らなかった、星の加護。

 多分、ハンナ編が混ざったせいで変化してる。


 だって、アヤトが昼の女神の加護を受けないと、魔獣を聖獣に戻す魔道具を得られない事になってる。

 違う、全然違う。


「ユラの記憶では、聖獣化するのは1体だけなんだよね?」

『うん』


 ココも違う。

 もう、目の前には、群れが。


 近寄らなければ良いんだけど、次の国への通り道を通せんぼしてる。


《単独で生殖不可能なのでしょうね》

「あー、成程ね」


 しかも魔獣化の原因は病気で、治すには魔道具が必要だって。


 ゲームとは違う。

 だろうとは思ってたんだけど。


 コレ、まさかパッチが当てられたとか?

 オンラインゲームじゃなかったけど、どうなんだろ、ゲームはコレだけしかしなかったし。


「加護を制御出来る魔道具を探そう」


 もし無かったら、どうしよう。


『ぅう、ふぇえ』

「ユラ?!」


 どうしよう、感情が抑えられない。


《先ずは私が、少し歩きましょうね》

『ぅん』


 当たり前なんだけど、精神が体に依存するの、本当に不便。


《落ち着いたみたいですね、どうしたんですか?》


『もし魔道具が無くて、アヤトを、嫌になったら、どうしようと思って』

《その程度がアナタの考える愛なんですか?》


『違ってて欲しいけど、アレの兄がハーレムしてたのに、期待出来ないじゃない?』

《アヤトは転生体、兄のフミトは転移体、兄弟でも必ず顔が似るとも限らない。そしてアナタが動揺したのと同じ様に、心は体に依存するのでは?》


『うん、違うと、思うけど』

《もう少し私とアヤトを信用して頂けませんか?》


 したいけど、根拠が無い。


『無理、理由が、足りない』


《昨夜、彼がフミトの事を話してくれました。アナタも聞いてみませんか?》


『それは、どう』

《兄の恋人だとは知らなくても、あのハーレムに居た者と血の繋がりが有る、その事で心配しているのだとしても問題は無いかと》


『ごめんね、ありがとう』


 そして、アヤトの口から私が死んだ後の事を聞く事に。


「確かに君も血筋だけど、凄い薄いし大丈夫、ココでは良い人だったから」


 そこより。


『私がフミトに言うなら良いけど、凄い許せない、ムカつく、何でアヤトを責めるわけ?』

《実力を無視して強いのだと錯覚したいからでしょうね、自分は正義だ、強い、悪くない。人を傷付ける事でしか自己を肯定出来ない、非常に愚かで幼稚、ココでなら即死でしょうね》


『そんなのがいっぱい居る向こうと、死に易いココ、どっちが良いんだろう』


《弱くても生きられる事が良い事かどうか、かと》

『それ凄い難しい、バカな弱者には死んで欲しいけど、弱いけど善人には生きてて欲しい』


《範囲次第では可能かと、村か街か、国家単位か》


『手の届く範囲、ハンナとアヤトが関わる範囲だけが良いけど』

《ココには幾つもの国家が存在します、それに例え統一しても被害を完全に抑えるのは難しい、しかも何十年も掛かる処では収まらないかと》


『転移転生者が組んでも?』


 あ、そこは流石にハンナでも想定は難しいか、初めて関わったって言ってるし。




《もしかすれば、可能かも知れません》

『え、本当に?』


 今までなら、その時代にカウンターの様に転移転生者が現れていた。

 そして同時多発的に出現しても信念はバラバラであったり、それこそ愚者や悪人とされる者も混ざっていた。


 けれどもココでは違う。

 少なくとも無用な殺生を控えると主張する者が3人、こんな事は初めてで。


 でも。


《ソチラは様々な物語が有ったのですよね、こうした事は》

『先ずは4人居て、信念も後ろ盾もバラバラで、凄い被害が出たけど最後の最後で何とかなった。けど、平和に解決するには何度も失敗して、結局は何度もやり直して、やっと何とかなったのと……』


 割合としては、仲間同士の意志統合が可能であれば、成功率はほぼ100%。


《ですがアヤトやキョウの知識ではどうなのか》

『あ、きっと今不安だよねアヤト、ハンナ、アヤトを』


 ユラの緊張が解け、どうやら胃が活発に。


《先ずは夕食にしましょう》




 ユラが大丈夫って言ってくれて。

 何が、とか良く分からないけど、何かもう、良いかなって。


 もー、さ。

 この楽観主義、どうにかなんないかな、転生したら治るかと思ったのに。


「ユラが許してくれたみたいで、半分楽になっちゃった、ありがとうね、ごめんね」


 全ての女性、男性が、もしかしたら兄が殺した被害者かも知れない。

 今でも、そう思いながら生きてる。


 でも、少なくともユラは大丈夫だって言ってくれて、ユラとハンナだけが言ってくれたのに。

 半分以上、楽になっちゃってる。


 馬鹿も治れば良かったんだけど、どうしたら良いんだろ。


《失礼します》

「あ、うん、ユラは?」


《自分は良いからアヤトを、とお願いされました》


「矛盾してるなって思うんだけど、あの兄貴とか親の血が入ってるのに、優しいなって思っちゃうんだよね」


《引き離していると特に、親兄弟に似ない事は良く有るかと》


「ハンナの家族の事、聞き辛かったんだけど、どうなの?」

《気が付いたら奴隷でしたので。ただ、似た個体は見た事が無いので、珍しいか当方の種なのかは不明だそうです》


「なのに良く売れ残ってたね?」

《どうやら無意識に認識阻害を使ってたみたいなんです、なので特に声を掛けられる事も無く売れ残っていたのではと、ユラが》


「ユラを助けてるつもりだったけど、実は俺が助けられてるのかも。強さって何だと思う?」


《力》


「だけかな?」

《それと賢さ、愚かであれば直ぐに死にますし、力だけ有っても単なる力持ちで終わるかと》


「俺ってバカだと思わない?」

《なら力が有ってもとっくに死んでらっしゃるかと。どうしてそこまで心配なさるのでしょう》


 コレがトラウマかぁ。


「兄貴にもだけど、親にもバカだ、楽天家だって言われてたからかな」

《気にしてらっしゃる時点で違うのでは?》


「気にし始めたのは兄貴の事件発覚の後、人が離れてからだし」

《後追いで経過を無視し、結果論だけを責めるのは愚者の愚行。何も知らないバカにバカと言われても、ユラや私は、そこまで気にするべきなのでしょうか》


「いや、なら僕も、か」

《いきなり無視は難しいでしょうから、練習してみては?》


「無視の練習」

《私とユラは大丈夫だと言っている事を思い出す、あるいは私の事を思い出す。そうして塗り潰す、練習》


 コレは、寧ろ、吹き飛んじゃうかも。




「おはよう」

《おはようございます》


「塗り潰すって言うか、吹き飛んだぁ」

《それは良かった、ですけどまだ足りなさそうですね、一旦ちゃんと全て吹き飛ばしましょう》


「はぃ」


 罪悪感を利用する、利用出来るなら良いんですが。

 罪悪感に振り回されてしまうと、判断を鈍らせる事になる。


 一旦忘れる、手放す練習。

 魔法や酒や薬より健康的な、嫌な事をも忘れられる方法。


 やはりユラにも相手が必要ですし、キョウとアヤトを会わせるのが1番かも知れませんね。


《はい、じゃあちょっと我慢しましょうね》

「えー」




 いきなり他の転移転生者と会わせる、って。

 本当に転生者だった、しかも良い人そうだし、助かった。


「降参」

「え、何で?」


「だってさ」


 あ、獣人さんが黙ってろって。


「だって?」

「強いって分かるから」


 この獣人さんが従ってるって事は、もっと強いって事だろうし。


「内緒ね」

「あ、うん」


「よし、仲間になろう」

「えー?決断が早くない?」


「じゃあどう見極めて欲しい?」

「もっとこう、話し合う、とか」


「してくれるの?」

「そら、まぁ、うん」


 それこそ変に期待されたりとか、追放系とか嫌だし。


「あ、俺アヤトね、宜しく」

「キョウ、宜しく」




 何か、普通に馴染んでる。

 アヤト、それライバルだよ?ハンナ取り合いになるかもなんだよ?


「ユラ、何でそんなに睨んでるの」

『だって、アヤトのライバルなんだもん』

「いや無理無理、強弱決めるとかもしたくない、俺は弱いって事で良い。痛いのとか苦しいのマジで無理」


「俺」

「あ」

《虚栄虚勢は面倒を起こすかと、ココは素直に話しませんか?》


「ハンナ、それ難しいよ、外との使い分けする気持ちは分かるし」

「そっか、そうだよね、仲間になるんだし。元は俺、女なの」


「は?」

「折角性転換して、コレからだって時に、多分、嬉し過ぎて心臓発作起こしたんだと思う。で、帰りたいなら大義を成せって言われて、もう必死なんだ、マジで」


「マジで?」

「マジなんだけど、あー、人口睾丸も付いてるし、外からは無理かも」


「アレは?ホルモンとか」

「お、知ってるねぇ。けど大丈夫、女神様の加護で薬無しでも保ててる、つか薬より穏やかに良く効いてて凄い楽」


「あー、やっぱり大変なんだ、ホルモン」

「君も?」


「違う違う、母親がね、大人しくなってたから」

「あぁ、ソッチね、補充する系ね」


「そうそう、前はもう、ギャンギャン言う人だったからさ」

「あー、ウチ無関心だったから楽だったな、ある意味で」


「程々が良いよね、中間が良い」

「だよねぇ、恋人の親が矛盾ギャンギャン系でさ、どっちも嫌だねってなったんだよね」


「あー、ウチ外面はピカイチだったからなぁ、僕も居たら嫌な思いをさせてたかも」

「お、童貞か、同じじゃん」


「今は違うし」

「あー、それでかユラちゃん、大丈夫大丈夫。浮気とかバレなくてもしない派だし、初めては彼女としたいから、ハンナさんには何もしないよ」


 何かもう、話に付いていくので手一杯で。

 何て返せば良いのか。


『うん』

「可愛いねぇ」

「でしょ、本当、西洋の血って凄いよね」


「おう?」

「あ、あー、ユラは僕の兄の孫。僕は兄の子に転生したんだ」


「は?」

「だよねぇ」


 そして私はアヤトの兄の元恋人。


「兄は転移者で、自分の恋人を殺した殺人犯だった」


 どうしよう、私はアヤトを許してるのに。


「向こうで殺人犯だったって事?」

《そして英雄となり、朝の女神が加護する国の王だったそうです》


「統治がマシだったって聞くけど、サイコパスか何かなの?」

「いや、寧ろ逆、僕より真面目で頭が良かった。だから勝手に追い詰められて殺したのかな、って、向こうでは死んでるんだ、兄貴」


「もしかして、恋人を殺して、その後に自分も死んじゃった人?」

「あー、やっぱり有名だよね、うん、それ」


「で、君は転生者」

「うん、ただ凄い苦しんで死んだから、だからあんまり責めないで欲しいな、とかね」


「いや責めないでしょうよ、君がしたワケでも、親でも。そっか、成程ね、マジで矛盾系のクソ親だったんだ」

「僕は楽天家だし、親と一緒にバカだとか言われてて、賢いと悩むんだろうなって。そこでも楽天家で、何も出来なかったと思うけど、悪いなって思う」


「無理無理、自殺も他殺も、身内が簡単に察知出来て止められたら誰も苦労しないって」


「だよね、とは思うんだけどさ」

「お客さんだったけど、普通に自殺しちゃった人とか居て。けど無理だよ、いつも通りに鬱っぽくて、けどまさか死ぬとか分からなかったもん。周りも、気付けなかったって悔やんでる人も居て、最初から何も出来ない範囲に居ただけ。確かに気付ける範囲に居ても察知が無理な人も居る、ほら、恋人が気付けなかったからこそ死んでるって所も鑑みないとダメだよ、人間には限界が有るんだから」


 そう、私が追い詰めなかったら。

 もっと話し合ってたら、そもそも気付けてたら追い詰め無かった筈。

 明らかにフミトが悪いけど、ほんの少し、僅かに私にも悪い部分は有る。


 だからってフミトは全く許せないけど、もう、死んでるし。


「そこかぁ、逆ギレとか開き直る悪人って、そんな思考なんだ。弱いのが悪い、気付けない方が悪い、とか」

「それそれ、責めてれば自分は悪くないと思える系のクズ思考ね、クソ馬鹿だけど変なロジックは存在してる。そこ反面教師にして、賢く生きるのも償いの1つじゃね?」


「天才だ」

「良く言われる」


「懐かしいなぁ、こんなやり取り中々無いから」


「いやー、何かさ、俺も、俺の事を知ってもこう普通だと、嬉しいなぁ」

「いや男にしか見えないし、別に悪い事じゃなくない?」


「えへへへ、ありがとう、マジで嬉しいな」

「僕も、責めたりしない人、君で、3人目だから」


「多分、俺が3人目か」

「ぶへっ、意外とオタクだ」


「いや一般教養でしょうよ」

「なのかな、もう、本当に、ずっと、誰とも話さなかったから」


「あー、苦労して孤独死かよ、何も悪くないのに、そこはバカだな、バカだよ、良いんだよ、お前は悪くない」

「ありがとう、ごめん、ありがとう」


 ハンナもアヤトもキョウも苦労してるから、こんなに普通に理解し合えるのかな。

 全然、アヤトがどんな人生を送ったかまで、考えられて無かった。


 私、ココでも逃げ回るだけで、守って貰ってるからダメなのかな。


『私』

《前にユラと話していたんですが、少なくとも被害者の方が善人なら、アヤトを責める筈も無いって》

「俺は何も知らないから代弁出来ないけど、俺なら許す、つか許すも何も恨まないよ。知れば余計に、責める意味が無いもん」


『うん』

「ありがとうね、ユラ」


『ううん、私、ごめんなさい、アヤト』


 怖くて何も出来なくて、決められ無くて、ごめんなさい。




「いやー、ごめん、俺も子供の前で深く話し過ぎたかな」

《ユラも転生者ですから良い刺激になったでしょうし、事実ですし、いつか知る事ですから》

「でも、言う機会をもう少し考えるべきだったのかなと思ってる」


《いえ、ユラは話さないだけで賢しさは持ち合わせていますから、大丈夫ですよ》


「まぁ、感化されて泣いちゃう位だし、鈍感よりは良いと思うけど」

《思い出したいと決断したのはユラです、そこを尊重したと思って頂ければ良いかと》

「キョウ君もごめんね、隠してても良い事だったのに」


「そこは別に、それこそ悪いと思って無いし、そこで反目し合うなら離れれば良いだけで。逃げるのだけなら得意だから、アレ、スピード系」

「僕は多分、万能型かパワー系なんだよね、ココのダンジョンでも余裕だし」


「良いなぁ、怖いから入って無いんだよね、それこそゲームみたいに生き返れないし」

「行く?浅い部分ならハンナも居れば絶対に無傷で帰れるよ」


「アレは居ないの?ほら、裏ラスボスとか、チート級の突発モンスターとか」

「もう倒した」


「はー、カッコイイんですけど」

「えへへ」


 このまま共闘出来れば良いんですが。

 大義を成せ、その目的がユラを害する事に繋がるなら処分するしか無い。


 やはりユラには支えを、番を見極めなくては。


《ではユラの為に、キョウさんも、少しご協力頂けませんでしょうか》

「良いけど、何を?」

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