第2話

《お帰りなさいませ》

「ただいま、ふふふ、今日はご馳走だよユラ」


《すみませんが既に夕飯を食べさせてしまいました》

「あ、そっか、ごめん」


《ですが私はまだですので、頂いても》

「勿論、お酒も買って来たんだ、飲んで飲んで」


 ユラとの楽しい3日間があっという間に過ぎ、彼は普通通りの成果に収め、帰って来た。

 悪目立ちをしない能は有っても、子育ての知識は皆無。


《コレは、完全に酒の肴ですね》

「美味いよね、ビックリしたよ」


《はい、ですがユラにはまだ早いので、今度からは新鮮な果物や野菜をお願い出来ますか?》

「あ、うん、だよね、そうする」


《お疲れ様でした、ありがとうございます》


 前世で身に付けた接待術がこうも効くとは、少し周りに付くであろう害虫に気を付けないと。




「ハナ」

《こう言う時はハンナとお呼び下さい》


 抱くってなったらめっちゃエロくなんの、超ヤバい。

 凄い興奮して何回もしちゃった。


「ハンナ、痛くなかった?大丈夫だった?」


《ヒリヒリとした違和感は有りますが、何とか、朝の支度は可能かと》

「良いよ、宿の朝食を食べよう」


《いえ、お金は大事ですし、食材が勿体無いので》

「分かった、じゃあ手伝うから、もう1回だけ、良いかな」


《はい》


 エッチの時は無表情じゃないの、マジヤバい。




「おはようハンナ」

《すみません、まだスープしか出来ていなくて》


「ごめん、起こしてくれたら」

《色々とお疲れ様でしたでしょうから、どうしても気が引けてしまって。もし、宜しければパンを、下で買って来て頂いても良いですか?》


「あ、うん」


 こうなる前に、再度奴隷商へ行けて助かった。

 性行為が上手くいかず返品されては困るだろう、と、念の為に潤滑剤を少し分けて貰っていた。


 アレ無しで痛みと出血を伴う行為を好む者も居るけれど、彼は違う筈だ、と。

 けれども、コレばかりは何回体験しても予測が付かない、意外と血に驚いて以降はこなせない者も居たりで。


『ハナ』

《おはようユラ、もう直ぐアヤトがパンを買って来てくれますよ、朝食にしましょうね》


『うん』


 具沢山の野菜スープ、暖かいパン、果物。

 温もり、愛情、安全な寝床。


 ユラに必要な最低限は揃っているし、彼が失敗しない間は一緒に居るとして。


 問題は失敗した時、私達の手元にはその日までの分しか財は与えられない。

 せめて家は欲しいけれど。


「はい、あ、おはようユラ」

『おはよう』


「ユラが、おはようって」

《言うのが恥ずかしかったんですよね》

『おはよう、アヤト』




 ウチの子が、パパママと名前意外、初めて喋ったぁ。


「どうしたらもっと喋ってくれるかなぁ」


《やはり安全な寝床、安定した居場所が必要なのでは、と》


 確かに、今俺がダンジョンで失敗したら路頭に迷う事になるって、普通は思うよな。

 凄い強いから無いんだけど、そっか、不安は伝わるって言うしな。


「うん、家を買おう、借金で」


 対して信用度が無いと重要なクエストは任せて貰えない、でも重要なクエストは金が良い、けど。

 その負の連鎖を断つ為、敢えて借金をして家を買うと、簡単には逃げ出さないし慎重になるからと重要なクエストを任せて貰える制度が有る。


 アレだよね、ちょっと間違うと社畜雇用制度なんだけど、そこは領主が仲介役で、暴利は無し。

 治安良い場所を選んで良かった、領主とギルマス次第なんだよね、コレ。


《コレなら、軽くお掃除すれば住めそうですね》

「ユラ、ココの家に住もうと思うんだけど、どう?良い?悪い?」


 ユラの勘は凄く良い。

 食べるのを嫌がった時に味見したら毒入りだったり、行きたがらず愚図った先で、刃傷沙汰が起きたり。


『ココ、イヤ』

「そっか、じゃあ次に行こう」


 そうして何件か見回って。


『ココが良い』

「そっか、よし、ココにします」


 で、案の定、後から聞いたら最初のは事故物件だった。


《壁を塗ってもシミが浮き出る》

「それさ、死体が埋まってたりしてね」


 本当に埋まってて、掘り出して埋め直したら、シミは出て来なくなった。

 しかも亡くなってたのは行方不明だった貴族令嬢で、お礼も貰えちゃった。


《コレで少しは借金が返せますね》

「だね」


 家を得てからは更に順調だった。

 ハンナは教会でユラと一緒に他の子の面倒を見てくれて、教会からのクエストも貰える様になって、ユラもどんどん言葉を喋る様になって。


『アヤト、あげる』

《教会でお菓子を作ったんです》


 蜂蜜とナッツのクッキー。

 美味い、美味すぎる、保存しておこう。




『無理にアヤトの相手をしなくても良いんだよ?』


《いえ、無理と言うワケでは》

『普通は潤滑剤なんて使わないんだよ、ハナ』


《どうして》

『知ってるから、コレから起こる事も全部、知ってるから』


《ユラ》

『私も転生者なの』


 ハナと呼ばれるケモミミ少女、ハンナの事を、私は前世から知っていた。

 好きな人の好きなキャラにそっくりな、名前も同じハンナ、大嫌いなハンナ。


 ヲタク趣味か結婚かを迫ったら、私は殺された。

 そして私を殺した相手の孫として転生した。


 そう、アヤトは恋人の弟。

 ハンナは大嫌いになった人が好きな人。


 けど、凄く良い人。


『アナタは私が成長したら、今度はアヤトとダンジョンに入るつもりだったでしょう。そうしてアヤトを庇って瀕死の重傷を負い、アヤトは助ける為、更にダンジョンへ深く入って力と薬を得る。けど、間に合わずにアナタは死んで、アヤトは私を教会へ置いて旅に出る』


 そして。


《そして、いずれは魔王を討伐し、謀反を起こした者へ復讐し、王位へと返り咲きアナタを迎えに来る。ですかね》

『どうしてそれを』


《神話体系は勿論、王政の交代劇では良く有る事ですから》

『信じてくれるの?』


《既にアヤトと言う転生者も居ますし、アナタの勘が良い事の辻褄も合いますから》


 私が知るハンナより優しくて、賢いハンナ。

 もう別の存在なのだと早くから分かってたのに、言い出せなかった、嫌な思いをしてくれる事で殺された恨みを晴らせてた。


 けど八つ当たりなのも分かってて、本来の筋書きが乱れるのが怖くて。

 でも、アヤトのお嫁さんにはなりたくない。


 兄弟揃ってフラレた感じだけど、アヤトはシナリオとも兄とも違って良い子だし。

 本当にハンナが大好きだし、私はハンナを超えられる気がしないし。


『今まで黙ってて、ごめんなさい』

《その場合、王妃なのでしょうか、公女なのでしょうか》


『あ、えっと、王妃の方』


《ではアヤトが》

『良い子だとは思うけど私を殺した人の弟だし、何よりハンナを愛してるし』


《アレが本当に愛、なんでしょうかね》


『ごめんなさい、やっぱり嫌』

《いえ、常識や知識が同じなのかの問題ですので、先ずは愛とは何かを教えてくれませんか?》




 この世界でのセオリー通り過ごそう。

 そう思ってたいたので彼女の言う通り、ユラが成長すればダンジョンへ、と。


 そして愛について。

 少し、私にしてみれば歪と言うか、愚かと言うか。


『確かに性欲や好意、利便性が絡んでるとは思いますけど』

《私はアナタに利便性や性欲は絡ませていませんよ、ただ守りたいと思ったので交渉し、性行為をしているに過ぎないんですが。コレは愛では無いのでしょうかね?》


 愛は与えるモノ。

 奪う事は不可能で、与えても欲しても得られない場合も有る、難しい事象。


『ソレは、ソレも愛だとは思いますけど』

《愛にも種類が有る。ですが好意と愛は似て非なるモノかと、でなければ何故、違う言葉として発達したのか》


『ぅう、やっぱりアヤトはどうでも良いんじゃないですか』

《いえ、どうでもは良くないですよ、大事な人だと思っています》


 ユラの保護者なのは勿論、上手く動かさなければ国が乱れる、そうした重要な人物だと確定してしまいましたし。


『本当に?』

《はい》


『悔しいけど、アヤトとハンナは良い親になると思うの』

《気が早いですね、もう少し情勢が安定しないと難しいですよ》


『そうよね、新しい王が私達を探してる筈だし』

《ですので最悪はこの家を放棄しないといけませんし、蓄財も必要なんですが》


『ダンジョンに入る事になるのよね』

《実は支援魔法が得意なので問題無いかと》


『やっぱり使えるんだ、凄い、良いなぁ』

《ユラは何が使えるか、教えて頂いても》


『あ、うん、あのね……』

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