ケモミミ少女、スプレッド〜9回目の転生は、流石に愛に生きようと思います。

中谷 獏天

第1話

 1回目、 初めての記憶は殴られて痛いなと思った所から始まった。

 最低限の身の守り方と性的な事を教えられ、次には情報を探る手段を教え込まれ、失敗して殺された。


 2回目はマトモな場所に買われた。

 お嬢様の気まぐれで買われたけど、直ぐに敵に襲われ、私も一緒に死んだ。


 3回目、本格的な戦闘方法を教え込まれ一緒に戦った。

 けど捕虜になり、一緒に蹂躙されて殺された。


 4回目、仲間から外された冒険者に、魔法を教えられた。

 今度は国を救えたけど、何故か隣国から悪者だとされ、討伐された。


 5回目は自分で鍛錬を積み、戦闘奴隷として買われ、初めて世界を救った。

 良い事をしたと思ったのに、魔王を倒した瞬間に王族側に裏切られ、一緒に死んだ。


 6回目、奴隷の待遇が多少はマシになったので様子見をし、最も強そうな者の所へ逃げ出した。

 突出した才能を持った者に期待し、今度こそ平定を、と。


 暫くは続いた、彼が生きている間は。


 そして子供達が大人になると、嘗て悪だとされた者と同類になり、諍いを始め。

 再び戦乱の世に。


 7回目。

 今度こそはと、今までの積み重ねで奴隷から逃げ出し、世界を見回ってみた。

 そこで知った、私が違う世界だと思っていたのは、同じ1つの世界での出来事だった。


 歴史は繰り返す。

 違う能力、違う物語だと思っていた事も、結局は単なる王政の交代劇に過ぎない。


 8回目、私は同じ奴隷達に教育を施す事にした。

 せめて、無益な争いに巻き込まれぬ様に、せめて自分の身は守れる様に。


 その事が魔王側の耳に入ったらしく、奴隷商に魔王が攻め込んで来て、助けてやるから仲間になれと言われた。

 そして魔王の統治で世界には平定、和平、平和が訪れた。


 なのに、また。


「魔王!アナタを倒させて貰う!」

《お待ちなさい、彼を倒せば平和が崩れてしまいますよ》


「アナタ達の平和だろう!僕らの村は焼かれ、妹はアナタに」

《魔王はココ数十年は外出してはおりませんが》


「デタラメだ!僕は確かに見たんだ!その姿!僕は確かに見たんだ!」

《それは幻影ま》

『これ以上の対話は無駄だろう、戦ってやろう、人の為に』


 敢えて残していた反乱組織に、やはり強力な能力者が現れた。

 そして、疲れ切っていた魔王は討ち取られた。


《降伏し、協力します、平和さえ保てれば良いので》


 そうして監視されながらも、勇者ともてはやされる者の監視をする事に。

 案の定ハーレムを築き、勇者の子孫は増え、僅か2代目にして諍いが始まった。


「アナタの言ってた事が、本当になってしまいましたね」

《だから言ったじゃないですか2代目、上には上が居る、と》


 異世界からの転移者が現れ、勇者の子孫の中でも最も強い筈の者が、魔王として倒された。

 子孫は全て死に、歴史書は改変か破棄された。


 そして、私も。


『魔王の宰相を生かすワケにはいかない』

《そうですか》


 この時、初めて自害した。

 コレでやっと、終われると思ったのに。




「この子は幾らだ?」


 あぁ、また、勇者か魔王と関わる事になるんですか。

 凄く面倒ですね。


 けどまぁ、いつでも逃げ出せますし、相手は子連れですし。


『この子は高いですよ』


 嘘。

 敢えて手頃な価格帯程度の能力しか見せていないのだし、どうして馬鹿は無理をしようとするのだろうか。


《主、少しお耳に入れたい事が》

『ん?何かな、ハンナちゃん』


《彼は明らかに人手不足を補う為に来ています、ココで適正価格で売れば、また買いに来る筈。そう私も誘導します》


『君、それは良い案だが』

《アレは上客になります、外部からもココを紹介する者が居た方が良いかと》


『成程』

《私は無能者ですし、お役に立てる案を考えていたんです、お願いします》


『よし、その手でいってみよう』


 2代目や3代目は大概はボンクラ。

 しかも今回は奴隷に比較的優しい世界、甘い、優しい世界。


 けれど、何処も結局は同じ。

 魔法が有って、魔道具が有って、魔王が居る。


 それか、勇者か。




「凄い、普通の奴隷ってこんなに有能なの?」

《見て覚えましたので、個体差が有るかと》


「へー」


 洗濯も縫い物も、簡単な料理も出来る少女。

 しかも処女、可愛いのに、処女。


『パパ』

「いや、そこはアヤト。君のパパはフミト、俺の弟、フミトの子」


《あの、図で、そうした関係性を教えて頂いても宜しいでしょうか》

「あぁ、そっか、待ってて」


 クール系無表情ケモミミ少女、萌え。


『ママ?』

《そう言えば、まだ名を頂いていないのですが》

「あ、えっとねぇ、じゃあ、前の名前がイヤじゃなかったらそのままで」


《ハンナ、ですが》

『ハナ』

「ハ、ン、ナ」


『ハ、ナ』

「難しいかぁ」

《では、ハナで》


『ハナ』

《はい》


『ママ』

《残念ですがハナです》


 急に子供と2人になって、どうしようかと思ってたけど。

 コレ、有りかも。


「あ、図ね、説明するよ、色々と」




 彼は転生者だった。

 しかも兄が転移者、見事に英雄となり、ハーレムを築いた。

 その子孫へと転生した、と。


《ユラは、異母妹の子、なのですね》

「うん、そうそう、凄い複雑だけどね」


《でしょうね》


 そして彼は兄の子に転生、とは。


「まぁ、1番複雑なのは、英雄だった筈の兄が魔王扱いされて殺された所だよね」


 生きる事が最優先、決して反乱を考えないと誓ったにも関わらず、殺されそうになり逃走。

 逃亡の果てにこの地に辿り着いた、と。


《逃げれるだけのお力が有るなら、討ち取ってしまえば宜しかったのでは》

「いやさ、どっちもどっちって感じだったし、幾ら善政をしても逆恨みする者が現れるし。死にたくない、平凡で平和な生き方がしたくて」


 偶に居るんですよね、強いのに多くを望まない者。

 ですが最も難しい事を望んでいる、平凡で平和に生きる、それがどれだけ難しいか。


《そうですか》




 あれ?

 俺、今、良い事を言ったよね?


 何で呆れた感じで溜息混じりに言われたんだろ?


 あ、アレかな、ツンデレ的な。


「あの」

《追加の燃料代が面倒なので、今日は一旦終わりとしても宜しいでしょうか》


「あぁ、うん、はい」


 何だか冷たい感じでガッカリしたんだけど。

 こう言ってくれたのは、俺の為だった。


《失礼致しますね》

「お、ぉお」


 すっかりスッキリして、直ぐに眠気が。


《では、おやすみなさいませ》




 病気の類いは無し。

 しかも前世もウブだったのか、今世ではウブなフリをしているのか。


『ママ』

《ハナ、アナタのハナですよ》


 契約書の主の名は、このユラ。

 なのでアヤトは謂わば他人、部外者。


 半ば妹だとは言っていますが、そう言いながらも結局は抱く者、襲う者を今まで大勢見てきた。

 今回の私の役目は、彼女を守る事に決めた。


 ココの朝も早い。

 早く寝よう、彼女の為に、私の為に。




「あ、おはよう」

《昨夜は急に失礼致しました、足りない様でしたらと思いまして、伺ったのですが》


 朝の身支度をしている最中に、何、この展開。


「いや、無理には」


《無理はしていませんが、私でご満足頂けないのでしたら、娼館か新しい奴隷のご紹介を》

「いや、嫌じゃないなら、その、お願いします」


《忙しいので暫くはコレで済ませる事になりますが、何かご要望は?》


「上を、はだけさせたままで、お願いします」

《畏まりました》


 何かもう、本当、凄くて。


「あの、早い、ですよね」

《個体差が有ると聞いていますし、初めての事なので判断出来かねます》


「あ、そう、なんですね」

《はい、娼館で病気を貰わない為の新品の奴隷ですので》


 抗生物質が有ればなぁ。

 いや、実は有る、とか。


「今日は薬屋中心に回るから、ユラにも歩き易い靴と服で」

《畏まりました》


 まぁ、こうは言っても、子供はお気に入りを着たがるんだよね。


「ユラ、それだと」

『いや』

《最悪は交互に抱いて回るか、別行動が良いかと》


「いや、治安が良いとは聞くけど、一緒に回ろう」

《畏まりました。さ、アヤトと一緒にお買い物に行きましょうね》


 いきなり初めて名前呼びって、クる、凄くクる。

 ユラには凄い優しく微笑むし、天使かよ。




「やっぱり、流石に無いかぁ」


 何を探しているのかと思えば、どんな病も治す万能薬だった。

 とある場所ではエリクサー、とある場所ではネクタール、アンブロシア。


 戦争か戦が起こる原因の1つ。


 仮にココにも有ったとしても、一部の特権階級が独占し、政治と国民を操る道具にしている筈。

 実際に私もさせましたし。


《いらっしゃった場所で、お噂が?》

「あ、いや、うん、有ると良いねって感じ」


 製造しても良いんですが、流石に道具や材料、それこそ場所も確保しなければならない。

 そして以前と同様に効果を発揮するか。


《そうですか》

「まぁ、夢物語だよねぇ」


 マジックバックで彼が財を持ち出してくれた事で、今は何とか食い繋いでいる状態。

 今後はどうするつもりなのか、確認はすべきでしょうね。


《今後、どう稼いでいかれるおつもりで?》

「君にユラを預けてダンジョンへ、その合間にユラには字の読み書きだとかを教えて欲しいんだけど」


《でしたらダンジョン用の奴隷を手に入れるべきかと、中古で見た目は悪いですが、腕の良い者が居ります》


「んー」


 上を見ながらの考え事は、確か。


《では先に適正価格からお教えしますので、奴隷商へ》




 確かに見た目は怪我しちゃってるけど、別に、抱くワケでも無いし。

 罠探知と鍵開けの能力は俺に無いしな。


「うん、買った」


 良い買い物が出来たな。

 中古だから暫くは奴隷商で預かってくれるって言うし、試用期間内なら8割を返金してくれるって、ハナが交渉してくれて助かった。


《では、寝かし付けて参りますね》

「あ、はい、お願いします」


 ユラも凄い懐いてるし。

 あぁ、初めてのダンジョンか、楽しみだなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る