第6話 わたしを変える音
そのあとはとんとん拍子だった。出演もあっさりOKしてもらい、イベントを企画した人から人手がいなかったから助かったとものすごく感謝された時は少しヒーローにでもなった気分だった。本番はクリスマスの日だからと「クリスマスキャロル」という曲をすることになった。家で練習する時も最初は小さめに吹いていたが葵さんが部屋に勝手に入り「もっと堂々とふけ!」と怒鳴られた。初めて腰が抜けるほど驚いた。少し涙も出た。そんなわたしを見てそんなつもりではなかったと葵さんが焦っていた。その後、わたしは葵さんの前で少しだけ曲を演奏した。終わると「すごい、すごい」と拍手をして喜んでいた。
ああ、昔こんな風景を見たことがある気がする。初めて両親の前で「きらきら星」吹いた時だ。懐かしくて暖かかった時間。ずっと忘れていた。忘れようとしていた。傷つくことが怖くて。でも、もう大丈夫。
そして12月25日。本番直前。わたしはフルートを握りしめてその時を待っていた。程よい緊張がわたしを包む。でももう何も怖くない。
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