異人に救出される
そんなある日、沖合から黒い、大きな船が近づいてくるのが見えた。
俺たちは今までに、そんな大きな船を見たことがなかった。
船は明らかにこの島に向かってきている。
助かるかもしれない!
俺たちは期待した。
それと同時に、大きな不安もあった。
なにせ、今までの人生でこんな船を見たことがなかったからだ。
大きな帆が張ってあるのは分かるが、それ以外にも長い煙突のようなものが何本も立っており、煙をたなびかせている。
なんとも得体の知れない船だ。
船の中に、大きなかまどでもあるのだろうか。
それにしても大きすぎる煙突だ……
船はこの島の沖に停泊した。
中から人が降りてきた。
俺たちは、降りてきた人たちを見て、再び驚くのであった。
船から降りてきた人たちは、ずいぶんと体が大きく、そして、肌の色や髪の色が薄かった。
顔の彫りは深く、そして、何より驚いたのが……
言葉が通じない!
これが「異人」というやつなのか?
寺子屋にほとんど行ったことがなかった俺でも、異国というものが海の向こうにあるとは聞いていた。
今、眼の前にいる人達、それがきっと、話に聞いていた異人なのであろう。
上陸してきた異人たちは、はじめは俺たちを島の住人だと思ったようだが、俺たち以外誰も居ないこと、そして、まともな家がないことなどから、俺たちが遭難してこの島にたどり着いた漂流者であることを理解したようだった。
言葉の通じない異人たちは、俺たちを助けることにしたようだ。
彼らの船に乗せてくれた。
船の乗組員たちも、俺たち日本人を見るのは初めてなのだろう。
好奇の目でじろじろと見られ、こちらには分からない言葉であれこれと言われた。
こうして、俺たち5人は、異人と船の中で過ごすこととなった。
異人たちはクジラを獲りに日本の近くの海まで来ていた、ということが分かってきた。
彼らがこの島に立ち寄ったのは、何か食べるものがないか探しにきたとのことだった。
俺は、異人の船員から海図を見せてもらった。
Japanと書いてあるところが、どうやら俺たちの国、日本らしい。
そして、今いる場所は江戸の遥か南だった。
土佐から何日も風と潮に流されて、俺たちはこんなところまで漂流してきたのか……
俺たち5人は、異人の船の中で働いた。
働きながら、俺は異国の言葉を覚えようと試みた。
人が生きていくためには、食べ物と水が必要だ。
水……
やつらが水を得るときに、いつも言っている言葉があった。
おそらく、異国の言葉では、この言葉が水を表しているのだろう。
「わら」
この予想が当たっているのかどうか、俺は確かめてみることにした。
異人に向かって、俺は言ってみた。
「わら」
「Water?」
異人はしばらくすると、おわんに入った水を持ってきてくれた。
俺の異国語が通じた!!
俺は異人と話ができたのだ!!
俺は興奮した!!
それからも、俺は異人たちの言葉に耳を傾け、異人の言葉を覚えていった。
俺の異国語が合っているのかどうか、どんどん異人に話しかけて確かめてみた。
通じたり、通じなかったり……
それを繰り返していくうちに、生活に必要な会話が少しだけできるようになった。
「朝飯」という異国語も分かった。
「ぷれくはあす」
俺は、朝飯を食べたあと、料理をしてくれた船員に、
「ぷれくはあす!」
と言った後、最高の笑顔を見せて、朝食がおいしかったことの礼を伝えてみた。
「breakfast?」
その船員は、俺に朝食を褒められたということがわかったようだった。
彼は満面の笑みで、俺に手を差し出した。
俺たちは、国と言葉の違いを超えて、固く握手し合った。
時を表す言葉も分かってきた。
朝は「もうねん」、晩は「いぶねん」と言うようだ。
そして、やつらの国の名前は、「メリケン」と言うらしい。
船はクジラ漁を終え、これからメリケンに帰るという。
再び、海図を見せてもらった。
この広い海の名前は、「ぱしひこ」というらしい。
メリケンは、ぱしひこを挟んで反対側にある。
そこに行くまでには途方もない日数がかかりそうだ。
異国の船の仕組みには驚かされた。
風の力、人の力に加え、もうひとつ、火の力も使って船を動かしているようだった。
どういう原理なのかはわからなかったが、水と石炭を使っていることは分かった。
広い「ぱしひこ」を渡り、「メリケン」から「ジャパン」の近くまで来ることができる船。
俺たちが乗っていた漁船とは大違いだ。
俺は、そんなやつらの
捕鯨船は、「ハワイ」と呼ばれる島に着いた。
海図を見たら、ぱしひこの真ん中にある島だった。
うぃりあん船長は、俺たちをこの島に下ろすという。
なぜ、日本に返してくれなかったのかというと、何やらきまりで、「ジャパン」には寄港してはいけないことになっているから、とのことだった。
江戸幕府は鎖国体制を敷いており、メリケンの船の寄港を許していなかったのだ。
俺以外の4人は、船から降りて陸地での生活ができるということで大喜びだった。
だが、俺はこの船を降りたくなかった。
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