第5話 出口
エ!どこですここ。家の中でしたよね。」すり鉢状の盆地。遥山の頂から、盆地に広がる稲穂の海を見下ろしていた。
「まいったな。ここから出られそうなドアがあるところは、ほらあそこ、あの建物くらいだ。」
「20kmはありますよ。引き返しましょう。」
「言ったろ。引き返すとますます深みにハマる。明後日は、会社だし。今日中には帰りたい。できれば、今日は様子見にしときたい。」そう言って歩き始める。
「ここ、どんな物語ですかね。」歩きながら聞いてきた。Yは、登山に行くみたいな格好だから、歩きやすそうだ。
「まだ、わかんないな。なんか、現実感があるから、もしかしたらご招待されたかもしれない。」
「なんか、焦げ臭くないです?」確かに。どこからかパチパチ音もしてきた。
「山火事だ。いや山焼きかな?」
「なんですそれ。」最近の子は知らないのか?
「山肌の草を燃やして、草原を維持する昔からのやり方だよ。もしかして、僕らは焼け死ぬ役かな?」
「え!死んだらどうなるんです。」Yが言った。
「他人の物語のなかで、死んだことないからわかんないけど、終わるまで死に続けるんじゃないかな。物語を作った本人が、物語から抜け出るまで。」
「それは怖いですね!死人をいっぱい抱えたままの世界もありそうですね。」
「死体役は、途中で現実味がなくなるから、解放されると思うんだけど。まあ、それでも死ぬのは嫌だから、急ごう。」Yを促し、走る。土が柔らかい。砂みたいだ。非常に歩きにくい。
「何か音が聞こえません。外から。」ビービーと車のイモビライザーの警告音が聞こえる。
「ああ、良かった。このまま、この展開に付き合わされたら、どうなるかと思った。」そう言って目の前に出た避難所のドアを開ける。
家の外だった。
「真っ暗じゃないですか?朝でしたよね。ここ来たの。1〜2時間くらいしかいなかったですよね。」Yがいう。
「時計見てみろよ。もう夜の9時だ。時間の感じ方が、違うんだよ。今回は、短く感じたけど、大概は何年もいても数分しかいなかったようなことが多いな。」
「へー。なんか損した気分ですね。」
「まあ、まだ日付が変わる前に出れて良かった。今日は、このまま帰ろう。」車の鍵を開け、イモビライザーを止める。
「これでわかったろ。中にいる人にインタビューとかは基本できないってこと。」
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