第2話 入り口
「山でも登るのか?」思わずツッコミを入れてしまった。リュックに登山靴。ツバの広い帽子。ハイキングでも行こうかと言った出立だ。
「加藤さんこそ随分ラフな格好ですね。だいぶ歩くんでしょ。」
「車で、近くまで行けるよ。ほら、あの家だ。」
県道から少し入ったところにある一軒の家の前に停めた。
「普通の二階建ての家じゃないですか。」不満そうに呟く。
「あら、でもどこから入るんです?」ああ、気がついたか。
「そこの窓からだよ。玄関はないんだ。ほらハシゴがある。」
「出る時もここなんですか?」
「さあ、出る時は色々だな。」そう言ってハシゴをかけた。トイレにでもついてるような小窓だ。頭の高さぐらいなので、そこから入ろうとすると少し大変だ。
「貴重品だけ持って、リュックは、車に置いてこい。邪魔だ。」リュックの上部のファスナーが外れて、ウェストポーチになった。
「かわいいでしょ。」それも邪魔くさそうだが、まあいい。
「先に入るか?」
「え、いや、加藤さん先にお願いしますよ。私は後から続きます。」
「わかった。」ハシゴを登り、窓から家に入る。少し高い位置にあるので、注意して飛び降りる。
続けて、Yが入ってきた。案の定ウェストポーチが窓枠に引っかかっている。
「早くしろ。」ちょっとめんどくさくなってきた。
「この、廊下の突き当たりで下に降りることができる。」
「加藤さん。私たち一階から入りましたよね。なんで2階にいるんです。」廊下の窓から、外を見ながら言った。
「あんまり、深く考えるな。そういう家なんだ。ほら、先に行け、一階に降りる。」そう言って促した。
「下に降りるって、階段も、梯子もないじゃないですか?ここからどうやって・・・」そう言いかけて、寄りかかった壁が、まるでゼリーのようにYを取り込んだ。ぐるりと回って、一旦外に放り出されたのち、一階にまた取り込まれていった。俺も続く。
「ちょっと、加藤さん。ああいう仕掛けなら先に言ってもらわないと。」Yが腰をさすりながら立ち上がる。
「なんですかここ。調理場みたいですね。」
「ここからは、勝手にうろつくなよ。」おっとお出ましだ。
「誰か来ますよ。男の人ですね。料理人ですか?あれ、さわれないんですね。」
「向こうが、こちらをお気に召さないんだろ。行くぞ。」部屋に入ってきた男は、後ろで料理を始めた。
「向こうが、お気に召さないってどういうことです?あの人は誰ですか?」
「あいつは、ここの住人だ。この家の中の自分の物語の中で生きている。外からの来訪者が来た場合は、自分の世界観に合うか合わないかジャッジして、あえば話もできるし、体も触れる。そうでなければ、見えはするが、俺たちは関われない。」Yは、不思議そうに聞いている。
「それは、住民同士も一緒だ。世界観が合えば、コミュニケーションが取れるし、そうでなければ、お互い関わらない。俺たちは、どの世界にも属してないから、あれが見えるが、あいつら同士は、世界が違えばお互いの存在を認識することもできない。」
「ヘー。よくわかんないですね。じゃあ、さっきの人と話をしようと思ったら、料理人の格好をしてくればいいんですか?」短絡的だな。
「料理人の物語といってもいろいろある。中華からフレンチまで、料理の種類も違うし、食べさせる場所も、レストランから家庭まで色々だ。どんな、物語の中に彼がいるか見極めないと格好だけ合わせても意味ないよ。」
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