第14話
「冬休み中に家でゲームばかりしてないで、たまには出かけたら?」
「昨日は出かけたけど?」
家にいると、若い頃はイケイケだったという母が、いろいろと口うるさく言ってくる。親に対してこういうことを言うのはどうかと思うけど、正直うざい。
「バイトでしょ? てかあんた、来年高3にもなるのに、まだ彼女もできないの? 柚希ちゃんいたでしょ? 小、中と一緒だった。この間駅で彼氏と手を繋いで歩いてたんだから。あんたも男なら女の一人や二人連れてきなさいよ」
「うるさいなぁ……」
「あんた、まさかゲイじゃないでしょうね! いや、それがダメだって言ってるんじゃないのよ。ただね、もしそうなら一人で悩まず、お母さんに相談し――」
「っなわけないだろっ! 何考えてんだよ!」
「あっ、ちょっとどこ行くの?」
「出かけろって言ったのはそっちだろ!」
家にいるとストレスがたまるので、僕は外に飛び出した。行く先もないので、とりあえず近くのコンビニに向かった。
「やっぱり、このマフラーいい感じだよね」
雑誌コーナーで立ち読みをするにやけ面の男が、コンビニの窓ガラスに映っていた。一度は一之瀬に譲ることを考えたマフラーだけど、なんだかんだで毎日巻いている。
『――個人的には和也さんに気を遣うことはないと思うよ』と香織さんは言っていたけど、相手が人妻だから、気を遣わない方が難しい。
あのクリスマスイヴ以降、恭子さんとは連絡を取っていない。学校が冬休みに入ってしまったことで、一之瀬の授業態度を報告する機会もなくなっていた。
「離婚か……」
もし本当に恭子さんが離婚した場合、それによって僕にチャンスが生まれるのだろうか。そもそも、僕は恭子さんとどのような関係を望んでいるのだろう。
『――あたしと出会って10年振りにセックスしたって、嬉しそうに言ってたし』
なぜ、香織さんの言葉が頭から離れないのだろう。
「セックスか……どんな感じなんだろ」
やっぱり気持ちいいのかな?
そういうビデオをまったく観たことないわけじゃないけど、今まではそういうことにあまり興味が持てなかった。一之瀬やクラスの男子が話しているのは聞いたことあるけど、会話に参加したことはない。童貞なので、そもそも参加資格を持っていないのだけど……。
「恭子さんと初体験か」
ピロリロリン♪
「――――うわぁっ!?」
やましいことを考えているのがスマホに伝わってしまったのか、僕を驚かせるように甲高い音を響かせた。
「なんだ、一之瀬か」
驚かせやがってと思いながらLINEを開く。
『うぃーす! 涼太今日バイト休みだよな? 今晩一緒に貝宗神社に初詣行かねぇ?』
『貝宗神社って、一之瀬の地元の神社だよね?』
『めっちゃでかいぜ! 焼きそばにたこ焼き、綿あめにりんご飴、屋台もかなり出るからな』
『お祭りみたいだね』
『そこらの祭りよりすごいって! 見渡す限り、人、人、人だからな!』
僕の地元にも小さな神社はあるけれど、毎年そこまで多くの人が訪れることはない。屋台もせいぜい3、4軒しか出ていない。
「気分転換には丁度いいかもな」
ということで、本日大晦日の深夜からは、一之瀬と初詣に行くことに決めた。
そして、ふと思う。
「恭子さんも来るのかな?」
遊び人の旦那さんも、さすがに年末年始は奥さんをほったらかして出かけないだろう。
少し残念な気持ちもあったけど、たまには一之瀬と男の友情を深めるのも悪くないと思った。
「――――っ」
そんなことを考えながらコンビニを出ようとしたところで、店に入ってきたお客さんと肩がぶつかってしまう。
「あっ、ごめんなさい!」
「涼くんじゃん!」
と、名前を呼ばれたのだが……誰だこの派手なギャル。季節感を無視したミニスカートにへそ出しファッション。アウターを着ていなければ真夏のような装いだ。おまけに目には毛虫が乗っている。
「えーと……どちら様でしたっけ?」
「やだー、涼くん超ウケる! あっしじゃん、あっし!」
てやんでぇーどこのどいつだい! と言ってやりたいところだが、ギャルはさすがにちょっと怖い。
「え、えー……と」
「小、中と一緒だった
「御門……って、あの御門っ!?」
御門柚希。小学生時代、クラス委員長をしていた生粋の眼鏡っ娘。中学からは眼鏡をやめてコンタクトに変え、少し派手なグループに属するようになっていた――が、ちょっといくらなんでも垢抜けすぎだ。もはや別人のようじゃないか。うちの母はよくこれが御門だって気づけたな。僕なんて、名前を言われてもまだ信じられずにいる。
「そんなに驚くことなくない? あっしってそんなに変わったかな?」
「変わりすぎですけど……」
というか、その〝あっし〟って何? なんでそんな江戸っ子みたいな一人称になってんだよ。
「涼くん遠慮なさすぎ、マジウケる。つーか超久しぶりじゃん。元気してた?」
「う、うん。御門も……その、元気そうで何よりだね」
「涼くん、まじイケメンになったよねー。高校ではブイブイいわせてるんじゃね?」
なんだよブイブイって……。
というか、お前本当にどうしてしまったんだよ。こんなの僕が知ってる御門柚希じゃないんだけど。
「あっ、そだ。LINEとインスタ教えてよ」
「インスタはやってないけど、LINEなら」
にしても、化粧も服装もすごく派手だな。その金髪は校則違反にならないのかな。
「涼くん絶対インスタやった方がいいよ。LINE教えてくれない子でも、インスタならOKって子わりかしいるし。ワンチャン狙いやすくない?」
「いや、僕はそういうのは?」
「……涼くんてひょっとしてまだ童貞とか?」
「……」
鋭い!
どうしてわかったんだ。僕ってそんなに童貞オーラ出ているのかな?
「えっ!? マジ!? いやいやいや、涼くんなら迫ればヤらせてくれる子絶対いるくない?」
「……そういうことはちゃんと好きな人としたいからさ」
って、僕はコンビニの入口で何を言っているんだ。
「あー、それはそうか!」
性に奔放かと思えば、意外とそうでもないのかな? そういうところは昔の御門のままだといいな。派手なのは見た目だけにしてくれよ。同級生が伝説のヤリマンとか、なんかちょっと嫌だ。
「涼くん、これから何か用あんの?」
「いや、夜に友達と初詣行くくらいだけど」
「なら、それまであっしとカラオケとかどう? あっしも夜まで暇なんだよね」
ギャルとカラオケか……と言っても、相手は小学生の頃からの知り合いだし、問題ないか。このまま家に帰っても、また母に小言を言われるだけだしな。
「少しくらいならいいよ」
「なら決まりじゃん。駅前のカラオケでOK?」
「うん」
久しぶりに再会した同級生とカラオケに行くことになったのだが、まさかそこで予想外の人物と出くわしてしまうなんて、この時の僕は思いもしなかった。
初恋はNTR。僕が友達のお姉ちゃんの不倫相手になった話。 🎈パンサー葉月🎈 @hazukihazuki
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