第26話

「切れろ切れろ切れろ切れろ切れろ!!」



パキンッ!



そんな音がして目を見開いた。



「あ……」



刃が折れたハサミが、空しく落下していったのだった。



グッタリと肩を落としたまま、教室に到着していた。



今日も輝明に頼まれてお弁当を作ってきたけれど、食べてもらえるかどうかわかあらない。



でも、昨日殴られたことを思い出すと、断る方が怖かった。



「ねぇ、最近寺島ってかっこよくなってきたよね」



教室へ入ってからそんな話声が聞こえてきて、あたしは視線を向けた。



数人の女子生徒たちが集まってコソコソと噂話をしている。


その先を見て見ると、佐恵子と寺島が楽しそうに会話をしていた。



クラスメートたちの言う通り、最近寺島はあか抜けてきた感じがする。



佐恵子と付き合い始めて、見た目に気を使い出したのがわかった。



佐恵子の方も、普段から薄くメークをするようになって男子たちからの評判が上がってきていた。



「あ、朱里おはよう! 今日は遅かったね」



あたしに気が付いた佐恵子がそう言って駆け寄って来た。


「うん。お弁当を作ってたからね」



あたしはそう答えて苦笑いを浮かべた。



おかげでメークが手抜きになってしまっている。



「お弁当って……じゃあ、神社には行かなかったの?」



「ううん。夢の中で行ってきた。でも、ダメだった」



あたしは夢で見た出来事を佐恵子に話て聞かせた。



「なにそれ、なんか怖いね」



佐恵子はそう言って自分の体を抱きしめる。



「糸は切れないし、とにかく輝明の機嫌を損ねないようにしなきゃって思ってるの」



「うん。そうだね」



佐恵子は深刻な表情で頷いたのだった。


☆☆☆


もし、デブの高原と付き合っていたとしても、寺島と同じようなことになっていたんだろうか?



ふと、そんなことを考えるようになっていた。



高原はあたしのために努力して、ダイエットでもするだろうか?



「あんなヤツがダイエットしたって、そんなに変わらないよね」



あたしはそう呟いて、考えをかき消した。



いくら高原がダイエットをしたと言っても、付き合うなんてやっぱり無理だった。



生理的に受け付けない。



「なに?」



横から声をかけられて、今は昼休憩中で隣に輝明がいることを思い出した。



今日も輝明はあたしのお弁当を食べてくれず、さっき購買で買って来たパンを食べている。



「ねぇ、パンを食べるならあたし、お弁当作って来なくてもいいよね?」



2人分を持ってくるのだって、重たくて苦労する。



「は? 俺は朱里ちゃんのために頼んでるんだけど?」



「どういうこと?」



「朱里ちゃんの女性としてのスキルを上げる手伝いをしてるんだよ」



そう言ってニッコリとほほ笑む輝明。



付き合う前ならその笑顔にドキッとしていたかもしれないけれど、今は呆れてしまった。



女性としてのスキルなんて、あたしにはまだ必要ない。



必要になったときに頑張ればいいんだ。



そう思って大きくため息を吐き出した。



「なにそのため息。俺の意見になにか言いたいことでもある?」



そう聞かれて、あたしは慌てて「そんなことないよ」と、笑顔を作った。



また殴られるかもしれないという危機感を忘れていた。



「お弁当もグチャグチャだけど、今日のメークもヒドイね」



輝明の言葉にあたしは絶句してしまった。



今日のメークが決まらなかったのは、輝明のお弁当を作っていたからだ。



そう言いたかったけれど、グッと我慢した。



そんなことを言ったらなにをされるかわからない。



「なにもかも完璧じゃないと、王子様の横にはいられないよ?」



輝明はそう言って、ほほ笑んだのだった。

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