第23話
☆☆☆
クラスメートに秘密だと言っても、佐恵子に隠しているつもりはなかった。
輝明にも了解を取って、あたしは佐恵子にだけ本当のことを伝えていた。
《佐恵子:明日のダブルデートなに着て行く?》
佐恵子からそんなメッセージが届いたのは、デート前日の夜だった。
日曜日の明日、4人で会う事になっている。
あたしにとっても佐恵子にとっても初めてのデートなので、さすがに緊張していた。
《朱里:ワンピースにしようかと思ってるよ》
そう返事をすると、しばらくして1枚の写真が送られて来た。
それは白地にブルーの花がちりばめられたワンピースの写真だった。
佐恵子に似合いそうな、爽やかな柄だ。
《朱里:それすっごく可愛い! 絶対佐恵子に似合う!》
《佐恵子:そうかな……。これを着て行こうかな》
《朱里:あたしは何色にしよう、う~ん、悩む》
正直、寺島レベルの男が相手ならズボンで行っても問題ないと思う。
けれど、あたしの相手は輝明なのだ。
下手な格好で会うわけにはいかない。
メークだって、明日は倍の時間をかけて丁寧にしていく予定だった。
輝明の横にいて釣り合わないと思われてはならないのだから。
「佐恵子の相談に乗ってる暇なんてなかった」
あたしはそう呟き、慌ててクローゼットを開いたのだった。
☆☆☆
デート当日はよく晴れていた。
あたしは佐恵子に負けないように白いワンピースにピンクのカーディガンを羽織って外へ出ていた。
歩いていると少し汗ばんでくるくらいの日差しだ。
約束場所の公園へ向かうとすでに佐恵子が到着していた。
昨日写真を送ってくれたワンピースをしっかりと着こなしている。
「おはよう佐恵子。今日は気合入ってるね!」
普段メークをしない佐恵子だけれど、今日はうっすらとブルーのアイシャドーが入れられている。
ワンピースとそろえた化粧にしたのだろう。
佐恵子は照れくさそうにほほ笑む。
「朱里も、今日は一段と可愛いね」
「えへへ。頑張ったからね」
今日のあたしはマスカラ3度塗りだ。
おかげで目元はお人形のようにパッチリとしている。
輝明が相手なんだから、これくらいの努力は当然だった。
2人で話をしながら待っていると、約束の5分前に2人が到着した。
輝明の私服姿はTシャツに黒のジーンズとシンプルなものだったけれど、首元にかけられたネックレスがブランドもので、シンプルでオシャレだった。
寺島の方は白いTシャツに灰色のパーカーと言った、ごく普通の服装だ。
「この4人で遊ぶことがあるなんて、なんか夢みたいだな」
歩きながら寺島がそう言った。
そう言われたらそうかもしれない。
あたしも、休日に寺島と会うことがあるなんて思っていなかった。
「本当にそうだよね。でも楽しい」
佐恵子は寺島が横を歩いているだけで、ずっと笑顔だ。
「今日はカラオケにでも行こうと思うんだけど、いい?」
あたしの横を歩く輝明がそう言った。
「うん。あたしは平気」
真っ先にそう返事をして、後の2人も同意してくれた。
正直、寺島がどんな歌を歌うのか想像もつかないけれど。
「よかった。行こうと思ってるカラオケ店、俺の兄貴が店長なんだ」
「嘘、すごいね!」
輝明にお兄さんがいることを今初めて知った。
王子王子と言いながらも、輝明のことなんて何も知らなかったのだ。
「それほどじゃないよ。でも、時々友達を連れて行ったら喜んでくれるし、割引にしてくれるんだ」
それはラッキーだ。
安いにこしたことはないし、輝明のお兄さんならきっとイケメンだろう。
期待しながら歩いていると商店街を抜けて裏路地へと入り込んで行った。
お店は一体どこだろう?
そう思っていると、輝明が十字路の角で立ちどまった。
そこにあるのは灰色のビルで、どう見てもなんのお店も入っていない。
「ここの地下なんだ」
輝明はニコニコとして言う。
あたしは佐恵子と目を見交わせた。
こんな、なにもない廃ビルの地下なんて行っても大丈夫だろうか?
そんな不安がよぎる。
「佐恵子ちゃん。怖いなら今日は別の場所に行こう?」
そう言ったのは寺島だった。
輝明を前にして佐恵子は返答に困っている。
「なにが怖いんだよ。地下だからか? 俺の兄貴が店長なんだから心配ないって」
輝明はどこかイライラとした口調でそう言った。
なんだか険悪な雰囲気になりそうだ。
「じゃあ、先にあたしが中の様子を見て来るよ。それで大丈夫そうなら、佐恵子を呼ぶから」
あたしは2人の間に入って言う。
「うん。じゃあそうしてくれる?」
佐恵子はホッとしたようにそう言ったのだった。
あたしと輝明の2人で地下へと進んで行くと、カラオケ店の入り口が見えた。
ドアを開けて中へ入ると右手に受付があり、奥へと通路が続いている。
入ってしまえば普通のカラオケ店と変わりないように見えるけれど、高校生だけで来るような場所ではないということが伺えた。
「ねぇ輝明。やっぱり今日は別の場所にしない? あたしと輝明の2人だけならいいけど、佐恵子と寺島もいるんだしさ」
2人の雰囲気とはどう考えても合わなかった。
奥へ進むとそこには広いラウンジがあり、お酒も飲めるようになっている。
やっぱりここは高校生が来る場所じゃないんだ。
「なんだよ、朱里ちゃんまでそんなこと言うのか」
輝明はそう言って大きくため息を吐き出した。
「別に酒くらい飲めばいいのに」
そう言う輝明にあたしは驚いてしまった。
まさか、お酒を飲むつもりだったのだろうか?
「ダメだよ。バレたらどうするの?」
「その時は俺の兄貴がどうにかしてくれる」
そうだとしても、ダメなものはダメだ。
こんなデートは望んでいない。
あたしはすぐにカラオケ店を出たのだった。
☆☆☆
結局、あたしたちは商店街をブラブラと歩いていた。
可愛い雑貨屋に入ったり、服屋に入ったり、それなりに楽しんでいたのだけれど、輝明は1人だけ仏頂面になっていた。
「そんなにカラオケが良かった?」
そう聞くと、輝明は冷めた声で「別に?」と、答える。
明らかに不機嫌だ。
「ごめんね。あたしが苦手だから」
佐恵子が気を使ってそう言ってくるけれど、初めてのデートでお酒を飲もうとする方が非常識だった。
「佐恵子ちゃんは、これが似合いそうだね」
悪い雰囲気を変えるように寺島が店頭に出ている服を差して言った。
それはブルーのスカートで、確かに佐恵子に似合いそうだ。
適当に言ったワケじゃなくて、ちゃんと見て言っているのがわかった。
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