第22話
☆☆☆
佐恵子と寺島の関係も、見ている限り順調そうだった。
大人しい寺島相手でも、佐恵子は色々と話しかけて時折笑い声も聞こえて来る。
「良い感じ?」
休憩時間に入って佐恵子にそう聞くと、佐恵子は頬を赤らめて頷いた。
「この糸って、本物なんだね」
そう言って嬉しそうに左小指を撫でる。
「でしょ? でもさ、切ってみればもっといい相手と出会えるよ?」
佐恵子は寺島が相手でも十分幸せそうだけれど、それ以上の相手は絶対にいるはずだ。
「ううん。切るなんてもったいないよ」
佐恵子が慌てた様子でそう言うので、あたしは首を傾げた。
「寺島でいいの? 佐恵子ならきっと、もっといい相手と結ばれるのに」
「寺島くんだって、十分にいい相手だよ?」
「えぇ? そうかなぁ?」
あたしは寺島へと視線を向けた。
今は1人で漫画本を読んでいる。
その見た目はやっぱりパッとしない。
あたしなら嫌だなぁ。
「あたしは朱里みたいに面食いじゃないもん」
「あぁ、そっか」
自分が面食いなことなんてすっかり忘れてしまっていた。
でも、付き合うならイケメンの方がいいのは、みんな同じじゃないのかな?
「まぁ、佐恵子がいいならそれでいいけどさ」
そう言うと、佐恵子は嬉しそうに頷く。
「今日は寺島くんと一緒に帰る約束をしてるの」
「そうなんだ。2人で?」
「うん」
そう言ってモジモジと俯く佐恵子。
その様子に直感が働いた。
「もしかして、今日告白するの?」
そう聞くと佐恵子はパッと顔を上げて「静かに!」と、指を立てた。
「心配しなくても誰も聞いてないよ。それより、するの?」
もう1度聞くと、佐恵子は顔を真っ赤にして頷いた。
「すごいじゃん! 絶対オッケーだよ」
「そ、そうかなぁ?」
あたしなら相手から告白してくれないと嫌だけれど、こんな短期間で告白を決めた佐恵子はすごい。
「大丈夫大丈夫。そうだ、今度ダブルデートしようね」
「え?」
「佐恵子と寺島、あたしと草山くんの4人で」
「えっと……。いいけど、まだ付き合ってないよね?」
「大丈夫大丈夫」
そう言い、あたしは笑ったのだった。
☆☆☆
その予想通り、お弁当を食べ終えた後あたしは草山くんに呼び出されていた。
ひと気のない校舎裏で男子と女子が2人きり。
そんな場所で行われることなんて、1つしかない。
「朱里ちゃん、俺と付き合ってくれない?」
草山くんからの告白にあたしは内心ニヤリと笑った。
やっぱり、きた!
わかっていたことだったけれど、いざ学校1の王子様に告白されるとなると、さすがに緊張した。
「あたしでいいの?」
あたしはあえてそう質問してみた。
すると次の瞬間、あたしは草山くんの腕に包まれていたのだ。
突然のことで頭の中は真っ白になったけれど、徐々に草山くんの温もりを感じられるようになってきた。
「朱里ちゃんがいい。ずっと誰とも付き合って来なかったけれど、どうしても我慢できないんだ」
そう言って、あたしの体をキツク抱きしめてくる草山くん。
あたしが想像していた以上に、草山くんはあたしにぞっこんのようだ。
気分が良くてあたしは草山くんの腕の中でほほ笑んだ。
そして、草山くんの背中に両腕を回した。
「そう言ってもらえてうれしい。あたしも草山くんのことが好き」
「本当に!?」
一旦身を離し、驚いた表情でそう聞いてくる草山くんに、あたしはコクリと頷いた。
「うわっ……。今本気で嬉しい!」
そう言って耳まで真っ赤にする草山くん。
こんな王子のすがた、きっと誰も見たことがないだろう。
そう思うだけで優越感があった。
「じゃあ、今日から俺たち恋人同士ってことでいい?」
「もちろん」
あたしが頷くと、草山くんは更に強い力で抱きしめてきた。
少し苦しいくらいだ。
「今日から輝明って呼んでもいい?」
「もちろん。よろしくね、朱里ちゃん」
教室へ戻って来たあたしは佐恵子の姿を探したけれど、いなかった。
寺島の姿もないから、もしかしたら一緒にいるのかもしれない。
しばらく待っていると佐恵子と寺島が手を繋いで教室へ入って来るのが見えた。
2人とも頬が赤らんでいて、なにがあったのか一瞬にして理解できた。
「お前ら付き合ってんの?」
寺島の友人が大きな声で2人へ声をかける。
クラスメートたちの視線が一気に2人へと降り注いだ。
佐恵子は耐え切れなくなったようで、俯いてしまった。
しかし、寺島の方は笑顔でその質問に答えている。
「うん」
たったそれだけの返事で、教室中がざわめいた。
大人しい寺島に彼女ができるなんて誰も想像してなかったのだろう。
まだ俯いたままの佐恵子を見て、あたしは駆け寄った。
「佐恵子、良かったね!」
明るい声でそう言うと、佐恵子は顔を上げて照れくさそうな顔をした。
「なんだよ、どっちが告白したんだよ」
「俺から」
そう言って頭をかく寺島に驚いた。
てっきり佐恵子がフライングで告白したのだと思った。
「実はあたしも……!」
そこまで言って、あたしは言葉を切った。
告白の後、輝明からクラスメートには秘密にしておくように言われていたのだ。
輝明くらい人気が高いと、色々と混乱が起こるからだった。
それは理解しているつもりだったから、あたしも素直に了承した。
でも……。
こうして堂々と彼氏彼女を名乗れる2人を見ていると、なんだかちょっと複雑な気分になってしまった。
「なに?」
そう聞いてくる佐恵子に「なんでもない」と、返事をしたのだった。
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