第19話

「まぁ、そういうことにしておこうか。それで? 次は誰だったの?」



「大田君」



ヒョロリと背が高くて頭の良い1年生。



悪くない相手だと思ったけれど、あまりにも会話が続かなかった。



それに、高原よりカッコイイというだけで特別イケメンでもなかった。



「それで話かけてたんだ……」



ようやく謎が解けたようで佐恵子が囁くような声で言う。



「うん。高原に比べれば随分マシでしょ? だからいいかなって思ったけど、やっぱり違った」



「それで、また糸を切ったの?」



「当たり前じゃん」



パンケーキを食べきり、ナプキンで口元をぬぐった。



佐恵子のプリンはまだ全然減っていない。



「で、次につながったのが二村先輩?」



「そういうこと」



ようやく理解してくれたみたいだ。



「でも、別れたんだよね?」



「うん。やっぱり、違ったから」



そう言うと、佐恵子はしかめっ面をして息を吐きだした。



「運命の相手って、そんなにコロコロ変えていいものじゃないと思うけどなぁ」



「大丈夫だよ。佐恵子には見えないだろうけど、また糸が繋がってるんだから。それで、その相手はきっと二村先輩よりもいい人だよ」



今までがそうだったんだから、そうであると確信を持っていた。



「そうかなぁ? 正直、また朱里の話は信じられないな」



そう言って佐恵子はようやくプリンを口に運んだ。



「いいよ信じてくれなくても。だけど、あたしが王子様を探してることはわかったでしょ?」



「うん、まぁ、それはね」



佐恵子はぎこちなく頷く。



いつか信じてくれればいい。



そう、思っていたのだった。


☆☆☆


翌日。



下駄箱へ向かうと佐恵子の後ろ姿を見つけてあたしは駆け寄った。



「おはよう佐恵子、どうしたの? 今日はいつもより早いね?」



「おはよう朱里」



そう言いながら、あたしから視線を逸らせる佐恵子。



なんだか、ほんのりと頬が赤くなっている。



「もしかして熱っぽいの?」



そう聞くと、佐恵子は左右に首を振った。



「ううん、そんなことないよ」



「でも、顔が赤いよ?」



佐恵子はあたしの言葉に反応して、更に真っ赤になってうつむいてしまった。



熱が出ているのではなくて、なにかに対して照れている様子だ。



でも、なにに?



いつもの登校風景が広がるばかりで、佐恵子を照れさせるものなんてどこにも見当たらない。



「別に……平気」



そうは言っても、全然平気そうには見えない。



赤い糸の相手を探しにいくつもりにしていたけれど、どうやらそれ所ではなさそうだ。



「平気じゃないでしょ? 保健室に行く?」



「本当に平気だから」



そう言って佐恵子があたしの手を掴む。



そこまでして引き止める理由がわからなかった。



「あのね……あたしも昨日、夢を見たの」



ゆっくりと歩き出しながら佐恵子が言った。



「夢って、もしかして神社の!?」



思わず声が大きくなってしまう。



佐恵子は顔を赤らめて何度も頷いた。



「嘘……」



「それで、朝起きたら左の小指に赤い糸が見えて……」



あたしの目にはなにも見えない。



けれど、佐恵子には見えているのだ。



それは、あたしの赤い糸と全く同じものだった。



嬉しさを感じる半面、佐恵子が嘘をついているのではないかという疑念が浮かんだ。



昨日のあたしの話を聞いて、面白半分でからかっているのかも。



佐恵子のことだからそんなことはしないと思うけれど、ちゃんと確認しておいた方がよさそうだ。



「ちなにみ、神社ってどんな感じだった?」



教室に到着し、鞄を置いてからすぐに会話を再開させた。



「古くて、すごく小さな神社だったよ。鳥居と拝殿しかなかった」



あたしが夢に見た神社と似ている。



「それに、落ちてた小銭がすごく古いものだったの。あれ、本物だったのかな……」



夢の内容思い出すように、空中へと視線を投げかけてそう呟く佐恵子。



「和同開珎?」



「そう! それ!」



あたしの言葉に佐恵子は目を見開いて頷いた。



やっぱりそうなんだ。

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