第15話
☆☆☆
二村先輩から告白されてから、初めての登校日が来ていた。
「おはよう朱里。今日はなんだか可愛いね?」
いつものように下駄箱で声をかけてきた佐恵子が、そう言ってあたしの顔を覗き込んだ。
「ちょっとメークを変えてみたの」
二村先輩とのデートの後、ファッション雑誌を購入して自分に似合うメークを勉強し直したのだ。
「いいと思うよ。ふわふわっとして女の子らしくて」
「へへ、ありがとう」
褒められると素直に嬉しくて、頭をかいた。
「恋してるから?」
階段を上がりながら佐恵子がそう聞いて来たので「そうかも」と、ほほ笑んだ。
「嘘、本当に? 相手は二村先輩?」
「そうだよ。言ったじゃん、王子様だって」
「言ってたけど、本当に本気になったの?」
まるであたしが彼氏をとっかえひっかえしているような言い方に、ちょっとだけムッとなった。
「本当に本気だよ。実はこの前二村先輩から告白されたんだよね」
「なにそれ! 聞いてないよ!?」
「佐恵子の驚く反応が見たくて、黙ってたんだもん」
あたしはそう言って笑った。
佐恵子は期待通りの驚きを見せてくれる。
「じゃあ、もう2人は付き合ってるってこと?」
「うん」
あたしは自信満々に頷いた。
昨日だって二村先輩と電話やメッセージをした。
「なんで朱里ばっかり?」
佐恵子は腕組みをして首をかしげている。
「可愛くないって言いたいの?」
「そんなわけないじゃん。見た目の話じゃなくて、好きな人がすぐにできるって話だよ」
そう言われて納得した。
「そんなの、なんとなくの雰囲気だよ」
「雰囲気?」
「うん。好きなタイプかも? って思って近づいて、そうなのかそうじゃないのか判断すればいいの」
あたしの考えは佐恵子には伝わらなかったようで、更に首を傾げさせる結果になってしまった。
「付き合ってから好きになってもいいと思うよ?」
「そんなもん?」
「そんなもんだよ」
あたしはそう言い、笑ったのだった。
☆☆☆
休憩時間中に窓の外を見てみると、サッカーをしている二村先輩の姿を見つけた。
「あー、やっぱりカッコいいかも」
ここからじゃよく見えないけれど、それでもカッコよさは十分に伝わって来る。
「本当に二村先輩の事が好きなんだね」
隣にいた佐恵子が安心したようにそう言って来た。
「そうだよ。だから付き合ったんだもん」
返事をしても、グラウンドにいる二村先輩から視線を外さなかった。
二村先輩はベンチへ向かって歩いている。
その時、見知らぬ女子生徒がベンチへと駆け寄って行く姿が見えた。
二村先輩になにかを手渡ししている。
「なにか受け取ったね」
その様子を見ていた佐恵子が呟く。
「そうだね」
ここからじゃなにを受け取ったのかわからない。
二村先輩は相手の子と数回話をして、またグラウンドへとかけていく。
今の様子を見ていると女の子に呼ばれたからベンチまで行ったようにも見えた。
ま、いっか。
きっとあたしにも教えてくれることだと思い、あたしは深く考えなかったのだった。
☆☆☆
放課後になり、サッカー部の練習が終わるのを待ってからあたしと二村先輩は並んで帰っていた。
「先に帰っててよかったのに」
空はもうオレンジ色に染まっている。
「二村先輩のカッコいい姿を見たいですから」
あたしはそう返事をした。
嘘ではなかったし、待つことは苦痛ではなかった。
でも、少し気になることはあった。
前にあたしに話かけて来た3人組の女子たちが、またサッカー部の練習を見に来ていたのだ。
さすがにあたしに話かけてきたりはしなかったけれど、堂々と二村先輩の応援をし、二村先輩もそれに答えていた。
その様子がひっかかったのだ。
「ははっ、ありがとう」
二村先輩はそう言って立ち止まった。
気が付けば家はもう目の前だ。
「じゃあ、また明日」
そう言って唇を寄せる二村先輩。
あたしは目を閉じて、それに応じたのだった。
☆☆☆
二村先輩との関係はなにもかもが順調だった。
放課後デートも休日デートも、二村先輩はあたしを楽しませてくれる。
女の子向けの雑貨屋さんにも一緒に入ってくれるし、文句なんて1つもない。
「順調そうでよかったね」
ある日の昼休み中、佐恵子がそう言って来た。
「え?」
「二村先輩と。一時期はどうなるんだろうって思ったもんね」
佐恵子はそう言い、思い出したように含み笑いを浮かべた。
「まぁね。誰が王子様なのかわからなかったからね」
「二村先輩を見つけたんだね。いいなぁ朱里は」
今度はため息を吐き出す佐恵子。
「佐恵子も彼氏を見つけたらいいのに」
「それはそうだけど。好きな人って簡単にできるわけじゃないでしょ?」
「そうかなぁ?」
佐恵子みたいに、ちゃんと好きになってから付き合おうと思ったら時間がかかって仕方がない。
そんなことをしていたら、あっという間におばあちゃんになってしまう。
「なんで二村先輩のことを好きになったの?」
そう聞かれて、あたしは返事に困ってしまった。
あたしの小指には相変わらず赤い糸が結ばれている。
これを手繰り寄せた相手が二村先輩で、あたしもときめいたから。
なんて、言えない。
「前から気になってたんだよね」
これは嘘じゃない。
二村先輩の噂も、よく聞いていた。
「そうなんだ?」
「うん」
「でも、それならどうしてカオル君と付き合ってたの?」
「それは……」
もちろん、好きだったからだ。
二村先輩へのファン心とは違う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます