第14話

「二村先輩! あの子たちが……」



しおらしくそう言い、女子3人組を指さす。



「なに? 朱里ちゃんになにか用事?」



「い、いえ、なにもないです!」



そう言って蜘蛛の子を散らすように逃げ出す3人に、あたしは心の中でベーっと舌を出してやった。



ざまぁみろ。



二村先輩に見られたから、もう応援にも来られないだろう。



「大丈夫? 怪我とかしてない?」



「大丈夫です。二村先輩のおかげで無事でした」



あたしはそう言ってほほ笑んだ。



「そっか、それならよかった」



「今日、2度も助けてもらっちゃいましたね」



「あぁ。別に気にすることないよ」



「でも、なにかお礼がしたいです」



そう言うと二村先輩は困ったように首を傾げた。



「本当に、なにも必要ないよ?」



「先輩がよくても、あたしが嫌なんです。あ、そうだ! 明日一緒に映画でも観に行きませんか?」



「映画?」



「ダメですか? あ、サッカーの練習がありますよね。ごめんなさい」



すぐに謝ると、二村先輩は慌てて「明日は休みだよ」と、言って来た。



「本当ですか?」



パッと笑顔に花を咲かせる。



「あぁ。映画、楽しみにしてるね」



そう言うと二村先輩はあたしの頭をポンポンッと撫でたのだった。


☆☆☆


やっぱりこの赤い糸は最強なんだ。



結ばれた相手とならいくらでも上手く行く。



あたしは家に戻ってからクローゼットを開き、明日着て行く服を選んでいた。



選びながら、自然と鼻歌がでてきてしまう。



「楽しみだなぁ」



帰る前に二村先輩とは番号交換もしているし、本当に最高の気分だった。



女子3人組の青ざめた顔を思い出すと笑えて来る。



あの子たちはあたしには勝てない。



ううん、世界中の誰もあたしには勝てない。



ついに見つけた王子様を、絶対に手放すつもりはなかったのだった。


☆☆☆


翌日。



とても天気がよくて清々しい朝だった。



二村先輩とは10時に映画館の近くで待ち合わせをしている。



その後2人で映画を観て、お昼ごはんを食べる予定にしていた。



「あら、今日は随分可愛い恰好ね」



うすピンク色のワンピースでリビングに入ると、母親がそう声をかけてきた。



「カオル君とデート?」



「カオルとは別れたよ、ちょっと前に」



そう言うと、母親は驚いた顔をこちらへ向けた。



「そうだったの? じゃあ、今日はどこへ行くの?」



「王子様とデート」



あたしはそう答えて、スキップしながら家を出たのだった。



私服姿の二村先輩もカッコよかった。



2人で歩いていると通行人が時々振り返ってはコソコソと話をし始める。



きっと、お似合いのカップルだとか言われているんだろう。



そう思うととても気分が良かった。



カオルと付き合っているときよりも、周囲の反応が大きい気がする。



「映画面白かったなぁ」



人気のSF映画を観終えた後、先輩は満足そうにそう言った。



「本当ですね。あたし、こういうジャンルはあまり見ないんですけど、良かったです」



歩きながらそう言うと、二村先輩が「え?」と、首をかしげてきた。



「この映画選んでくれたのって朱里ちゃんだよね? もしかして、俺に合わせてくれたとか?」



そう聞かれて、あたしは頷いた。



隠している方が良かったかもしれないが、二村先輩の好みをリサーチしていたのだ。



「そっか。なんか嬉ししいなぁありがとう」



そう言う二村先輩は本当に嬉しそうに笑っている。



その笑顔を見るだけで、あたしには満足感があった。



「昼ご飯は俺に奢らせてよ。っていってもファミレスだけど」



「いいんですか? あたしがお礼にって誘ったのに」



「そのくらいのことさせてよ」



そう言い、二村先輩はあたしの手を握りしめて来た。



それはとても自然な行為で、あたしの心臓はドクンッと大きく跳ねた。



二村先輩となら、本当に上手くやれそうな気がしてきた。



そしてデートも終わり、家が見えて来た頃だった。



「今日はありがとう。楽しかったよ」



そう言って、二村先輩があたしの手を離した。



二村先輩の温もりが遠ざかると、なんだか寂しい気持ちになる。



「いえ、こちらこそ」



あたしはそう言ってお辞儀をしたけれど、すぐには動かなかった。



二村先輩も帰ろうとしない。



太陽は西へと傾いて、空はもうオレンジ色になっている。



「あのさ、朱里ちゃん」



二村先輩の声が少しだけ震えている。



あたしは自然と背筋を伸ばして、二村先輩を見上げた。



「俺と付き合ってくれない?」



その言葉にあたしの心臓はまた跳ねた。



今度はドクドクと早鐘を打ち始める。



「……はい」



返事をして頷いた次の瞬間、二村先輩の唇の温もりを感じていたのだった。

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